第5話 旅立ちの前日
俺とミハル、グレンさんとタークさん、マルナさんの5人は執務室に籠り話し合いをしていた。この国で一月過ごした結果、俺がいなくてもこの周辺の魔物に限ればグレンさんやタークさん達だけで問題なく駆除することが出来ることが分かった。少しの間なら俺がいなくても問題は怒らないだろう。
「それでは、明日にでも財源確保と対空設備のために1ヶ月ほど旅に出ようと思います」
「それじゃあ、ソウ兄がいない間、細かい内容を詰めておきますね」
内政面は大方地盤が固まった。財源を確保し、対空設備さえ整えば今すぐにでも住人を呼ぶことが可能だ。
細かい調整はまだ必要だが、ミハル自身しっかりしているし、グレンさんやタークさん達とも相談することができる。俺がいなくても大丈夫だろう。
「ありがとうミハル。ミハルがいてくれたからこそ、こんなに早く国の基盤を作ることが出来たよ。さすが、長生きしているだけのことはあるな」
「はは、何言ってるんですか。僕はまだ11歳でソウ兄より幼いんですよ」
「ははは」
いやいや、つい笑っちゃったけどミハルの方が実は2歳ほど年上なんだぜ? それ以前にミハル絶対11歳じゃないだろ。どこの世界に国の基盤を作れる11歳がいるんだよ。
「バン達も魔狼相手なら難なく倒せるようになったし、ソウサクさんがいなくても大丈夫だと思う。俺たちがちゃんと面倒をみておいてやるよ。それに、タークさんたちもいるんだし、気にせず行ってくれ」
「おう、俺らも坊主がいない間はしっかり他の奴らの面倒を見ておくさ」
「それだったら安心です。ありがとうございます」
年少組は本当に強くなったな。特にバンの剣術と、ミミの魔法には目を見張るものがあるし。きっと毎日鍛錬を欠かさなかった成果だろう。これだけ頑張っているんだ、そのうちまた何か贈り物をしてあげよう。
念のためにグレンさんにはダークラビットリング(改)を渡しておこう。ダークラビットの中には人間のみを感知できる個体もいたため、こいつの能力を取り入れて改良しておいたやつだ。これなら半径2km県内の魔物と人間を見分けて感知できる。国全体はカバーできないが、少なくとも奇襲を受ける心配をしなくて済むはずだ。まあ、装飾が若干可愛らしいが、そこは我慢しておいてもらおう。……たとえ似合ってなくてもね。
「ソウサクくん、私から2つほどお願いがあるの」
「お願いですか?」
すごく真剣な表情だ。マルナさんからのお願いとは一体なんだろう。
「まず、絶対に元気で帰ってきてね。ソウサクくんはしっかりしているし、強いのかもしれないけど、だからといって私たちが心配しないわけじゃないからね」
マルナさん……。なんか、本当の母親みたいでくすぐったいな。これで、4、50歳なら思いっきり甘えられるんだけども、流石に20代の人に甘えるのは抵抗があるよな。美人だし。いろんな意味でもったいない。
「えー、それともう1つのお願いです。もしも、もしもだけど、お魚とか手に入る機会が奇跡的にあるなら、持って帰ってきてくれたら嬉しいかなって」
さっきとは打って変わって、体が縮こまり、恥ずかしそうな表情でマルナさんが俺にお願いをする。少し赤味がかった頬、顔の前で指先だけをちょこんとくっ付けた手、そして上目遣い……ご馳走様です。
食べ物が絡むと、マルナさんは本当に可愛くなる。視線を逸らしているが、グレンさんの頬も赤い。マルナさんに見惚れてたな?
