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追放されしニート。土地持ちとなり、異世界との交易で村興しをする  作者: バッド
3章 村を復興させよう

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38話 野菜の王と僕

『ビーマン:階位28:戦闘力188』


 かなり戦闘力が高い魔物。それがビーマンだ。発するビームは魔法ではなく固有スキルでその威力は中位魔法に迫る。固有スキルというのが問題だ。詠唱なしにバンバンビームを放てるのである。


「とはいえ、初撃を回避すれば楽に倒せるんだけど」


 ガーゴイルダガーを引き抜いて、部屋の陰から投擲する。ビームを放ったビーマンはクールタイムに入っており、実を閉じようとしている最中であり、ダガーが突き刺さると、その身体をあっさりと枯らして、床に落ちる。


「一撃必殺特化で、体力ほとんどない魔物うさしね」


 ロロが魔石に変わったビーマンを回収する。うん、ピーマンはあまり好きではないので、魔石にしました。


「ダンジョンであるのは間違いないかな。ロロ」


「うさ!」


『ダンジョン石:階位30』


 ぴょんと飛び跳ねて鑑定してくれた結果はやはりダンジョンだった。わからない時は壁を鑑定すれば良いのである。しかし、変わったダンジョンだ。


「これ、外から簡単に入れるな。窓だらけだし。塔タイプは窓がないから入れなかったのにね」


「きっと実装初期はバグがたくさんあるんでうさよ」


「なら、一気に攻略しますか! 作戦変更、芋砂の撃破ではなく、ダンジョン攻略といこうじゃないか」


 窓に足をかけて、クククと嗤うマセット君だ。こういう裏技大好きなので、攻略本に載せたりもします。外の壁に張り付いて、カサカサと這っていく姿はなにか虫のように見えるけど、スルーしてください。


 途中途中の通路にはビーマンを始めとして、お化けキャロットたちが歩いていたり、芋砂がコロコロところがっている。まともに攻略をしていけば、かなり時間がかかりそうだ。


「親分、宝箱は無視していくの?」


「この階位のダンジョンはあまり良い宝箱は無いよ。一気にダンジョンコアを手に入れたほうが簡単だし疲れない」


 最上階に向けて、小さなでっぱりに手をかけて、よっとほっとと登っていく。ステータスが上昇した僕には簡単なことだ。段々と風が強くなり、耳元をビュービューと風の音が流れていく。


 と、最上階近くになり、壁に蔦が這っていることに舌打ちしてしまう。蔦はヘビのように蠢いており、接近してくる生命体を絡め取っているようだった。その証拠に鳥の死骸や骨が蔦のあちこちに残っている。


「さすがに簡単には攻略させてくれないか」


『軽やかに、たんぽぽの綿毛のように軽やかに』


 『力ある言葉』を口にして、壁に足をつけると立ち上がる。重力を無視した格好なのは、『浮遊』の魔法のお陰だ。


「それじゃあ、本番行きますか!」


 タッと駆け出し、炎華と氷華を抜き放ち屋上へと駆けてゆく。蔦が駆けてくる僕に気づいて、ヘビのようにもたげると、一斉に迫ってきた。


 捕まれば、鳥の死骸のように絡め取られて全身複雑骨折からの死亡は確実だ。だが、慣れている。おっさんの時の経験は僕の頭に残っており、野菜ダンジョンを攻略したことも数多くあるんだ。


「しかも当時と違い、僕はニートではない!」


 四方八方から迫る蔦の群れへと魔力の糸を展開させていく。植物の知性ではなにが行われようとしているのか分からないだろうが。


『枝葉斬り』


 蔦の群れが魔力の糸に絡め取られた瞬間に神技を発動する。僕の身体が魔力の糸の軌道に乗り加速すると、高速での斬撃を通りすぎながら蔦の群れへと入れていく。


 蔦は感知することもできなかっただろう。たとえ目を持っていても、僕の姿は残像だけとなり、振られる斬撃は速すぎて視認も不可能だ。


 瞬時に蔦は切り裂かれて散っていく。僕は勢いをそのままに目標がいなくなり、慌てふためきふらふらと残った蔦を揺らす横を駆け抜けて、最上階への縁に足をかけると飛翔して、屋上へと一気に到達するのだった。


