第6話 洞窟での戦闘③
ドラゴンは翼を広げ、その巨体を空高く持ち上げた。地上でも厄介な相手なのに、空中に移動されては更に攻撃手段が限られてしまう。
ドラゴンの口から周囲を侵食する無数のレーザーを発射させられる。俺をいたぶっているのか、それとも自分の力を過信している為かは分からないが、直撃することはなく俺の直ぐ脇を通り過ぎるだけだ。おかげで避けることは難しくはない。ただし、このレーザーは掠るだけで致命傷となりえるため一瞬の油断が命取りになる。
無尽蔵の体力をもつ相手にたいしてこちらは逃げることも適わず、体力が尽きるまでに倒さないといけない。本来ならば生存することを諦め、絶望すべき相手だろう。しかし、不思議なことに恐怖を感じることはなかった。精神汚染が解けたせいかもしれないが、どうも迫力に欠けているような気がする。なんというか、覇気がないといったほうが正しいかもしれない。
逃げてばかりでも埒が明かない。そろそろ攻めに転じる頃合いだろう。
左手で1枚のカードを握り締め、ドラゴンの後方に回りこむ。最小限の動きで攻撃を避けることばかりしていた俺が急に動いたために反応が遅れたのか、あの巨体が反転するよりも俺が動くほうが僅かに速い。
「土の塔リリース!」
一気にドラゴンの頭上より高く飛び上がり、土の塔をカードに戻す。遅れて反転したドラゴンは、目標を失ったのかキョロキョロと辺りを見回している。これはチャンスだ。
愛剣を両手で握り締め、落下の勢いのままドラゴンの背に向かって突き出す。
カキンッ
「くっ……」
金属同士がぶつかる様な音が鼓膜に届くと同時に、両手に電撃が走った。そう簡単にはいかないようだ。あまりの衝撃にしばらく手が動きそうにない。
大きな背中の上でのた打ち回っていると、俺の存在にようやく気がついたドラゴンが首をこちらに向けた。
「……」
「こ、こんにちは……。お話し合いをしませんか?」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
どうやら怒らせてしまったようだ。
ドラゴンの瞳は怒りに燃えて……はなさそうだ。その瞳には輝きが無く、どこを見ているか分からない。やはりこれは――――
「うわぁ」
大きく翼を羽ばたかせたと思ったら、急激に重力が体全体に加わり立ち上がることが困難になった。
視線を上に向けると天井が近くなっているのが分かる。
「――っ! 土の塔リリース!!」
すぐさま塔を斜めに出現させてドラゴンの背中から離脱する。その数秒後、上空から轟音が鳴り響いた。
地上に降り立ち、ドラゴンを見据える。
汗が頬を伝う。さっきは危ないところだった。もしも離脱が遅れていたら、ドラゴンと壁に挟まれ原型を留めることなく死んでいただろう。これが普通の土や岩の壁ならば、ドラゴンに押しつぶされたとしても衝撃は壁に吸収されるため、恐らく死ぬことはない。しかし、この空間の壁は特別だ。俺の力ではとてもではないが傷をつけることができないし、実際にドラゴンと衝突したにも拘らず、微動だにしない壁が全てを物語っている。例外があるとしたら、このドラゴンのレーザーとイラソル・ヌーメン位だろう。それでも、直ぐに壁は修復されるという不思議能力で直ぐに元通りだけど。
この壁ならば、流石のドラゴンでもダメージを負うのではないかと思ったが、残念なことに傷らしい傷も見当たらず五体満足だ。
「土の塔リリース」
「GUGA――」
降りてこようとした時に真下の死角から出現した土の塔に押され、再びドラゴンが天井に激突した。どうせダメージは無いだろうけれども、少しだけ気分がスッキリした。
さて、どうするか。後ろからレーザー当てられる可能性を考えると逃げることは難しい。かといって、俺の攻撃ではドラゴンに傷をつけることは不可能だ。ドラゴンのHPは0、直撃しないレーザー、輝きの無い瞳……。
もう一度ドラゴンの方を向き、ステータスを閲覧する。
頭は――違う。となると……。
「やっぱりか」
そうと分かれば早く準備をしよう。必要なのは運と勇気と酸に強い装備だけだ。
スライムを1000体合成させる。
【名称】 着ぐるみ(スライム)
【クラス】装備
【詳細】 全身を覆う着ぐるみ。防御力は低いが様々な耐性をもつ。どんな強力なものでも10秒は耐えられる。
「着ぐるみ、リリース!」
準備完了と同時に、ドラゴンが地響きを立てて着地した。あまりの衝撃に片膝をついてしまう。どうやらアレは相当お怒りのようだ。
狙いもめちゃくちゃなレーザーが吹き荒れる。左右上下と縦横無尽に動き紙一重でレーザーを避け、距離をつめる。
後50メートル、40、30、20、10……今だ!
