第54話『笑いの迷宮、そして無表情な少女』
俺たちはギルドの受付嬢から渡された地図を手に、森の奥へと足を踏み入れていた。今回のクエストは「笑いの迷宮」とかいう、なんともふざけた名前のダンジョンの調査だ。
「なぁ、ヨシオ。なんでよりによって“笑い”の迷宮なんだ? 敵がギャグとか言ってくるのか?」
ウケールが眉をしかめる。
「逆にそれ、こっちがギャグで応戦すれば相殺されるんじゃね?」
俺が軽口を叩くと、リリィが呆れた顔でこちらを見た。
「それで本当に命が助かるなら、あなたはすでに不死身のギャグ戦士よね」
「やかましいわ!」
いつもの調子で突っ込みを入れつつ、俺たちは迷宮の入り口に到着した。木々が鬱蒼と茂り、地面には奇妙なマリオネットのような像が並んでいた。どれも顔がにやけていて……正直、不気味。
「入るよ。みんな、気を引き締めて」
リリィの言葉で、一同頷いた。
迷宮の中は、想像以上に静かだった。石造りの通路に淡い光が差し込んでいるが、不気味なほど物音がしない。
と、そのときだった。
「……誰?」
突如、声が響いた。驚いて前を見ると、そこにいたのは――
「……少女?」
10歳くらいに見える、人形のように整った顔立ちの少女。白いドレスを着て、壁にもたれかかっている。
「誰? ……あなたたちは、また“笑わせに来た”人たち?」
「笑わせに……?」
彼女は無表情のまま、淡々と語り出した。
「この迷宮では、笑わなければ……出られない。でも、私は笑えないの」
どうやらこの少女、迷宮に囚われて長いらしい。しかも、“笑えなければ出られない”という、謎の呪いがあるようだ。
「つまり俺たちがこの子を笑わせれば、クリアってことか?」
ウケールが拳を握った。
「よし、なら俺の十八番いくぜ。『ホラ、焼きそばパン買ってこいよ』って命令してくるヒョロい上級生のモノマネ!」
……沈黙。
「し、渋いのいったなウケール。あ、俺もやってみる!『肩幅が宇宙レベルな冒険者のギャグ! “ボディがでかすぎて、ドアが拒否反応!”』」
……完全沈黙。
「……レベルが低い」
少女が、ぼそっとつぶやいた。
俺とウケールが床に崩れ落ちていると、リリィが前に出た。
「仕方ないわね。女は度胸よ」
彼女はポケットから何かを取り出した。
……バナナの皮だった。
「ズルッ」
彼女は自分でバナナの皮に乗って、派手にスライディングして倒れ込んだ。しかもその瞬間、地響きのような音とともに、天井から謎の紙吹雪が舞い降りる。
「!? 反応が――ある!」
少女の口角が、ほんの少しだけ、ピクリと動いた。
「……クスッ」
その瞬間、迷宮の壁がゆっくりと開いた。どうやら、本当に笑わせることで突破できる仕組みらしい。
「やった……! リリィ、最高!」
「まさか自分の身体を張ることになるとは……羞恥プレイだったわ」
俺たちは、迷宮を脱出しつつあった。
少女は、俺の袖をつかんで言った。
「……ありがとう。久しぶりに、面白かった」
「名前、教えてくれないか?」
少女は少し考えてから、ぽつりと答えた。
「ミーナ。私は……元は旅芸人だったの。でも、もう一度、外に出たい」
そのまま、少女――ミーナは俺たちのパーティーに加わることになった。
ウケールが肩をすくめる。
「やれやれ、また賑やかになりそうだな」
俺は笑って答えた。
「笑わせてやろうぜ、毎日。ギャグだろうがなんだろうが、全力でな」
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迷宮を抜けてからというもの、俺のパーティーは少し賑やかになった。なんせ、無表情だけど実は笑いのツボが渋いミーナが仲間入りしたんだからな。
ギルドに戻ると、受付のサラが「あら、ヨシオさんたち、おかえりなさい! ミーナちゃんもね」と笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。今回は無事に迷宮クリアできたよ」
俺がそう答えると、仲間たちも疲れながらも満足そうな顔で戻ってきた。
「ヨシオ、ミーナちゃん、さっそく次の依頼をチェックしようぜ」
ウケールが早速掲示板をのぞき込む。
「お、面白そうなクエストあるな。『闇の森の魔獣討伐』だってよ」
リリィが首をかしげながら言った。
「魔獣か……まあ、行けそうね。でも、今回も慎重にいかないと」
ミーナはまだ表情が硬いが、すでに仲間として馴染んでいるのが不思議だった。
「俺はみんなといると安心する。これからも一緒に戦っていこうな」
そう思いながら、俺は仲間たちの笑顔を見た。
さあ、次の冒険がまた始まる。けど、その前に……
「ヨシオ、今日はギルドでのんびりしようぜ。ミーナちゃんも疲れてるだろ?」
ウケールの提案に俺も賛成した。
「そうだな。みんなで楽しく過ごそう。明日に備えてな」
こうして、俺たちのギャグと友情に満ちた日常は続いていくのだった。
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