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追放されしニート。土地持ちとなり、異世界との交易で村興しをする  作者: バッド
4章 再会を楽しもう

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77話 魔王を見逃さない僕

 僕らは東京からの使者ということで、応接間に案内された。まだ驚くことにエレベーターとかいうのが動いており、20階に案内された。平和すぎて反対に拍子抜けだ。ソファに座り、出されたコーヒーを飲みつつ、穏やかな空気の中で自己紹介をしていく。


 相手はとても優しそうな聖女砂木桃さん。階位も高いので、恐らくはSランクという冒険者なんだろう。ここまで階位が高いと改宗は難しいだろう。


 人懐っこそうな笑顔で、僕たちをにニコニコと見てきて、鑑定されたことにも怒る様子はない。


「そうですか、あの巨人はゴーレムでしたか。凄い大きくて、倒すのに大変だなぁと焦ってしまいました」


 言外に簡単に倒せるとの自負が垣間見えるが、あれは魔力で補強しているだけのスクラップゴーレムだから、たしかに弱いんだ。それでもあの巨漢は威圧感があり、簡単に倒せるとの言外でのセリフに美原さんがピクリと眉を動かす。警戒しているんだろう。


 だが、鑑定で彼女が魔王ではないことは証明されている。


「てい」


「うさー」


 なので、ペイッとロロを投げつける。ロロは四肢を伸ばして、桃さんに張り付こうとして━━。桃さんは素早く手をかざし、早口で詠唱を唱える。


『魔なる力よ障壁となれ』


 ペタンと半透明の壁に阻まれてずりずりと落ちる。桃さんが発動した魔法障壁に阻まれてしまうのだった。というか、なんで冒険者なのに詠唱を含んだ魔法を使えるのかな?


「くっ、マセット引っ掛けたわね!」


 ソファから飛び退きながら罵る桃さん。忌々しそうな顔をしているけど、引っかかった方が悪いんでしょ。


「僕がどれほど魔王や魔族を討伐してきたと思ってるんですか。そういう隠れ方には慣れてるんです。僕の名前を聞いた魔族はだいたい警戒しすぎて引っかかるんですよね。小石を投げたりウサギを抱かせようとすると、罠だなと勝手に勘違いして、魔法を発動させるんです」


