第23話 懐かしの村
新たな街に到着すると、目を疑うような光景が広がっていた。
結果として街の住人は無事だ。しかし、そこには魔物との激闘の後はなく、いつもと変わらぬ風景がそこにはあった。
「あんたら旅人か? その割には人数が多いな」
「いや、旅人ではないんだが」
門兵が大人数が徒歩で移動することに驚きを隠せないでいる。無駄な混乱を招かないようにファンタ1号はお休み中だ。それにしても平和すぎる。
「ひとつお聞きしたいのですが、ここ最近変わったことはなかったですか?」
「変わったこと?あぁ、そういえば魔物が街に攻撃を仕掛けてくるようになったな」
「えっ、そのわりには平和そうですけど……」
「まあ、来ても両手で収まる数しか来ないし、あの程度なら寧ろ遠征費かからずに魔物討伐出来るからラッキーって感じだな」
どうやらここでは魔物の出現頻度が少ないようだ。それに、兵士のステータスを見る限りとても強そうには思えない。恐らく低級の魔物しか来ていないんだろう。
「何で急に魔物が減ったのですかね?」
「さあ、それは分からないな」
「まあ、今後のことを考えてとりあえずいつも通りのことをしておきましょう」
ミハルの言うとおり、今後魔物が襲ってこないとも限らない。自分たちが打てる策は打っておいたほうがいいだろう。
門兵に断りを入れ、城門から離れて作業に取り掛かる。門兵はこいつ何言っているんだと怪訝そうな顔をしているが、どうせ信じてもらえないのは分かりきっているため、そのままスルーだ。硬石はもう無いため、前回と同じじように堀と土の城壁を造り上げる。
余りの出来事に急に町が騒がしくなったようだが、これはもう仕方がない。おまけのスティールソードとスティールスピア、スティールシールドを転がしておく。当面はこれで凌げるだろう。野次馬が集まらないうちにさっさと次の町を目指すことにしよう。
さらに北上するが、どこの街も先程と似たような状況だった。念のため壁と武器は用意するが、彼らからしたら意味が分からないだろう。
こちらとしても謎が深まるばかりだ。しかし、誰も犠牲になっていないのだから文句はない。車内の雰囲気もずいぶん明るいものになった。
それにしても、先ほどから景色に懐かしさを感じる。そう確かこの先にあるものは――――。
「マジかよ」
「私の見間違いじゃなければあれって……」
「魔物ですわね」
「いやー、見事に積みあがってるっすね」
スペルビア王国最後の村へとたどり着くと、魔物の屍のタワーが俺たちを待ち受けていた。それも1つだけではなく大量にだ。
「ソウ兄、この村はいったい……」
「そう警戒しなくても大丈夫だよ」
「おにいちゃん、ここの村のこと知ってるの?」
「ああ、初めて人の優しさに触れた村さ」
思い返せば、最初にこの村に出会えて本当に良かったと思う。そうでなければ今頃、森の中で引きこもっていたかもしれない。目を閉じれば今でもあの光景を思い出す。農作業に汗を流し、仕事後に皆で食べるご飯は本当においしかった。
久々の再会になるが、果たして彼らは元気にしているのだろうか?いや、このタワーを見れば元気が有り余ってそうだけども……。
「おや、こんなところに団体さんとは珍しいね。あんたら誰だい?」
「お久しぶりです、タークさん」
見張りをしていた男性――タークさんがこちらに気づいたため、笑顔で挨拶する。
「おお、坊主じゃねえか。久しぶりだな! ちょっと大きくなったか?」
もしかしたら忘れられているかもしれないかと思ったけど、その心配は要らなさそうだ。ちょっと安心した。
「覚えててくれましたか。忘れられているかと思いましたよ」
「忘れられるわけねえだろ! あと、坊主には言わなければならないこともあるしな」
「ははは、お手柔らかに……」
あ、あれは説教しそうな顔をしている。やっぱり別れ際のアレのせいだろうか?
「それで、坊主よ。その後ろの方々はどちらさんだ?」
「ああ、彼らは僕の仲間です」
「仲間か! それはよかった。こんな村でよければ歓迎するぞ!! さ、他の皆さんもどうぞ」
仲間と聞いたとたんタークさんは自分のことのように喜んでくれた。なぜタークさんがそんなに喜んでいるのだろうか?
「おーい、みんなー! 坊主が帰ってきたぞー!!」
「おや、本当だ、坊主じゃねえか!!」
「はは、全然変わってないな!」
ちょっとは身長伸びたと思うんだけどな。そして、タークさんたちはだいぶ肉付きが良くなりましたね。なにはともあれ、これから騒がしくなりそうだ。
程なくして村人全員が集まり、宴会が行われることになった。なんかこの感じ懐かしいな。
「なんか、村の住人とは思えない格好ですね」
「え? 何か変なところあるか?」
ミハルが村の人々を眺めてポツリとつぶやいた。俺には変なところなんて見当たらないのだが?
