第4話 洞窟内の戦闘①
ポタ、ポタ、ポタ
顔に何か雫があたっている。雨漏りでもしていただろうか。
グルルルルル
うるさいなぁ。折角人が気持ちよく寝ているのに。もう朝なのか?
そういえば、何で俺は寝ているのだろうか? 確か石版のある場所に――って、なんだこれ!? とてつもなく臭い。
あまりの臭いに眼を開ける。
視界いっぱいに広がる闇。その闇の中から生暖かく、何ともいえない風が頬をなでる。
視線を横にずらすと、その闇の外側には刺々しい白い剣山のようなものが綺麗に並んでいる。
……………………。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
思わず、目の前のそれを殴りつける。勢い良く飛んで言ったそれは、壁に激突すると同時に全身を痙攣させ、活動を停止させた。
危ない、もう少しで頭をパクっと食べられるところだった!
思わず殴ってしまったけれども、正当防衛だよね?
それにしても、ここはいったいどこだろうか。石版のある空間に足を踏み入れたところまでは覚えてるのだが、その後から今までの記憶がない。でも、なんだか懐かしい夢を見ていたような気がする。もう、やり直すことの出来ない夢を……。
さて、考えたところで答えは出そうにはない。頭を切り替えて、まずは現状を把握しよう。
所々、水晶の様なものが周囲を照らしてはいるが、全体的に薄暗く、空気もじっとりとしていて気持ち悪い。壁は土や岩で構成されている。もしかしたらここは洞窟内だろうか?
それにしてもここは変だ。俺の能力を使っても、水晶どころか壁の土や岩さえもカード化できない。能力自体が使えないのかと思ったが、所持しているものは実体化・カード化どちらも問題なく行える。この空間の物だけがカード化できない。
「誰かが作った物だからか?」
ということは、この洞窟は自然に出来たものではなく人為的なものなのか? でも、人為的に掘った洞窟だとしても、岩や土を加工したわけではないからこの仮説は違うような気がする。だめだ、情報が少なすぎる。
仕方がない、早くこの先を進もう。マリに黙って出てきたのだ。何時までも待たせては心配をかけてしまうし、なにより臍を曲げてしまうだろう。
この先は無数に分岐しているようだが、魔物の少ない場所と多い場所がある。少ないといっても軽く数百体はいるし、多い場所なんかは辺り一体が真っ赤だ。数えるどころではない。
こういうものは入り口に行くほど数は少なくなるものだ。とりあえず、魔物の少ない方向へ向かおう。
愛剣で5メートルはあるであろう魔物の腕を斬り捨てる。切断面は燃え上がり、その細胞を死滅させ――次の瞬間には何もなかったように腕が元通りになり、側面から強烈な打撃が飛んでくる。咄嗟に横に跳躍し、愛剣を斜めに構えて衝撃を受け流す。
「おもっ!」
完全に受け流したつもりが、予想以上に相手の力が強く受け損なってしまった。
元通りどころではない。先ほどの腕よりも遥かに硬く、鋭さも増している。
「ちっ、なんでこんな奴がゴロゴロ居るんだよ」
【name】リ・ガーゴイル
【HP】 19800/20000
【MP】 19900/20000
【スキル】新構築、逆境強化、ブレス(炎)、取り込み
このレベルの魔物はこれで20体目だ。この洞窟だけ出鱈目過ぎる。こいつなんて傷を与えれば与えるだけ強さが増して再生するというチートな能力だ。そんなやつ相手にどう戦えばいいんだよ。奥の手さえ使えば倒せるだろうが、その後この大地がどうなるか分からない。
「おっと、考えている余裕は与えてくれないか」
ガーゴイルの口から吐き出された炎が音速で迫ってくる。右足で床を蹴り、転がりながら回避するものの、余波だけで皮膚が解けてしまいそうだ。着弾した場所はドロドロと液状化し、大きなクレーターを形成する。あれに直撃したら一撃死は免れない。
まあ、避けられない速度ではないな……。
それに今の攻撃でMPが500減っている。最高でも40回しか攻撃できない。うん、何とかなる……よね?試したい事もある。そろそろ反撃に転じないとな。
剣を握りなおし、ガーゴイルに向かって真正面に突っ込む。
奴からしたら無謀な特攻に見えるだろう。現に口元がわずかにつりあがり、俺を向かい打とうと巨体に似つかわしくない速度で豪腕を振るう。その下を掻い潜るように愛剣だけを残して体を倒した。その上を突風が吹きぬけ、ドサリと地面にそれは落ちた。
一瞬、奴が苦悶表情を浮かべるが、気がつけば親指は無事に元通りになっている。
なるほど、これもMP100の消費か。それに、あれは恐らく自動で勝手に修復されているな
腕が再生した時はMPが100減少していた。そして、斬り飛ばした親指も再生時にはMP100の消費だ。つまりは、どの部位であっても欠損を元に戻すにはMPが100必要だということがわかる。
この事実により、疲弊している精神に多少はゆとりが出来た。正直、あの感じで再生され続けた場合、5回もしないうちに斬りとばすことは不可能になっていただろう。しかし、どの部位でも消費MPが同じならば対策は簡単だ。
奴の意思に関係なく再生されると考えてまず間違いない。200回手足を欠損させることで奴のMPを空にすることが出来る。つまり、手足の指を5回斬り飛ばすだけで半分のMPを減らす事ができる。恐らくMPが無くなれば回復は不可能だろう。
ガーゴイルの動きに合わせて親指から小指までを順番に斬り飛ばして行く。6回目に斬りつけた時は甲高い金属音が鳴り響き、剣から伝わる振動により手が痺れ、思わず手放してしまいそうになる。その指は、多少の傷をつけることはできたものの、切り離すことはできなかった。これが今の俺の力の限界ということだろう。右手が終われば左手、左手が終われば右手と順番に斬っていく。手が終われば次は足の指だ。指が終われば手首、足首と、段々と中枢の方に向かい斬っていく。
「これで……どうだ!!」
左右の肩と大腿部を切断する。
そこからはもう新たに腕や足が生えてくることはなかった。
【name】リ・ガーゴイル
【HP】 120/20000
【MP】 0/20000
【スキル】新構築、逆境強化、ブレス(炎)、取り込み
ようやくMPが尽きたようだ。長い戦いだった。上下に大きく揺れ動く肩で呼吸を整える。
今回勝利したのは、回復ポーションを持っているか否かの違いに過ぎない。もし、魔物に回復ポーションを使う奴が出てきたとしたら打開策がなくてお手上げ状態だ。そんな奴が出てこないことを祈るしかない。
もうこんなスレスレの戦いは嫌だ。似たような魔物に出会った時の対抗手段を考えなければいけない。
「これで最後だ」
腰を落として愛剣を斜め下に構え、ガーゴイルの目の前に立つ。
この戦いに終止符を打とうじゃないか。
ガーゴイルとの距離を、跳躍により一気に詰める。
ガーゴイルは文字通り手も足も出ない状態であり、まともに反撃が出来るとも思えない。そう考えるのが普通だろう。だからこそ、隙が生じたのかもしれない。
ガーゴイルの怪しく光るその瞳には気がつくことができなかった。
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