第13話 フリ-ダム
今、俺たちはとある場所にいる。そう、フリーダムの街の入り口手前だ。
「ほえー、大きいねー」
「ああ……」
それは、全長3メートルで白衣を着た少年の像だった。
どこかで見たことあるような顔だけど、どこで見たのか思い出せない。
白衣を着ている人なんて有りふれているし、いったいこれは誰の像なんだろう。
「うん、おにいちゃんとそっくりだね」
「ソウデスネ」
現実逃避していたのに、マリのせいで一気に現実に戻された。
ええ、どこからどう見ても俺ですね。取り敢えずこれを考えた人とは一晩中語り明かすことが必要だと思う。もちろん拳で。
「て、天使様!?」
像を眺めていると、門番と思われる住民がこちらを向いて声を張り上げた。
後ろを振り返るが何もいない。
「やっぱり天使様だ! みんなー、天使様が来てくださったぞー!!」
もう一度後ろを振り返る。しかし、やはりそこには誰もいない。
マリと一緒に小首をかしげる。そのテンシさんとやらはどこにいるのだろうか?
「おにいちゃん、テンシ様って誰?」
「うーん、誰かは分からないけど、俺にとっての天使はマリだよ」
「おにいちゃん……」
おかしい、最近マリに呆れられることが増えているような気がする。昔はあんなに純粋に喜んでくれていたのに……あの時は演技じゃないよね?
「おお、本当に天使様だ!」
「天使様が来てくれた」
「御もてなしの準備を急げ!!」
「身なりを整えておくように皆に通達しろ!」
ふむ、テンシ様というのはとても偉い人なのだろう。もしかしたら透明人間なのかもしれない。魔法自体が不思議なものだ。今更透明になれる魔法があっても驚かない。
色々な準備で忙しいところ申し訳ないが、俺も用事があるため中に入れてもらおう。
「すみません」
「はい、天使様。何なりとお申し付けください」
ん? 気のせいだろうか。
「お忙しいところ申し訳ないのですが、町の中に入れてもらうことは可能でしょうか?」
「そんな、我々が拒む事がありましょうか。天使様なら何時でも住民総出で歓迎させていただきます」
んん? 何だかいやな予感がする。
「わかった。天使様って、おにいちゃんのことだ」
……デスヨネー。うすうすそうじゃないかと思っていました。だって、俺の像に何故か羽根がついていたから!いくら俺の笑顔が天使の様だからって、ここまで祭り上げられるとは。正直、恥ずかしすぎて死にそうなのですが。
「ありがとうございます。あ、少し町の様子についてお聞きたいので町長と、各リーダー達の手が空いていれば後ほどお時間をいただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「お任せください。今すぐにでも集合させましょう」
「いえいえ、先に少し町を見学させて頂きたいので、そうですね……1時間後町長のお宅に集合ということでどうでしょうか?」
「承りました」
調子が狂う。もうこうなれば開き直ったほうが早いかもしれない。神の使いである天使らしく、命令口調のほうがいいのだろうか。
町に入ると跪く老人、大人、そして子どもたち。
前言撤回。命令口調なんかにしたら、この人たちと俺の間にいろんな意味で壁が出来てしまう。流石に10歳にも満たない子どもにまで跪かれるのは良心が痛む。もっと子どもたちには元気よくいて欲しい。このままでは息が詰まりそうだ。フランクに接していれば、そのうち態度も軟化していくだろう……軟化して欲しいなあ。
こちらの事は気にせずいつもの様に振舞うように告げ、改めて町内を見渡す。
清潔を保たれた道、実り豊かな畑、害獣や魔物の山、健康的な肉付きの住民、そしてなにより――
「みんな、とっても幸せそうな顔をしているね」
「ああ」
奴隷時代とは違い、「生きていることが嬉しい」「明日はどんな楽しみが待っているかな」「将来は何をしようかな」といった、未来を憂うのではなく、未来に希望をもった笑顔がそこには溢れていた。
