第17話 魔物襲来
王都から離れる直前に、ある細工を行う。あまりの変貌に王都の住民は驚いているが、今はそれどころではない。その後、時間の余す限り他の街へも向かい、同様の細工を行った。領土が半月系であるため、どの街も森が比較的に近くにあり、すべて対策しないといけないのが正直辛い。
7か所目の街へ到着した時その時は遂に訪れた。大地を揺るがす地響きが鳴り響く。数百を超える魔物たちの進行が始まったのだろう。徐々に魔物達は街へ近づき、そのおびただしい数が肉眼でもよく分かる。
「きゃぁぁぁ」
「うわぁぁ魔物だ!」
「兵士は? 冒険者はどこだ!!」
「にげろぉぉぉ」
「うわぁぁん、おかーさーん」
「メイ、メイどこにいるの?」
今まさに迫りくる魔物たちを見て人々は悲鳴をあげている。人を押しのけ我先にと街の中央へかける者たち時には子ども老人を踏み倒して行くやからもいる。こんな人間を助けないといけないのかと思うと気がめいるが、全員がそういうわけではない。
しかたない、さっそく準備に取り掛かるとしよう。
「みんな、ちょっと揺れるから気をつけて!」
魔物の群れに向かいファンタ1号を突進させる。ブチブチと肉が引きちぎれ、バキバキと骨の砕けるような音が木霊する。車両が通った後は血の道が出来上がっており、その光景をみて魔物たちが一瞬怯む。
幸いにも低級魔物しかいない。この気を逃してはならない。今までと同じように、急いで一枚の『硬石』カードを取り出す。この世界で一番あり触れた鉱石だ。 そして、外観からおおよその街のサイズを計算しカードを創りかえる。
【名称】 硬石の壁
【クラス】建物
【詳細】
硬石でできた高さ5メートル、厚さ5メートルの壁。防腐、防劣化、防水、防火処理が施されている。要所に階段がついており、城壁の上に登ることも可能である。
「リリース!」
早口で唱えると、街の周りを堅固な壁が多い尽くす。入り口は北と南の2箇所のみ。次に『土の塔』で一気に上空へ上がり、壁の外側を視認する。すると、壁の外には見事な堀が出来上がった。10メートルほどの深さがあるため、壁の高さと合わせると15メートルになる。これを乗り越えられる魔物はこの近辺にはそういないであろう。
これならば、魔物の進入箇所は限られており、1対大人数での戦闘が可能だ。魔物を倒す事で自然と住人の身体能力も上がり一石二鳥だろう。
運転席から顔を出さずに、戸惑いを隠せない町の人々に向かってメガホン片手に声を張り上げる。
「聞け、皆の者。我らはアワリティア王国騎士団である。此度魔物の襲来が起こることを予測して馳せ参じた。皆周りをみろ。この通りこの町はわが国の秘術により厳重な守りを固めている。魔物が押し寄せてくるのには代わりがないが、その出入り口と反対の南門の2箇所だけだ。そのような狭き門からしか魔物は入ってこれないため魔物1匹に対して大人数で戦うことができるはずだ。武器を持て、自分達の住まう土地を家族を守るのだ! さあ民衆よ今こそ武器を持ち立ち上がれ!」
町の人々は俺の演説を聴いた後、このような奇跡を体現させて見せた俺達に信仰の眼差しを向ける。そして、先ほどまで及び腰だった者たちが「やってやる」「己の土地を守るんだ!」とやる気に満ち溢れていた。
ここまでくれば最後の仕上げだ。仮面をつけたままファンタ1号から降りる。時間もないため、門内に入り急いでアイテム袋から中身を取り出す。
運転の合間に作り上げたスティールソード、スティールランス、スティールシールドだ。防劣化処理を施してあるため、鉄よりも硬く、本来の鋼と違い割れにくい武具に仕上がっている。これを各500セット用意した。
武器を置いた後、急いでファンた1号に乗り込み再度声を張り上げる。
「魔物退治にはその武器を使え。普段貴様らが使っている武器よりも優れた武器だ。非力な女子どもでも、低級魔物にならば致命傷を与えることが可能だ。それでは諸君らの健闘を祈っている」
演説終了後、町の人々は次々と武器を手に持つ。その目は覚悟の決まった目をしていた。これならば被害を最小限に食い止める事ができるはずだ、もう安心してもいいだろう。念のため、もう少し魔物を間引くたびにファンタ1号を魔物の群れに突っ込ませた。
「ソウ兄お疲れ様、一旦休憩を挟んだほうがいいですよ」
次の街に向けて車両を走らせていると、ミハルが飲み物片手に隣へやってきた。気がつけば周りは薄暗くなり、お腹が夕飯の時間であることを知らせてくれる。
「ああ、ありがとう。皆もすまないな結局猛スピードで車を走らせることになって」