「これは楽だなぁ、パッチが当たらないことを祈るよ」


 時折、神様からは修正パッチを当てましたと、神託が来るんだよね。だいたい人間がダンジョン攻略で裏技を見つけたときです。最後にパッチが当たったのは、ボス部屋の扉越しに貫通魔法でボスを倒す裏技ができた時かな。ボスからダメージを負うことなく経験値稼ぎをできたんだけど、一週間で神様にバレた苦い思い出がある。修正するのに一週間寝てないんですけどと、酷く怒られました。


「まぁ、パッチが当たるのを心配する前に、こいつを倒さないと行けないようだけどさ」


 屋上には一本の巨木が生えており、その枝にはたくさんの実をつけていた。全てお化けキャロットやビーマンなどの魔物の実だ。幹にはウロが目鼻口を作り、繁茂する葉はまるで虫のように蠢いており不気味だ。


「『邪悪なる野菜樹』キングベジタブルうさ!」


 ロロの言う通り、そこには野菜系統の最強ボスが鎮座していたのである。


           ◇


 先手はロロのラビットダンスだ。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、敵の解析を開始する。


『ノックノック。うさぎのノック。お家を見せてくださいな。ほら、可愛らしいうさぎが訪れてますよ』


『邪悪にして野菜魔物の母たる樹キングベジタブル:階位40:戦闘力1059』


 うん、ネーミングセンスゼロの魔物です。でも、その戦闘力は他の魔物とは一線を画す。


 キングベジタブルは枝を上げると……ゆっくりと戻す。威嚇しているつもりなんだろう、その繰り返しをするだけだった。少しひょうきんでもある。


 ━━━なにせ、だ。


「攻撃手段持ってないんだよね………。それが野菜ダンジョンの人気の一つでもあるんだけど」


 攻撃手段を持たないボスは倒しやすい。なにせ、普通は必殺の攻撃ばかりを繰り出すボス敵ばかりだからだ。その代わりはというと。


『実落とし』


 生っている実が落ちてきて、こちらへと向かってくる。その種類は千差万別、数多し。お化けキャロットから始まり、ビーマンや芋砂、殺し芋、白髪ネ騎士と、攻撃方法も多彩である。


 この敵の群れを倒し、ボスを討伐すればクリアなので、ぶっちゃけ多人数で攻略すれば安全なボスなのだ。


「まぁ、僕はソロなんだけどさ」


 ビーマンの放つビームが飛んでくるのを、横っ飛びで回避する。身体強化に回す魔力を多めにして、騎士のように剣と盾を持つ白髪ネ騎士の剣に炎華を合わせて、するりと受け流し、炎を付与させて胴体を斬る。燃える白髪ネ騎士を蹴っ飛ばし、後方からの石礫の盾とする。


「階位が上がったロロも手伝ううさよ!」


『噛みつき』


 僕の階位が上がったことにより、ロロもパワーアップした。その力を発動させると歯をキラリンと光らせて魔物に齧りつく。ただのうさぎの噛みつきではない。その牙は丸太も齧り折るのだ。低位の魔物ならその噛みつきで簡単に噛み切ってしまう。


「こいつの相手はロロがするから、後は任せたうさ!」


 お化けキャロットに齧りつき、カリカリと齧るその姿はさすがは頼れる使い魔である。美味しい証拠に尻尾をフリフリ、お鼻をひくひくさせていた。


 遊んでいるかのようなネーミングの魔物だけど、実際は結構きつい。野菜系統の魔物はだいたい火力に全振りの耐久紙装甲のやつらばかりなので、当たるとタダではすまない。


『炎華よ、燃え盛れ、焼き尽くせ、そは竜の吐息のように』


 お化けラディッシュの群れへと炎華から猛炎を吹き出して、炎に包み込み焼いていく。返す刀で炎の壁を作り、後方から気配を消して迫ってきた殺し芋の不意打ちを阻む。それでもわらわらと次から次へと魔物たちは襲いかかり、後方のキングベジタブルは倒す端から実を落として補充していく。