公園では昼間だというのに、子どもたちが仲良く楽しそうに遊んでいる。以前は生きるために子どもであっても働くのは当たり前だった。それが、こうして働かずに遊んでいられるのは豊かな生活を送れている証拠だろう。
「急に訪れたにもかかわらず、本日はお集まり頂きありがとうございます」
部屋には町長、農業リーダー、部隊リーダーがの3名がすでに集っていた。
俺たちがいなくなった後の生活がどうだったか、王国の動きはどうか、魔物の対処は問題がないかなど、様々な話を聞いていく。
「天使さま――おっと、ソウサク様でしたな。ソウサク様のお陰で未来が開け、皆やる気に満ちております。感謝してもし足りないです」
「農業も、頑張ったら頑張った分だけ自分たちで食べる事ができるため、以前とはやる気が段違いでこのように豊かになりました」
「魔物戦では、今のところ死者は出ていません。極力油断のないように魔法使いを加えた10人構成で戦闘を行うようにしているためだと思われます」
順調で何よりだ。日々魔物を倒しているお陰か、彼らのステータスも格段に上がっており、様々なスキルが身についていた。流石にグレンさんや、タークさん程ではないが、それでも王国の兵士たちよりは多分強い。
王国といえば、最初のうちは「開門しなければ武力行使に出る」「今ならば、王の慈悲で多少の罰で許してやるぞ」と強気で来ていたそうだ。もちろん村長――ロウジさんはこの要求を跳ね返し、開門することはなく、門を王国兵がうちやぶるのも不可能であるためそのまま帰ったそうだ。
その後も「税として作物を納めろ」「奴隷としての扱いを以前よりマシにしてやるから戻って来い」「開門した奴には褒美をやる」など度々馬鹿みたいな事を言いに来ていたらしいが、ある時、たまたま接近していた魔物の群れと門外で戦闘となり、負傷してからは来なくなったそうだ。
うん、やっぱりあの国はだめだ。ここまで馬鹿な要求しかしてこない奴がいることに驚きを通り越して呆れるしかない。
「皆、今の生活に満足しております。満足はしておりますが――ただ、一つだけ問題があります」
「ほう、問題ですか」
町をみて回った限り問題という問題は見受けられなかったが、何か見落としていただろうか?俺に解決できる内容であればいいのだが。
「明日を生き、夢を持つことができるようになりました。しかし、夢の幅があまりにも少ないのです。世の中にどのような仕事があるのか、何が出来るのか、夢を実現するために何をすればいいのか、そのような知識が私たちには圧倒的に足りず教えてあげることができません。子どもたちに本当の夢を見させてあげることが出来ないのです」
そうか、彼らは元奴隷だ。その仕事といえば、畑を耕す、獲物を仕留める、他雑用仕事ばかりで、生き残るために他のことは考えず、ただ無心で己の仕事をやり遂げてきた者たちに、それ以外の生き方を見つけろというのは難しいことに違いない。
そうなると、今回持ってきた話は案外悪いものではないのかもしれない。
「夢ですか。幸いにも、私たちは今現在新しい国を作っているところでして、もし宜しかったらうちに来ませんか? これから様々な事業――仕事の種類を増やしていこうと考えていまして、将来の夢を考えるのに丁度良いかも知れません」
「ソウサク様の国に我らを……ですか」
難しいことを言っているのは分かっているつもりだ。
でも、ここより更に良い生活をさせる自信はあるし、様々な夢を抱くことができるに違いない。
「もちろん、直ぐにとは言いません。それに、私どもの国に来るということは今ある安定した生活を捨てることになります。皆さんでじっくりお考え下さい」
「わかりました。しばし考えるお時間を頂きたいと思います」
後悔の無いように、しっかりと考えて欲しいものだ。
「そうそう、話は変わるのですが、この先にある土地を少しの間だけお貸ししていただいてもいいですか?」
「ええ、そんなことでしたらもちろん構いませんとも」
結果がどうなるにしろ、まずは頑張ってきた彼らにサプライズを提供しよう。
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