 ロロは念の為と投げたブラフの攻撃だったんだ。可愛らしいみみうさぎが投げられたら、普通は受け取り抱きしめる。そこまでしなくても魔法で防ごうなんてやりすぎだ。


「くっ、この卑怯者が! ここは怪しいと思って情報を集めるところでしょ!」


「そういうのは無駄だとハンターは学んだんです。シティアドベンチャーに必要なのは力押しする頭の良さなんですよ」


「口だけは達者なやつ!」


 皆が突然の展開に驚き動けないのを横目に僕は炎華を抜き放つ。対して、桃さんは口を大きく開けていた。


「せ、聖女様? どうしたのですか?」


 側近たちはまだ現実を理解していないのだろう、戸惑って手を伸ばすが、その返しは嘲笑だった。


「口が! あ~っ、よくあるホラー映画パターン! 見つけるのが早すぎるけど気持ち悪っ!」


 小鉄さんが震え声で叫ぶのもわかる。限界を越えて口を開けるので、桃さんの顎が外れて喉まで裂けて、中からなにかが這い出て来ているのだ。


 地面に肉片が大量の血と共に落ちていき、辺りは一気に騒然となった。が、僕は舌打ちをして自身の迂闊さを呪った。対応を間違えたみたい。


「皆さん、下がってください。これは『魅惑の魔王』ではありません! 他の魔物、いえ、魔王です」


 僕の叫びが理解できたのか、這い出てきた肉塊はその体をぐねぐねと変形させて、人の姿へと変わる。


『ノックノック。うさぎのノック。お家を見せてくださいな。ほら、可愛らしいうさぎが訪れてますよ』


 僕の意図をすぐに理解して、ロロがぴょんと飛び跳ねると鑑定魔法を再度使用する。すぐにその結果は表示されて、暗鬱となってしまう。


『万魂の魔王シェムハザ:階位51』


「ふふふ、ははは、マセットよ、久しぶりじゃな。我の名前を覚えているか? 言ってみよ!」


 人型はローブを羽織った魔法使い風のお爺さんに姿を変えると、僕を睨んで問いかけてくる。


「じゃ、ジャキ? ジャギだったっけ?」


「アホっ、あんたは黙ってなさい!」


 小鉄さんがボケたらしく、初さんに蹴りを食らっていたけど、それどころじゃない。


「シェムハザさん、魔法使い隊の隊長さんもニートだったんだ。少し意外だよ」


 お爺さんはジュデッカ皇子の部隊の中の魔法使いを率いていたお爺さんだ。多様な魔法を使ってたけど、魔法使いではなかったのか。かなり驚きだよ。


「その姿………スライムに見えるけど、ドッペルゲンガーの最高位と見たけどどうかな?」

 

 変形する粘体。一見スライムに見えるけど、それにしてはポヨンといったスライム状ではなくて、ガシーンガシーンといった固い感じがしたのだ。その姿には心当たりがある。


「そのとおりだ。私は最高位のドッペルゲンガーにして魔王。万魂の魔王。あらゆるスキルを扱えるドッペルゲンガーよ」


 哄笑するシェムハザさんだけど、そういうハッタリはいらないよ。


「最高位ということは取り憑いた相手のスキルだけをコピーできるタイプでしょ? 食べちゃうとその人の意識や自我すらも完璧にコピーしてしまうのが、ドッペルゲンガーの弱点だけど、それなら大丈夫だもんね」


 ドッペルゲンガーは高位であらばあるほど、相手の能力も記憶もコピーできる。というか、その人になりきるので、ドッペルゲンガーの能力はそこでおしまいだ。誰かに化けるのではなく、その人自体が増えるだけ。でも、それを一部キャンセルできるのが最高位のドッペルゲンガーだ。


 相手に取り憑いて、魂に触れてそのスキルだけをコピーする。戦闘経験などはコピーできないから僅かに劣化するが、それは慣れれば問題ない。昔の勇者たちが倒すのに苦労したと記憶を読んだことがある。


「ふむ、噂通り知識の収集に手を抜かぬ男だな。そのとおりじゃ。それこそが万魂の魔王たるこの儂シェムハザよ」


 顎に手を当てて面白そうにシワだらけの顔を歪めて言う。認めてくれたので一安心だ。すると桃さんはまだ無事だね。


 ━━━にしても、ハンターギルドにはしてやられたな。


「こいつ、魅惑の魔王じゃないの? ハンターギルドはそう言ってたよね、まーくん」


 あかねさんが眉間にシワを寄せて尋ねてくるので、苦笑して答える。


「えぇ。ハンターギルドは嘘は言ってません。本当のことを言ってなかったんです。きっとここには魔王が二人います。僕が討伐に二の足を踏むと考えて言わなかったんでしょう」


 それにツーマンセルは帝国の標準戦法だ。帝国兵であった彼らが魔王二人で行動していてもおかしくない。


「それ酷いな。とすると魅惑の魔王は他にいるのか。どうするんだい?」


「ここは一つ、逃げましょう」


『燃え盛る焔よ。爆炎となれ、全てを爆発させよ』


 炎華を構えて、爆発の焔を作り出す。


「む、炎の魔法か。しかしながら儂には効かぬ! この聖女からコピーした技を見よ!」


聖盾展開ホーリーウォール


 シェムハザが聖なるバリアを自身に展開して身を守ろうとする。そうだろう、そういう魔法で対抗してくれると信じてたよ。


 でも、短剣から噴き出す炎は敵を焼き尽くすのではなく、触れた瞬間に爆発を起こした。


「な!? 爆発もできるのか、儂の周りが!」


 動揺するシェムハザだが、既に遅い。バリアは完全にシェムハザを守ったが、その周囲は完全に砕いた。すると足元を支えるものがなくなり、シェムハザはあっさりと落ちていった。