 その数は百を超えており、なるほどキングベジタブルがダンジョンボスであるとの証明を見せていた。


「この数は結構きついな。正面からは突破は無理か」


 ビームが乱舞し、石礫が飛来してくる中を、身体を逸らし回転しながら躱していき、懐から取り出した魔石を強く握りしめて魔力を送り込み砕く。サラサラと砂のように変わった魔石の砂をこぼしながら、僕はキングベジタブルの周囲を走る。


 知性のない魔物だ。とにかく数で押していけば勝てると思ってるのだろう。生み出した魔物の全てを僕に向かわせて、押し潰そうとけしかけてきていた。


 そして、その選択肢は悔しいがあっている。僕一人だとさばききれない。


(こりゃ駄目だ。階位が上がったからと慢心していたようだよ。やられちゃうな。仕方ない、切り札を切るか)


『おぉ、怠惰の大天使ベルフェゴールよ。素早く仕事を終えて怠惰に過ごすため、我に強き肉体を与え給え』


 単なる魔力のブーストによる身体強化では間に合わないと考えて、嘆息しつつ大天使の力を借りる。大天使ベルフェゴール様の加護により一気に肉体が強化されて、敵の攻撃がゆっくりに見えるほど、僕の動きは加速する。


 白髪ネ騎士たちが列を並べての剣による連携攻撃を、炎華と氷華を振るい弾き飛ばし、受け流し、カウンターにて反対に倒す。

 

 お化けキャロットとお化けラディッシュの噛みつきはあえて受けると、そのままビーマンのビームを受けて、噛みついていたお化けラディッシュに命中させる。体を振って石礫へと振り落としたお化けキャロットを命中させると、ガーゴイルダガーにて、ビーマンと芋砂を撃ち落とす。


 ソロの僕と百を超える魔物との激闘。しかも倒しても倒しても、新たに魔物は生み出されてきりがない。


 段々と傷が増えていき、敵の圧力が強くなっていく。血が肩から流れていき、激しい戦闘により息が乱れていく。汗が額から落ちていき、身体に疲労が溜まってくる。


 だが、終わりは目の前だった。手に持つ魔石の砂が全て無くなり、僕は安堵で息を吐く。


「やれやれやばかった。野菜魔物でなければ死んでました」


 空になった手のひらを見せて、群れをなす魔物へとニヤリと笑うと、僕は最後の締めを発動させる。


『帝国式敷設型炎柱魔法陣』


 魔石の粉を使い魔法陣を描き設置する、リンボ帝国の誇る敷設型のトラップ魔法だ。範囲内に存在する敵を焼き尽くす工兵伝来の魔法陣である。


 零していた魔石の砂が僕の魔力に反応し、大きく弧を描いて、魔法陣を作り出す。そうして魔法陣から放たれる真っ赤な光に照らされるキングベジタブルへと別れの挨拶だ。


「帝国式のこの魔法陣。弱い威力だけど簡単に設置できるし、炎に弱い野菜系統の魔物にはよく効くと思う。美味しい野菜炒めとなってくれ給えよ」


 感情は無くとも、命の危機に反応したのか、魔物たちが慌てて迫ってくるが、もう遅い。


『火山爆発』


 魔法陣から炎の柱が吹き出すと、キングベジタブルたちを炎に包み込み、野菜炒めの美味しそうな匂いが広がっていくのであった。

アースウィズダンジョンのコミカライズがやってます。ピ〇コマなどで見れますので、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
母たる樹なのにキングベジタブルなのは逆に母なのにキング⁈も樹なのにベジタブル⁈でセンスあるんでは? あと欲深主人公には珍しくまだまだ弱い所為で無限湧きを利用できないのは新鮮ですね
 マセットくんオッさん時代にかなりの修羅場をくぐって来たみたいだけど(^皿^;)言ってる事の端々に〈妙にメタい事〉を呟いてるのって実は「ゲームの存在する世界からの転生者」がマセットくんの過去の有名ハン…
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