第58話『湯けむり温泉大騒動!俺の平穏返してくれ』
温泉。それは人類に与えられた最高の癒し――であるはずだった。
「お〜いヨシオ〜! こっちこっち〜!」
俺が脱衣所から出るなり、ウケールが湯船のど真ん中で仁王立ちしていた。後光すら差している。というか、差して見えるだけだ。なんだそのポーズ。
「なんでお前だけ、すでにサウナ行った後みたいな顔してんだよ」
「気合入れて10分で3回入った!」
「バカか! 水分摂れよ死ぬぞ!」
広々とした岩風呂、開けた空、そして周囲の山々に囲まれた自然の露天風呂。……なのに、俺の目の前にはオッサン化したウケールの顔と、垂直に飛び跳ねる泡だけ。
「……これが癒し?」
いや、癒しはこの後だ。
男湯と女湯は柵で仕切られてるけど、俺たちのパーティは男女混成。さっきミーナが「貸し切りにしてあるから安心してね~♪」って言ってたし、リリィもエリュもこっちに来る予定――
「よし、紳士として正座して待つか……」
「見苦しいな、お前」
エリュの冷たい声が背後から聞こえた。って、早い! 来るの早い!
「うわっ、もうこっち来たのか!? 早くね!?」
「別に。着替えるのも時間かからないし」
あっという間に、柵の向こう側にはエリュとリリィの姿。タオルを巻いて、湯に浸かっていた。
「ふふっ。こういうの、意外と新鮮でいいわね~。ね、ヨシオ?」
「うおおおおおぉぉぉ! なんて破壊力だこの角度は!!」
「見てんじゃねぇ! 鼻血出てるぞ!」
ウケールが頭から湯に沈められた。
……そんな温泉パートが続くと思いきや、事件の予感が唐突に忍び寄る。
バシャッ、と音がして、湯面の一部が突然ざわついた。
「……え?」
俺たちは一斉にそっちを向く。
「なにこれ……黒い……水?」
湯の中に、明らかに異質な“影”のようなものが混ざっている。
「魔素の反応? いや……これ、ただの闇属性魔力じゃない」
エリュが眉をひそめ、リリィも真剣な表情になる。
「この空間……なにか、歪んでる?」
俺たちが言葉を交わすより先に、ウケールがいきなり叫んだ。
「おいっ! 柵の向こう、空間が歪んでるぞ!」
まるで空間が“裏返って”いくように、女湯の向こうに裂け目のようなものが現れた。
その裂け目の先に――
人影が見えた。
金髪で、武装した女性。だが、明らかにこちらの世界の住人じゃない。
「誰……?」
「……見つけた」
女はそう呟くと、裂け目がスッと閉じ、まるで何もなかったかのように消えた。
……俺たちは顔を見合わせるしかなかった。
「今の……なに?」「あれって……敵?」
「まさか、夢の宝船と関係ある……?」
風呂場に残されたのは、湯けむりと静寂だけだった。
「……これって、平穏な日常回じゃなかったのかよ……」
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「いやマジで、なんなんだよ今の……」
湯気でぼんやりしてた空間の裂け目が消えた後も、俺の心臓はまだバクバクいってる。
「誰か、この件、ギルドに報告しなきゃダメだろ」
リリィが真顔で言った。普段はあんなにふわっとしてるのに、こういう時はキリッとするからカッコいい。
「でも急に温泉で異空間とか、マジ勘弁してほしいな。せっかくの癒しタイムなのに」
ウケールが文句を垂れてるけど、俺はむしろワクワクしてた。バトルはギャグ抑え目でって言ったけど、こういう謎解きや調査は燃えるんだよな。
「よし、決まりだ。温泉の謎の裂け目調査クエスト、俺たちで受けようぜ!」
「いいわね、ヨシオ。ついでに温泉また入り放題だし」
リリィがはにかみながら笑う。
「じゃあその前に、もうちょっと休憩してからギルドに報告しようぜ」
俺は湯船の縁に腰掛けて、ほっと息をついた。
「……ふぅ。いい湯だった、とは言い難いがな」
そう言いつつも、俺の心はもう冒険の予感でいっぱいだった。
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俺たちは湯からあがり、しっかり体を拭いてからギルドに向かった。温泉街の賑わいを通り抜けるたび、なんだか日常の安心感が戻ってくる。
「……だけど、あの裂け目、一体何だったんだろうな」
エリュが静かに呟く。普段は陽気な彼女の言葉に、俺もつい真剣に考え込んでしまう。
「いや、絶対ただの魔素の乱れじゃない。これは何かの兆候だと思う」
リリィも顔を曇らせていた。
「ギルドの長老に話を聞いてみるべきだね」
俺たちはギルドに到着。長老はいつも通り、ゆったりと椅子に座りながらも、その目は鋭く俺たちを見つめていた。
「温泉での異空間の裂け目……か。面白い。実は最近、同様の報告が他の地域からも上がっている」
長老の言葉に、俺たちは一斉に顔を見合わせる。
「それは……一体何なんだ?」
「これは異世界の力がこの世界に浸食し始めている証拠。お前たちのクエストは、その浸食の原因を突き止め、阻止することだ」
「よし、俺たちに任せろ!」
「その前にまずは準備だ。強力な魔法アイテムを用意し、情報を集める。安全第一でな」
長老の指示に、俺たちは気を引き締めた。
「おっと、その前に……」
リリィがにっこり笑いながら俺の腕をつかむ。
「ヨシオ、これからもっと一緒に過ごす時間が増えるかもね?」
「お、おう……って、何で急にそんな顔するんだよ!」
俺は照れながらも、心のどこかで嬉しさを感じていた。
これから始まる本当の冒険に胸を高鳴らせながら、俺たちは動き出すのだった。
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