第11話 ウルフパラダイス
11階層へ降り立つと、今までの無機質な空間とは違って緑の草木が生い茂る森林が目の前に現れた。それに、太陽も無いはずなのに何故か明るい。
「グルルル」
降り立って直ぐ、背後の茂みから鳴き声が聞こえてきた。しかし、パッと後ろを振り返るとその気配は直ぐに遠くの方へ去っていった。
「四方に周囲しない場所で指輪が機能しないのはなかなか痛いな」
これが普通の森であれば、ダークラビットリングの能力で魔物の居場所を感知できた。しかし、このダンジョンでは何故か四方を埋め尽くすほどの魔物の生体反応があり、全く役に立っていなかった。
久々の緊張感を味わいながら、ゆっくりと森の中を探索する。よく見ると、どの木にも実はついておらず、生えている草も何の役にも立たない正真正銘の雑草だけだ。この森でもしかしたら肉以外の食料の確保が出来るのではないかと思いもしたが、そう簡単に済む話でもないらしい。皆が俺みたいにアイテム袋を持っているわけでもない。
「肉だけでは飽きるからな。邪魔にならないような野菜を使用した非常食とかならもしかしたら売れる?」
そんな未来への投資を考えていると、目の前の茂みからガサリと音がした。
「グルルルグルルルッ!」
鋭い牙をのぞかせる口からは、溢れんばかりの涎が滴り落ちている。今度は隠れることもなく、堂々と狼が現れた。その体長は2メートル程あり、迫力も抜群だ。
正面から挑んで1対1ならば勝てると思っていたならば、わざわざ先ほど逃げる必要はなかったはずだ。それにも関わらず、今姿を現したということはそういうことだろう。
俺は愛剣を構えたまま、足元へ魔力を送る。
「グルッ!?」
狼は目で見て分かるように狼狽え、左右をキョロキョロ見渡している。敏感な鼻をもってしても、見失った以上奴がこちらに気が付くことはない。
【ダークパンサー・ブーツ】
込めた魔力量に比例して、移動速度、跳躍力が瞬間的に上昇する。また、その際足の振動を極限まで抑えることが出来る。
靴の能力により、目にもとまらぬ速さで近場の木を駆け上がった俺は、そのまま空高くへと跳躍していた。天井が高い場所ならではの戦い方だ。
先ほどまでいた場所の周囲に目をやると、案の定俺のいた場所の周囲を囲むように一回り小さな5体の狼が潜んでいた。恐らく、目の前に現れたリーダー格の狼が獲物を引き付けているうちに、資格から奇襲を仕掛ける腹積もりだったのだろう。しかし、残念なことにその獲物を見失えば奇襲の意味をなさない。
「次はこっちが奇襲する番だ」
俺は只の鉱石の塊をそれぞれの狼の上に出現させて、一気に投下した。
「「キャウンッ」」
上から影が迫ってきたときにはもう遅い。小さな狼たちは逃げる間もなく圧倒的な物量に押しつぶされていた。しかし、リーダー格の狼は流石というべきか、寸でのところで上空からの落下物に気が付き、ギリギリ回避に成功していた。そして、直ぐに敵は上空にいることを理解し、空へと目を向ける。しかし、リーダー格の狼は俺の姿を見つけることが出来ないでいた。
「ガッ!?」
気が付いた時にはもう遅い。リーダー格の狼の腹から燃える刀身が突き出ていた。俺の愛剣の切っ先だ。
リーダー格へ落下させた鉱石の影に隠れるように地面へと降り立った俺は、奴が空を見上げる前にはもうすでに背後をとっていた。この瞬間勝負は決まったも同然だ。このダンジョンで連携をとる魔物は初めて見たが、左程知能はいいとは言えない。そこまで難易度は高くないだろう。
【名前】ウルフソルジャー
【HP】 200/200
【MP】 50/50
【備考】上官の支持を忠実に守る森の狩人
【名前】サージェントウルフ
【HP】 400/400
【MP】 150/150
【備考】ソルジャー系の指揮系統を持つ狼。念話によって一方的に命令を送ることが出来る。
魔物をカード化して能力を確認する。うん、何だか嫌な予感がしてきた。
暫く他の狼の群れを倒しつつ、苦も無く次の階層へと降り立った。
12階層ではまたしても同じく狼型の魔物が出現した。その中でも一際大きく緑色のメッシュが入っている狼がいた。その名も「メイジャーウルフ」だ。風の魔法を使用することが可能であり、狼の群れの数も20体に増えていた。そうして、嫌な予感が見事に的中した。
13階層「ルテナントカーネルウルフ」、14階層「カーネルウルフ」15階層「セカンドルテナントウルフ」と続き、最終的には、18階層「マーシャルウルフ」、19階層「クラウンプリンスウルフ」、そして20階層で「エンペラーウルフ」が出現した。計10階層まるまる狼型の魔物しかいなかった。
エンペラーウルフ戦に関しては、もはやいろんな意味で筆舌に尽くしがたい戦いであり、もう一度挑戦するのは御免被りたいと思うほどであった。対軍用の攻撃手段を持ちえない人であれば、討伐するのは間違いなく骨が折れるだろう。
20階層時点でこのレベルということは、その上の魔物は一体どうなっているのか。
次に進もうと思い、21階層の階段へ足を踏み入れようとすると、下から冷気が上がってきており、思わず身震いする。そして、急に生理的欲求が込み上げてきてある問題点に気が付いた。俺は慌てて20階層にある移動装置へ乗り込み、地上へ帰還した。
「ダンジョン内には安全なトイレがない‼」
これはとても死活問題だ。あんな魔物だらけの場所では安心して用が足せないし、かといって衛生面的にも垂れ流すわけにもいかない。
「う~んこれは問題だ」
……トイレだけに。
お読みいただきあありがとうございます。
申し訳ありません、おやじギャグには目をつむってくださると助かります。




