76話 名古屋のゾンビと僕
ゾンビはまだまだいたようで、バルモグラにわらわらと群がり、ビンチョーさんたちに襲いかかっていた。しかしながら、バルモグラはビンチョーさんの作ったゴーレムだ。耐久力は高く、ゾンビたちの攻撃をすべて受け止めて、ピンピンとしてゆっくりとパンチを繰り出す。パンチがコンテナを潰し、地面にクレーターを作る。ソンビが数体潰されて魔石に変わり、ビンチョーさんはローズさんの頭の上に乗り高笑いをしていた。
「バルモグラの耐久力は30万もぐよ。有象無象が削っても、びくともしないもぐー。さぁ、ドンドンかかってくるもぐよ」
「駄目ですわ! アリみたいな小物の敵にはガンガン耐久力を削られて、ろくに敵を倒せずに破壊されるパターンですわよ。それよりもう少しまともなゴーレムを━━━」
ビンチョーさんにローズさんが抗議しているけど、大丈夫っぽいから、先に進もうっと。
霧煙る中、僕たちは埠頭を脱出するのだった。
◇
名古屋の街は東京と見かけはあまり変わらないと、僕は到着して思う。でも、少し東京よりもマシなところがある。それは見上げないと全体がわからない高さの壁が建っているところだ。魔力は感じないのでハリボテではあるけど、それでも無いよりはマシだ。
「ここは人が住んでいるようですね」
「あぁ、壁に大勢の人々が集まってきているからな」
礼場さんの言う通り、壁の上には大勢の人々が集まって埠頭へと視線を向けて騒いでいる。まぁ、それもそうだ。埠頭ではバルモグラが盛大にゾンビたちとの戦闘を繰り広げているからだ。
「なんだあれは? 新しい魔物か?」
「軍は何をしてるんだよ! 戦車で撃墜しろよ、それくらいできるだろ!」
「駄目だ、この間の襲撃でほとんどの軍の車両は破壊されたらしいぞ」
皆は絶望の表情だ。たしかにどこからどう見ても襲撃に来た魔物に見えるもんね。コンテナを組み合わせた継ぎ接ぎゴーレム。その胸には核にされたみたいになっているローズさんがいるしね。
「これは言い訳を考えたほうが良さそうだな。説明をしないと大変なことになりそうだ」
美原さんが苦笑気味に言うけど、このままだと僕たちは魔王軍とか呼ばれそうだから、言い訳はたしかに必要かも。そうしないと壁の中に入れてもらえなさそうだし。
「それじゃ、ネゴシエーターに任せましょう。ローズさん、ネゴシエーターの出番………あ、あそこにいましたっけ」
『直感』を持つネゴシエーターが必要なのに、そのネゴシエーターが埠頭で暴れてます。早くも僕たちの計画を暗雲が━━━。
「大丈夫です、皆さん。この名古屋は聖女により守られている聖域。聖域には魔物は侵入してこないことが証明されているでしょう。ご安心ください」
「そ、そうだ。俺たちには聖女がいる。聖女がいるんだ」
「俺たちの住む街は守られているんだ!」
「あぁ、聖女様ばんざーい。聖女教ばんざーい」
神官のように清潔さと神聖さを魅せる白いローブを着た数人の人たちが手を挙げて人々を宥める。皆はその言葉に騒ぐのを止めて、落ち着いていく。
ふむふむ、なんだか魔王退治はうまくいきそうな予感がするよ。気のせいかな?
「あー、なんだかこの状態で入るのはマズイ感じがしないか?」
「なんつーテンプレ。あからさまに魔王が聖女のパターンだろ、これこのまま魔王を退治しに行ってもいいんじゃね?」
礼場さんたちが呆れた顔になるけど、たしかにそんな感じ。でもなぁ………。少し違和感がある。
「とりあえず入ってみましょう。状況を調べなくてはなりません。すいませーん、このドアを開けてもらって良いですか〜?」
ニコニコと笑顔で壁に立っている人々に声を掛けると、バルモグラに集中していた人々は僕たちを見て、ようやく気づいたらしい。
「なんだ、お前達は?」
「僕たちはマセット村からやってきた清廉潔白もがもが」
「悪いマセット君。話が面倒くさくなるので、俺が代わろう」
なぜか僕の口は美原さんに塞がれた。ハンターの口上を止めるなんて酷いよ、少し怒っちゃうよ!