あれから10箇所ほど街を巡った。そこまで甚大な被害を受けたところはなかったが、これからは漆黒の闇だ。このタイミングで襲われたらどんな被害が出るか想像がつかない。低級魔物だけならまだしも、雷狼級の魔物が出ればひとたまりもないだろう。現に氷豹、炎虎、光犀と雷狼級3体に遭遇している。これ以上出てこないなんていう楽観視は出来ない。
「大丈夫ですよ。ソウ兄が一生懸命他人のために尽くそうとしているのを分かっていますから。ソウ兄は僕らが危険な目にあわないように、無理させないように気を使いながらも、他の人たちを一人でも多く救おうと最善の手を尽くしていますよ。それこそ僕らでは到底成し得ない手を使ってね」
「ああ」
「でもね、ソウ兄僕らだけじゃなくて、ソウ兄自身の体も大切にして欲しいんです。ソウ兄今すごく疲れたような顔していますよ。気づいてないかもしれないですけど、マリちゃ――マリも、マルナさんも、バン達だって心配しています。何にもしてない僕が説教するのもおこがましいかも知れないけどね」
確かに今日は巨大な建造物をたくさんつくり、ファンタ1号を動かすために常に魔力を使い続けている。ステータスをみてみるとMPの残量が500を切っていた。通りで疲労感を感じていたはずだ。
車を止め周りを見渡すと皆心配そうな表情を浮かべている。特にマリやマルナさんは一段と表情が暗い。
「ごめんなさいね、私が出発前にあんなことを言ったばっかりに……ソウサクくんに頼りっきりでダメなおばさんね」
「おにいちゃん大丈夫? マリに手伝えること何かない?」
「マルナさん、マリ……」
「ふん、ソウ兄ちゃんがどうなろうが俺は気にしないけど、他のやつらは気にするんだよ。だから……無理すんじゃねえよ」
「バン……」
どうやら、また周囲が見えていなかったようだ。あれだけ身内以外は見捨てるって覚悟決めたはずなのに、こいつらを不幸にさせないって誓ったはずなのにこのザマだ。前から何も進歩していない。皆にこんな顔をさせて、マルナさんやマリにあんなこと言わせて何やっているんだ。もう失敗しないって決めたじゃないか。自分の力量以上のことをしようとすると、自分だけでなく周りの人間まで不幸にしてしまう。それだけは絶対に嫌だ。
やれやれ、それを年下の少年にたしなめられるとはな。
「ミハルがいてくれてよかったよ」
「うん、僕もソウ兄のお役に立てて何よりですよ」
「言ってくれる……みんな、そろそろ夕ご飯でも食べようか。マルナさん、おいしいご飯期待していますよ?」
「ソウサクくん……ええ、腕によりをかけて作るわ。マリや他の皆も手伝ってくれるかしら?」
「任せて!」
「はーい」
これでいい。今はここにいる皆のことだけを考えていればいい。例え残りの街が滅びてしまおうとも、どれだけの人が死んでしまおうとも。勿論出来る限りのことはするが。
結局のところ一番大切なのは身内だ。エゴだろうがなんだろうが知ったことではない。だからせめて、他人を救えなかったことに後悔して嘆くのではなく、次はより多くの人を救えるように努力すればいい。後悔して嘆くということは、身内の幸せを後悔しているようなものだ。
それに、俺は神でもなんでもない。俺の力が足りないばかりにだなんて、人々を馬鹿にしているようなものかもしれない。だって、俺なんかいなくても人は生きていけるからだ。
いろんな意味で、皆にはお礼をしないといけないな。正面からもう一度、素直にお礼を言うのは恥ずかしいから他の手で。そういえば、デザートはまだマルナさんに教えてなかったよな。よし、今日はプリンでも作るか。カードで作るから洗い物いらず。時間も1分もかからないなんて、よくよく考えたら究極の手抜き料理だよな。でも美味しいからいいか。
その夜の夕飯はプリンが大盛況であった。マルナさんなんか始めてのプリンに感激して作り方を教えて欲しいと迫ってくる始末。顔が近いのでとても恥ずかしいです。
因みにマルナさんは食べただけでプリンの材料を全て言い当てた。まさかと思い恐る恐るステータスを覗くと、『調理技術lv3』になっていた。
マルナさんが世界一の料理家になるのも夢ではないかもしれない。
お読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。
※作中に出てきた乗り物は飲み物ではありません。
さて、皆様はGW同お過ごしでしょうか?私は悲しいことにお仕事です……。連休なにそれ美味しいの?