「マルナさんの2つの願いは守って見せます。信じていてください」
もちろん、こんなお願い断れる訳がないよね。マルナさんのお願いを最後に、話し合いを終了した。
今日でルーナ国始動からちょうど半年だ。皆、自分の身は自分で守れるようになり、これでやっと次の段階に進める。後半年以内に全てを整え、2年目からは新しい住民たちと頑張っていきたいものだ。
「えー、ソウ兄ちゃん明日からいないの?」
「すぐ帰ってくるんだよね!?」
両手が次々引っ張られる。夕御飯の後、年少組に明日出て行くことを伝えた瞬間この状態になった。ずいぶんと慕われるようになったものだ。そこまで特別なことをした覚えはないんだけどな。
「俺がいない間、この国のこと頼んだぞ」
「任せておいて!」
「ふん、ソウ兄ちゃんに言われなくても分かってるよ」
バンは相変わらず素直じゃない。でも、俺の袖をしっかり握っている。本音では寂しいのだろう、態度は言葉と違い素直なものだ。俺はあえてそれを指摘せず、バンの頭をそっと撫でた。
「ま、ミハルがいるから心配していないけどな」
「僕にプレッシャーを与えないで下さいよ……」
「ははは」
信頼できる仲間ってやっぱりいいもんだな。
「おにいちゃん…………」
「マリ、どうかしたか?」
「……んーん、何でもないよ。気をつけて行ってきてね!」
「ああ、俺がいなくて寂しいかもしれないが――」
「もう、小さい子どもじゃないんだから大丈夫だよ」
そんな……まさか妹の兄離れ!? 俺はマリと1月も離れると考えるだけで寂しいのに。このまま大きくなったら呼び方が「お兄ちゃん」から「兄貴」、そして「あんた」になるんだ。そして「うざい」「嫌い」「こっちこないで」って言われるようになるんだ。もしそうなったら立ち直れない自信はあるね。それにしても、マリの表情が一瞬暗かったように見えたが、気のせいだったのだろうか。
「マリ、一体どうしたの?」
「おかーさん……」
マリの様子がいつもと違うような気がするわ。まあ、原因はあれしかないわね。
「ソウサクくんが明日出て行くのが心配?」
「んー。そういうわけでもないよ」
マリもお年頃だものね。今までみたいに何でも私に話してくれないか。娘の成長が嬉しいような寂しいような。ダリンがいたらきっと凹んでいたわね。マリのことを本当に愛していたから。ふふ、そう考えるとソウサクくんは少しダリンに似ているかもしれないわね。
「ソウサクくんなら、しっかりしているし、誰よりも強いから大丈夫よ」
「うん、おにいちゃんは強いし頼りになるよ。そうなんだけどね……」
ソウサクくんと離れるのが寂しいのかしら? マリはソウサクくんのこと大好きだものね。多分マリが今感じている気持ちは私も経験したことがあるから良く分かるわ。マリには悔いのないように生きて欲しいし、私から言えることは1つだけね。
「マリ、沢山悩むのはいいことよ。それだけ選択肢があるってことなんだから。でもね、その選択肢を選ぶ時はぜったい後悔しないようにしなさいね」
「後悔しないように……」
あの日の私のようにね。あの時、行かないでってダリンにわがままを言えていたら……ってね。もし、ソウサクくんと出会えなければ、私はダリンの死に囚われて生きていたかもしれないわ。本当にソウサクくんには感謝ね。だからこそ口には出さないけどマリのことを応援するわ。今はまだ家族に対する愛情か、異性に対する愛情なのか判断がついていないかもしれないけどね。頑張りなさいマリ。
「おかーさん、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
いつか、マリがもう少し大きくなったらダリンのことを私の口からちゃんと伝えないといけないわね。あなたの父親がどれだけいい人だったか、私がどれだけ好きだったか、後は思いつきで行動することが多くよく失敗していた、ということもね。娘と恋話で盛り上がるのは少し夢だったのよね。
思いつきで行動するといえば、あの日も魔物狩に行くのに少し家を空けるってい言い出したのは前日の夕飯時だったわね。……まさか、ね。うん、そんなことがあるはずないわ。少し疲れているのかしら、子供たちが不安にならないように私がしっかりしないとね。
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