75話 ゾンビたちを倒す僕
「ぎぇー、リアルだとゾンビってすんげー気持ち悪い! 生理的に無理! ゾンビはコンハザだけで間に合ってる! ゲームと違って、臭いもするし、音も気持ち悪いし、こえーっ!」
ひょえ~と叫んで、ブンブン刀を振り回す小鉄さん。グロい姿を魔物を前に完全に混乱していた。全員の心を代弁してくれた小鉄さんへとゾンビたちが乱杭歯を剥いて、襲いかかろうとする。
『ギラギラ燃えよ、ベキッと燃えよ。放て焔よ!』
だが小鉄さんにゾンビたちが触れる寸前に、初さんの杖から熱線が放たれる。一条の赤い光は空中を飛んでいき、ゾンビたちに触れると逆巻く炎へと変わり薙ぎ払っていく。ゾンビたちはその炎により焼かれていき、次々と倒れて灰へと変わっていく。
『風よ、バキッと魔の力で薙ぎ倒せ!』
実乃梨さんが風を巻き起こし、迫ってくるゾンビに、つむじ風を生み出すとその風の刃で斬り裂いて、ピンボールのように跳ね飛ばしていった。
二人の活躍でゾンビたちは一掃され、僕たちに余裕ができる。すごいや、ふたりとも。よくわからない詠唱だったけど、強力な魔法として発動したね。
「きゃー、あ~ちゃんも、あ~ちゃんもカッコイーまほーつかう!」
もちろんあ~ちゃんがこんなかっこいいシーンを見逃すわけがない。てててと前に出ると隠れていたのか、遅れて現れた残りのゾンビたちに手のひらをかざす。
「嫌な予感!」
それを見て、くるりと踵を返して逃げ出す小鉄さん。学習能力があったらしいけど、既にあ~ちゃんは詠唱を始めていた。
『はじけてー、メガコテツン』
「ギャー!」
すぐに魔法は発動し、ゾンビたちの中心に小鉄さんが出現すると爆発した。着ている服が。そして、服が弾けた衝撃波が周りのゾンビたちをよろめかせるのであった。以上、あ~ちゃんの魔法終わり。
「ギャー! まったく意味がねぇぇぇ! よえぇぇぇ!」
「あう、あ~ちゃんは生物は爆発できないのでしゅ。ごめんね小鉄しゃん」
「ひょえ~、それでよかったぁ〜」
パンツ1枚となった小鉄さんが刀を担いで逃げ惑い、その横を笑いをこらえながら、あかねさんと礼場さん、田草さんが入れ違いに走り抜ける
「ほらほら、どいたどいた。『パンチ』『キック』『ソバット』」
あかねさんの拳撃からの滑らかな蹴りへの移行による連撃。ゾンビたちに恐れることもなく、強烈な一撃を与えて、風船が弾けるように砕いていく。神技は魔力の糸を展開して発動させるので、隙も多いし、疲労もするが、近接での戦闘を考慮して、短い魔力の糸で発動時間を僅かな時間に抑えての攻撃。格闘センスの塊のような子だと感心しちゃうよ。
「どけどけ、『シールドバッシュ』」
「まとまったのが弱点だぜ! 『足払い』」
礼場さんがあえて大振りで盾を振るい敵の注意を引くと、押し寄せるゾンビを反対に神技により押し返すと、その隙に槍を持った田草さんが薙ぎ払う。この一ヶ月で鍛えられた連携プレイだ。ゾンビごときは相手にならない。
「マセットさん、わたくしの出番はどこに!? 敵をあっという間に殲滅してしまったではありませんか」
ローズさんは出遅れてオロオロとしちゃってるけど、ネゴシエーターなんだから仕方ないと思う。地道にこん棒で敵を倒していくしかない。
しばらく警戒していたが、今度こそ霧の漂う埠頭には静寂が訪れており、あ~ちゃんが落ちていた木の棒でカンカンコンテナを叩いても、なにもでてこなかった。
「ふぅ………ゾンビとは初めて見たよ。今までゾンビは見たことがなかったのに、今はそこら中にいる。………名古屋はゾンビパニックにより既に全滅していたか」
兵隊たちをまとめていた美原さんが落ち込んだ顔となり、周りの面々も事態を把握したのか、暗い顔になり顔を俯ける。間に合わなかったことによる罪悪感と、また人類圏の一つが失われたことによる悲しみが空気を支配し始めていた。
けれども落ち込むのはまだ早い。なにか勘違いしてそう。
「もしかして、なんとなくなんですが、この街はゾンビにより滅んだと思ってますか?」
「うん? そうなんじゃないのかい? ゾンビと言ったらアレだろ。かまれた相手もゾンビになるというパターンで、あっという間にアウトブレイクが起きて、ゾンビだらけの死の街になるのがパターンなんだが……違うのかい?」
「それはなかなか寝ない子や乱暴者の悪い子を脅すために作られた嘘話です。ゾンビに噛まれても毒状態になったり、熱が出て病気になりますがゾンビにはなりません。かんたんに回復できますし、こいつらはダンジョンの魔物ですね。多分モンスターピートが起きたんでしょう」
「!? そ、そうか、あれか、悪い子はなまはげが来るぞー的なものだったのか。ということは、ここはモンスターが増えすぎて、放棄した地域なだけなのか!」
美原さんの顔が明るくなり、他の面々も顔を見合わせて苦笑いをして肩を叩き合っている。うんうん、良かった良かった。でもゾンビピートはかなりの数だから、広範囲に展開していると思うけど、わざわざ言う必要はないか。