 だってここ、20階だからね。戦闘する場所をミスったね、シェムハザ。既にその下の階層も炎を飛ばして破壊済みだ。


「皆さん、逃げますよ。ここは不利です、僕が戦える場所に移動しないといけません!」


「出会いから即魔王戦とかストーリーをスキップしすぎじゃないか? 聖女も抱えて逃げるんだ!」


 軽口を叩くと礼場さんはお姫様抱っこで桃さんを抱えて走り出す。他の面々も外に向かって走り出し、部屋はポッカリと空いた穴だけとなった。


「親分、逃げないうさ? 皆逃げちゃったよ?」


「あぁ、ここで逃げると魅惑の魔王と共に攻めてくるはず。ここが僕が勝利できる一番のタイミングなのさ。まさかいきなり正体バレするとは考えていなかったはずだからね。魅惑の魔王は他のところにいるはずだよ」


 氷華も抜き放ち、二刀となると呼気を整える。


『おぉ、怠惰の大天使ベルフェゴールよ。素早く仕事を終えて怠惰に過ごすため、我に強き肉体を与え給え』


 出し惜しみは無しだ。魅惑の魔王がこの事態に気づく前に片付ける必要がある。身体強化の魔法にて己の肉体を強化させ人類を超えるステータスへと変化する。そうして下を覗き込みながら待つこと暫し。


「マセット! いやさ、マンセマット。呆れたな、そなたは戦闘の美学を知らんのか?」


 バサリと白い翼を背中から羽ばたかせて、シェムハザは下から飛翔してくる。どうやら何匹か鳥などもコピーした模様。


「勝てば良いのさとは、ハンターの有名なことわざをお知りでない?」


「知っとるわ! だからこそハンターは大嫌いなのじゃよ!」


『風よ、嵐よ、竜巻よ、全てを薙ぎ倒し吹き荒れよ』


 4節の詠唱をするシェムハザ。その詠唱を聞いた時には僕はその場から離れて、ビル壁を蹴り壊して外に出る。瞬間、黒い嵐が球体となり作り出されて、応接間を呑み込んでいった。魔力耐性のないビルはあっという間に砕けた瓦礫一つ残さずに砂上の楼閣のように崩れていき消滅する。


「ひょえ~、恐ろしい威力うさ!」


「だね。皆が逃げる時間を稼がないと駄目だ。ここは屋上に向かうよ!」


 ビルの壁に脚をつけると斜めに駆け出す。直角だけど、魔力を流して壁から落ちないようにつなげると、絶妙な操作で登ってゆく。


「壁走りとは器用なやつめ!」


「あなたこそ、ニートなのに、あれだけの魔法を覚えたとは恐れ入るよ。大変だったでしょ? なのに、なぜ魔物になったんですか?」


 シェムハザが放つ風の矢をジグザグに走りかわし続けて尋ねる。このお爺さんがベカのようにジュデッカ皇子と夢を同じにするとはとてもではないが想像できないんだよね。


「ふん、もちろん皇子と組んだのはニートの住める国とか、自由なる世界とかよくわからない理由ではない。あやつが皇帝になったら、国の図書館の禁書を全て見せてもらえる約束だったのだ」


 高速で飛んでくるシェムハザは羽ばたきだけでビルを崩していき迫ってくる。なるほど、魔法の探求者だったか。時折いるんだよね、ニートとか関係なしに魔法にのめり込む人。


「そして今は変な女の誘いに乗って魔物となった。この能力さえあれば、魔物の魔法すらもコピーできる。この先、儂は魔法の深淵に辿り着けるだろう!」


「果たしてそうなりますかね。このマンセマットが立ちはだかるのですよ?」


 屋上にたどり着くと、空高く飛んで、屋上の中心に降り立つ。


 さて、魔王退治の時間だね。

アースウィズダンジョンのコミカライズがやってます。ピ〇コマなどで見れますので、よろしくお願いします!ピッ〇マなら、最新話以外は無料で見れます!

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― 新着の感想 ―
一番放置したらやばそうな魔王ですねw この爺さんの間違いは逃げなかったこと合流しようとしなかったことだな
 近頃の俺tueeeファンタジーでモンスター転生するとどんなモンスターでも弱点なんてあっさり克服し最強化する展開ばかりでドッペルゲンガーも「何にでも成れる万能の魔物」みたいに手に負えないベラボーな存在…
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