大きく開けたドラゴンの口に飛び込む。レーザーの触れた部分から徐々に侵食されていく。着ぐるみが持たなければゲームオーバーだ。
食道を通り抜け、胃まで到達する。まだ侵食されていない右手で愛剣を持ち、魔力を込めて全力で上方に突き刺す。
「qrtsho!?」
初めてアレの声を聞いたかもしれないな。
【名称】 パラサイトナーヴ
【クラス】魔物
【詳細】 寄生型魔物。どんな生物にも寄生し、内部から生命を喰らい尽くす。神経を介して思い通りに動かすことが可能。
活動を停止したドラゴンから這い出る。あの後直ぐに着ぐるみを脱いだため、全身がべとべとだ。
改めてドラゴンを見上げる。もしこれが、自分の意志で動いていた場合どうなっていたのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。
不幸中の幸いか、先ほどのレーザー乱発のおかげで周囲には魔物の気配が無くなっている。暫くは休憩できるだろう。
五右衛門風呂で汚れと疲れを落としたため、気力は十分だ。
魔物のいない道を歩く。あれから10キロは進んだが、未だに魔物が見当たらない。それからしばらく進むと、道の先に一つだけ魔物の反応があった。できれば魔物は避けて行きたいところだが、残念なことにドラゴンと戦った場所からここまで1本道だった。今更戻るわけにもいかない。
薄暗い空路の先から一際明るい光が漏れている。慎重に足を踏み入れると、ドラゴンのいた空間よりも更に広い空間が広がり、部屋の中央には全長100メートルに及ぶ、真っ黒に染まった巨大な透明のオブジェがあった。
「人?」
オブジェの前には、魔物のような異形な姿ではなく、普通の人影があった。それは俺がこの部屋に入っても動く気配が無い。どういうことだろうか。
このまま立っていても埒が明かないため、その人影に近づく。
視認できる距離まで来ると、余計に混乱が増した。鉄のような装備を身にまとい、右手には剣を携えている。その姿はまるで冒険者だ。
身長は170センチ程度の男性だ。顔を下に向けているため、表情までは分からない。
「ま……ま………………る」
何かつぶやいているようだがよく声が聞こえない。
「あの、すみません」
「ま……ま……お……る」
声をかけても何か言葉を繰り返すだけでこちらに反応を示さない。
どうしようと考えつつ、オブジェを見上げる。遠くでは黒く染まっているだけだと思っていたが、近くで見てみると黒いろの何かが蠢いているのがわかった。
考えても理解が出来そうも無いため諦めて視線を落とす。男性は未だうつむいたままだ。
「マリに怒られる前に早く戻らないといけないんだけどな」
どうしようもない状況にポツリと不満を零すと、男性の肩がピクリと動き始めて反応を示した。男性は顔をゆっくりと持ち上げ、俺を凝視する。その表情は、憎しみで歪んでいた。
あまりの表情に息を呑み、その瞬間には男性の姿が掻き消えていた。
「どこに――ぐぁ!」
俺の胸から剣が生えている。体がピクリとも動かずそのまま地面に崩れ落ちた。
なんとか呼吸だけはできるが、声を出すこともかなわない。
頭が痛くて、意識が朦朧とする中、背後からその声は聞こえてきた。
「マル゛ナとマリ゛はオレ゛がまもる゛!!」
お読みいただきありがとうございます。
遂にドラゴン討伐‼って思ったら……