「よし、それではこれからは俺が指揮を取ろう。最初のブリーフィングの通り、軍は各班に別れて行動する。斥候による敵の探知。見つけ次第魔法での遠距離攻撃後、戦士たちが近接戦闘にて駆逐する。生存者を見つけたら、即時救出を優先するように。後方部隊は拠点の設置を急げ、どうやら、歓迎をしてくれる訳ではなさそうだからな。ハンター諸君はマセット君の指揮のもと自由に行動してくれ」
「了解しました! 全員行動開始。急げ急げ、敵は待ってはくれないぞ!」
美原さんは改宗を受けていない人だ。聖人という職業で、階位は固定された41。誰よりも高いから改宗していない。そして今は僕の作った武具を装備しているから、僕の次に強い。
一ヶ月経過したことにより、軍の人たちは階位10〜15に上がっている。そのため、かなりの戦力上昇となっていた。
キビキビと走り、整然とした行動をとる兵士たち。
「何かあーいうのかっこいいよなぁ、ミリタリーって感じで」
新たに用意した革鎧を着込みつつ、小鉄さんが憧れていると言わんばかりに目を輝かせて呟く。その後ろで額に手を当てて頭痛となったように初さんがため息を吐き、あ~ちゃんがかっこいいとの言葉に耳をピクリと動かして、ふんふんと鼻息を荒くしちゃう。
「よち、それではあたちがしきをとりましゅ。んとプリン美味しいのとおり、あたちはプリン派でしゅ。でも、ショートケーキもしゅきでしゅね。小鉄しゃんはあたちの指揮に従い突撃してくだしゃい。あ~ちゃんかっこいいー!」
とちゅげきーと、あ~ちゃんがポテポテと走っていき、コンテナが不規則に置かれる迷宮のような埠頭の中に消える。
「くっ、幼女を守るのは俺の使命。アスモデウス様よ、ご笑覧あれ! この小鉄が幼女を守りますぞ!」
刀を掲げると侍小鉄は誓いの言葉を口にしてあ~ちゃんを追いかけて、船の上からゲラゲラと笑い転げる声が聞こえてくるのだった。たしかにご笑覧はされた模様。
「やれやれ、僕たちも行きますか」
「りょーかい! あかねさんにどーんと任せなさい!」
僕があとに続き、あかねさんがニヒヒと笑い隣を走る。
「ネゴシエーターの戦闘方法がよくわかりませんわ。やはりモグに大型ゴーレムを作ってもらうべきでしたわ」
「それどうやって持ってくるつもり? 船が壊れちゃうわよ?」
「大丈夫ですわ。この場で作ってもらえばいいですのよ。ね、ビンチョーさん?」
不満そうに走るローズさんに、初さんがツッコむと、ローズさんは信じられないことに胸元からビンチョーさんを見せてくる。
「モグー、およびに従いモーグモグ」
ピョコンと飛び出し、お鼻をヒクヒクさせて、両手でウェーブをするビンチョーさん登場。可愛らしいモグだ。ロロが対抗して僕の頭の上でウェーブするのは御愛嬌。
「ええっ、あんたモグを連れてきたの!?」
「えぇ、わたくしの作る料理一ヶ月分で契約してもらいましたの。さぁ、ビンチョーさん、わたくしの乗るゴーレムを作ってくださいまし!」
初さんの驚く顔に、ふふっと高みからの微笑みを見せると、ビンチョーさんにお願いをする。
「んと、ゾンビは魔石にしたから、死体が残る選択肢に切り替えてくださいモグ。死体をより集めて」
「却下ですわ! たとえ超魔生物に乗れてもお断り致します! わたくしのイメージがしわくちゃおばあさんに固定されてしまいますもの!」
死体に乗るのは嫌ですわと、速攻拒否するローズさんだ。
「え~っ。それだと、うーん、わかったモグ。少し待っててね」
ビンチョーさんは困った顔になり、仕方ないと息を吐き、すっくととローズさんの頭の上に立つとを魔力を集めていく。
『魔力の糸よ、骨組みとなれ、強さを求める象徴となれ』
コンテナが宙を舞い、ガシャコンと合体していく。かなりの大きさで十メートル近く……繋げるための関節部分や骨組みに魔力が込められた糸が絡みついていく。
「さすがはビンチョーさん。いい腕してるよ」
僕が感心している最中にもゴーレムは組み上がっていき━━━。
「きゃぁぁ! キャンセル、キャンセルしますわ。こういう乗り方はわたくしには、きゃぁぁ」
叫ぶローズさんの顔は真っ赤だ。なぜならば、ローズさんの着ている服をほどいて糸にしてるから。
「大丈夫モグ。下半身は埋まってて上半身だけ胸から飛び出てるタイプにするモグ」
「それ、魔物とかに取り込まれてるタイプですわ。胸には黒海苔をつけてくださいませ!」
「海苔は食べるものもぐよ? 食べ物を粗末にするのは駄目でもぐ」
「お嫁にいけなくなりますわー! マセットさん、止めてくださいませ!」
「タオルを渡しますので、それで頑張ってください。コンテナは魔力がないので弱いですが、囮にはなれるはずです」
「もぐー、燃えてきたもぐ。バルモグラ発進!」
ビンチョーさんがとても嬉しそうにゴーレムを操り、埠頭を進んでいく。上半身が裸のローズさんには気の毒だけど、この間に街に潜入するとしよう。