「俺たちは東京から来た日本軍の者だ! この地の治安を守るために」
「せいじょあ~ちゃんとやってきまちた! あけてー、あーけーてー」
そして、美原さんはあ~ちゃんに口上を邪魔されちゃうのだった。なんか面白そうと目をキラキラさせて、ペチペチと扉を叩いている。あたちも聖女になりたいと思ってるのは目を見れば明らかだった。
「なんだ、聖女様と名乗るとは不届きな奴め。今行ってやるから少し待ってろ!」
門番らしき兵士が怒りの表情となり、他の者たちもあ~ちゃんを壁の上から睨んでくる。睨んでくる。どうやら聖女様はだいぶ人気があるようだ。
大きな金属製の扉がゆっくりと開くと、どやどやと兵士たちがやってくる。なにやら物騒な雰囲気で、美原さんたちが警戒心を露わに身構える。
相手も今にも攻撃してきそうな雰囲気だけど………。
「大丈夫ですよ、美原さん。戦う必要はありません」
「しかしこいつらは狂信者のように見えるぞ? 危険じゃないか?」
「えぇ、いつもなら僕も警戒しますが、今回は大丈夫です」
「大丈夫とは?」
「それは、まぁ……」
僕の言葉に納得いかないように困惑する美原さん。戸惑っているうちに、兵士たちはあ~ちゃんの目の前に立つと凄んでみせる。
「悪いが幼女でも聖女を名乗るのは許せねぇ。聖女ってのはこの世に一人なんだ」
「あ~ちゃんも! あ~ちゃんもせいじょになりましゅ。きゃー、あ~ちゃんせいじょ〜」
睨んでくる兵士たちを恐れることなく、キラキラと嬉しそうに見つめ返すあ~ちゃん。あ~ちゃんを睨み返す兵士たち。そんなにあ~ちゃんを見つめないほうが良いと思うんだけどなぁ。
「だから聖女は」
「あ~ちゃんはせいじょなんだよ? あ~ちゃんもせいじょだよね?」
じっと見つめ合うあ~ちゃんと兵士たち。
「だ、ダカラ」
「あ~ちゃんもあ~ちゃんも。あ~ちゃんもせいじょにけってーい!」
涙目になるあ~ちゃんに、兵士たちの目が虚ろになっていく。
「そ、そうだ。あ~ちゃんは聖女様だ! 偉大なる幼女にして聖女様ばんざーい! あ~ちゃん教ばんざーい!」
そして、兵士たちは万歳三唱をして、あ~ちゃん教に改宗するのでした。うんうん、これで中に入れそうだね。
「う、あの子の目を見てはいけないのか………エグい効果だな」
「基本的には大丈夫ですよ。駄目なのはあ~ちゃんがわがままを言うときです。僕以外だと耐えられないかもですね」
幼女の魅了の目は絶対なんだ。特に人気関係となると敵うものはいない。
「な、なんだ? なんで兵士たちは突然裏切ったんだ?」
「様子がおかしいぞ! なにか忌まわしい方法を使ったに違いない! 違いない、チガイナイ、……あ~ちゃんばんざーい! 幼女ばんざーい!」
兵士たちの様子を見ていた壁の上の人々が騒ぐが、すぐにおさまる。だめだよ、あ~ちゃんを非難する言葉を口にしたら。特にあ~ちゃんの眼の前で。今日はあ~ちゃんパワー全開だなぁ。
「ほらほら、あ~ちゃん抱っこしてあげよう。おいで」
「あ~い! あ~ちゃん、まぁしゃんに抱っこされるのだいしゅき!」
僕が両手を広げると、トテトテと走ってきて、ぽすんと腕の中に入ってくるあ~ちゃん。抱っこが大好きな幼女なのだ。
「? なんかいつもより幼女パワーが強くない? いつもは小鉄たち数人だけにしか効かないでしょ?」
「初さんのおっしゃるとおりです。普通ならここまで幼女に魅了はされません。これは他の魅了魔法がかかっているから、精神の壁がゼロなんでしょう。だから効き目がバツグンなんです」
初さんが不可解そうな顔となるけど、たしかにそうだ。壁の上にいる人々が全員幼女教に改宗するわけがない。そこまで強力な力ではないはず。これには裏がある。
「それじゃ、やはり聖女が魔王なんだな! 幼女教の使徒たる、この小鉄が成敗してやる!」
気合を入れて刀を構える小鉄さん。いつの間にか幼女教の使徒になったようだ。少しそれには疑問だけど、ま、いっか。
◇
名古屋の街並みは普通だった。特に魔物におそわれて破壊されている建物も見えずに、歩いている人たちも普通だ。東京のようにどこか危機感を持って、リュックを担いで歩いている人もいないし、店も普通にやっている。
僕たちは兵士たちに案内されて、市庁舎に向かっていた。幼女教に入った兵たちは喜んで案内してくれることになったのだ。
「見かけは普通のようですね。これはどういうことでしょうか?」
「そりゃ、聖女と名乗る魔王に支配されてるからでしょ。ほら、よくあるじゃん、魔王が人間を支配するために一見平和な街にする。裏では夜な夜な人間を食べている、とか」
「それ、よくありすぎてハンターは引っかからないですよ。古来から使い古された手法なんで。だから変なんですよね」
「あー、そっか。使い古されてるんだぁ………そうだよねぇ、リアルにファンタジーの世界に生きてたら、やる人いるよね。この場合魔王かな?」
たははと笑うあかねさんだけど、そうなんだ。使い古されているので、ハンターの笑い話にも使われている。
そうして、僕らは市庁舎に到着したんだけど━━━。
「よくぞいらっしゃいました。私が聖女砂木桃です」
出迎えてくれたのは、純白のローブを羽織った人々であった。にこやかに対応してくれるのは、先頭に立つピンク髪の少女だ。可愛らしい人から好かれそうな美少女だ。
『ノックノック。うさぎのノック。お家を見せてくださいな。ほら、可愛らしいうさぎが訪れてますよ』
『砂木桃:階位55(祝福により固定):職業聖女』
さっそくロロが鑑定を行うが、やっぱり魔王ではなかった。失礼というなかれ、ハンターは怪しいと、思ったら躊躇いはないのだ。こいつ怪しい……と証拠を掴むまで放置していたら大変なことになるパターンが昔はあったので、それを防ぐためにも鑑定をハンターは行う。失礼なことだから、よほどのことが無いと鑑定はしないんだけど、この場合必要なことだ。
「東京からいらしたとお聞きしておりますが、ここ名古屋は私の魔法『聖域』にて守られているので大丈夫です」
にっこりと微笑む聖女さん。なるほど、この土地は『聖域』で守られているのか。
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