「いや、全員がソウ兄と同じ純白のローブを着用しているじゃないですか」
「え? それのどこに違和感が?」
「……いや、なんでもないです」
そう言って、ミハルが乾いた笑みを浮かべる。白衣なんて当たり前な服なのにおかしなやつだ。
他の皆はどうしているか見てみると、年少組は村人たちと早速打ち解けて楽しそうにしている。さすがタークさんたちだ。あの子たちとこうも簡単に仲良くなるとはね。
チョコさん、ミントさん、マルナさんと会話している村人は鼻の下を伸ばしているが、こればかりはしょうがない。彼女達も楽しそうにしていることだし口を挟む必要はないだろう。
自警団の男子団員はというと、いつの間にか相撲大会が繰り広げられていた。こちらも楽しそうだ。
しかし、そんな楽しい時間も唐突に終わりを告げた。魔物の反応が確実にこちらに向かってきている。
「タークさん、魔物がやってきます」
「ああ、そうか。俺達が処理するから坊主達はそのまま宴を楽しんでいてくれ」
そう言って、彼らは草刈り鎌と畑を耕すためのクワを担ぎ、まるで魔物の来る方向が分かっているかのように悠然と歩き出す。
「俺達も手伝いますよ」
「いやなに、客人はゆっくりしていてください」
そんなやり取りをしている間に4メートルを超える大型魔物巨人狼、三頭狼が手下の魔狼を沢山引き連れて現れた。これは強敵だ。
「やっぱりそんな農具じゃ太刀打ちできねえよ、俺達も手伝う――」
「だから心配しなさんな」
タークさんは自然な足取りで三頭狼まで近づくと、空高く跳躍し――気がつくとその3つのうち端の2つの首がドサリと地面に落とされた。その右手には2メートルを超える地獄からの来訪者を彷彿とさせる大きな鎌が握られていた。
そこからは一方的な戦いであった。
タークさんがその右手を一振りすると三頭狼の最後の首が落とされた。
巨人狼に向かっていった村人は、その右手に握られている2メートルを越す三又槍を突き刺す。その穂先は分厚い毛皮を易々と貫通させ、その心臓を焼き尽くす。 ボスを失った魔狼は他の村人に一掃され、ものの数分で魔物の大群が処理された。
これを見た自警団の面々はその強さと連携の良さに目を白黒させている。子どもたちは「じっちゃんたちすげー」と大興奮だ。
いやいやいや、まず60を超えている人たちの動きじゃないでしょ。たしか前までは害獣を倒すのでさえ苦労していたはずだ。どれだけ魔物を倒せばあそこまで強くなるのやら。あのタワーもタークさんたちが倒してきた魔物だろう。
「いやー、疲れた疲れた」
「お強いですね」
「なに、俺達が戦えているのはこの武器と服のおかげさ。な、坊主」
実は別れ際にタークさん達にプレゼントとして鎌とクワをプレゼントしていたのだ。武器に変形するお手製のやつをね。でも、子どもの悪戯心でつい作ったものがこんなに役に立つとは思わなかった。特にタークさんの使用していた鎌と、もう1人が使用していた巨大な三又槍の性能はぶっ飛んでいたはずだ。あの時はまだ自重という言葉を知らなかったからな。
「しかし、最初は死んだかと思ったよ。最初に魔物が襲撃してきた時に誤って『誘魔の花』を逃げる準備が出来る前に村の入り口に設置しちまったからな!お陰で戦わざる負えなかったんだ」
「えっ!?」
「いやー、あの時は死んだかと思ったぜ。まぁ、今となっては笑い話だけどな」
誘魔の花、それは俺が作った逃走用のアイテムだ。魔物の好む香りで魔物を引き寄せるという性質をもつ花があったんだが、それを大量に使用して圧縮することで広範囲に効果を及ぼす『誘魔の花』というものを作成していた。この匂いが届く範囲の魔物は、その誘惑に抗えず、他の何もかもを無視してこの花に群がるというアイテムだった。これを、いざという時の為に一緒にアイテム袋の中に入れていたのだけど、まさかそんなことになっていたなんて。
これで合点がいった。何故、ここより南の一部の街に魔物が殺到しなかったのか。それは、そのアイテムの有効範囲内に入っていたからに他ならない。
「いやいや、本当に無事で良かったですよ……」
「なーに、今では魔物退治はいい肩慣らしにならぁ。それに食料にももう困らないからな」
確かに前よりも若々しくて、筋肉の量も比べ物にならないような気がする。まるで本当に20歳くらい若返っているようだ。
「ははは、元気そうで何よりですね……まぁ、取り敢えず宴を続けましょうか」
「いや、その前に坊主に説教だな」
忘れていなかったか……。
その後、例の袋を説明もなしに押し付けたことに対して説教されたのは言うまでもない。
【名称】 上級アイテム袋(装飾:知識石)
【クラス】雑貨
【詳細】
5トン収納可能なアイテム袋。魔力を通すことで中身がわかり、自由に出し入れ可能。
収納中は時間の概念がなくなる。魂のないもののみ収納可能。
※知識石に蓄えられた知識は次に触れた者対し問答無用で流れ込む。
【名称】 炎死鎌
【クラス】装備
【詳細】
魔力により最大3メートルまで巨大化する鎌。
刃に魔力を通すと刃から炎を生み出し、その炎は尽きることがない。
地獄の死神が使用する鎌に酷似している。
【名称】 炎三又槍
【クラス】装備
【詳細】
魔力により最大3メートルまで巨大化する三又槍。
刃に魔力を通すと刃から炎を生み出し、その炎は尽きることがない。
変形することで普段はクワとして使用することが可能。
【名称】誘魔の花
【クラス】雑貨
【詳細】半径300㎞の範囲において、殆どの魔物をその匂いで引き寄せる。魔物はその匂いに抗うことは困難であり、何よりもその場所へ到達するのを優先される。以降はその花を守ろうと周囲に近づいた者を見境なく攻撃する。鼻のない魔物には効果なし、効果は3日間持続する。
お読みいただきありがとうございます。
再び登場タークさん。彼の伝説はここから始まった……




