第16話 大所帯
「そろそろアレが欲しいよな……」
王都での生活最後の日、カードを一面に並べて思案していた。
推測が正しければ、今日にでも魔物たちが押し寄せてくるだろう。その前に俺たちはこの国を出なければならない。訂正、この国の人たちを見捨てて逃げなければならない。
出来るのならば全員助けてあげたい。いや、助けるべきだ。しかし、今の俺の力では限界がある。理想を求めるのはいいが現実も見据えなければならない。見知らぬ他人を救って、助かって欲しい身近な人を危険にさらすなんて真似はもう二度としない。
さしあたっては、足が必要になる。人力車は正直勝手が悪い。もっと大人数を収容できる乗り物が必要だ。
今の段階では7種類までしか合成に使う事ができない。何をどう組み合わせるかが問題になる。
まず、『雷狼』『鉄』『天然ゴム』『銅』『木』この5種類は必要だな。特に、『雷狼』は『雷袋』を所持しているため、動力源として必須だ。後は簡易モーターが作れれば何とかなるだろう。幸いにも防劣化処理を施すことができるため、壊れる心配はない……と思いたい。だから素材自体がすぐ駄目になるようなものでも問題ないだろう。後はオーバーヒートしないような処理だけど『水の結晶』を使用することで解決出来るはず。
ま、失敗したらその時はその時、物は試しに創ってみようじゃないか。
「ふははははははははは」
「おにいちゃん、なんだか気持ち悪い」
「ぐはっ」
現在朝の6時であり、この国とさよならする準備をしている。準備と言っても朝ごはんを食べているだけだが。マルナさんお手製の柔らかいパンと野菜たっぷり具沢山スープだ。うん、美味しい。
「今日ようやくその子達と会えるのね」
「すみません、マルナさんに子守をさせることになって」
「あら、話を聞いている限り手のかかる子達じゃなさそうだし、別にもっとやんちゃでもよかったのよ?」
「大人に頼ることの出来ない状況で育ってきましたからね」
本来ならば、孤児院の子ども達は甘えたい年頃のはずだ。しかし、育った環境がそれを許してくれなかった。頼れる大人が1人もいないため、自然と自立するしかなかったのだろう。
「おかーさん、おかわり!」
「はいはい、マリは食いしん坊ね」
「育ち盛りだからいーの」
いつもの暖かな親子のやり取り。マルナさんと接することで、マリのような子どもらしさを取り戻すことを祈るしかない。
それにしてもマリは最近食べすぎじゃないか? 将来ぶくぶくに太らないかおにいちゃん心配だよ。
朝食後さっそく3人で孤児院に出向くと、すでにミハルたちが荷物をまとめて待っていた。
俺達について来る為に待っていたのか、それとも別れの挨拶をするために待っていたのか。どちらにしろ問わねばならない。
「ミハル、返事を聞かせてもらってもいいか?」
「ええ、話し合いの結果満場一致で決まりました。やっぱり、僕達は他人を信用することができない」
「そうか」
やはり、あの短期間でこの子達の信頼を得るのは難しかったのだろうか。
「ずっとそう考えていました。でも、ソウ兄は父のことを馬鹿にせず信じてくれた」
「ソウ兄ちゃんのおかげでおなかいっぱい食べることができました」
「あんなに殴ったのに、罰することもなかったしな。やり返す度胸がなかっただけかもしれないけど」
「他の人たちみたいに怖いことしなかった」
「マリお姉ちゃんと遊んだのも面白かった!」
なんだ。心配して損した。全面的に信頼しているわけではないのだろうが、ちょっとは信頼を得ることができていたようだ。
マリもお姉さん扱いされて少し嬉しそうだ。ますますお姉さん風を吹かせることになるだろう。
「だから僕達のことよろしくお願いします。ソウ兄には期待していますよ」
「ああ、こちらこそ。お前達を不幸には絶対させないさ、絶対にだ」
二度と不幸にしてたまるものか。
3人から14人と大幅に旅の仲間が増えた。これから賑やかになりそうだ。
「それで、これからどうするのですか?」
「そうだな、その前にこれを渡しておくよ」
1枚のカードを取り出しミハルに手渡す。俺の能力を知っている彼ならば、只のカードでないことがわかるはずだ。
「カード? ……アイテム袋ですか。ソウ兄これはどうやって使うのですか?」
「さすが、理解が早いな」
使い方を説明し、実際にその能力を試してもらうと、ミハルを含む子ども達は全員目が点になっていた。 未知のものを見せられた時人の反応。これほど楽しいことはなかなかない。最近はマリもマルナさんも俺のやることに驚くことが少なくなり、新鮮味にかけていたのだ。
しかし、これはまだまだ序の口だ。町の外に出た時こそ俺の本領発揮だ。
「とりあえず、王都から出よう」
すぐに裏門に行き手続きを済ませる。
みんな着の身着のままのため、手続きもすぐに終わる。持っているものといえば「アイテム袋」と書かれた1枚のカードだけ。門兵は不審な顔をするものの、引き止めるだけの理由もない。そんなわけで1人1分程で出国手続きは終わった。
「さて、それでは行こうか」
みんなを振り返り宣言すると、マリ、マルナさん、そしてミハル以外の面々は不安そうな顔をしている。てっきり門の外に馬車でもあると思っていたのだろう。それが平野が続いているだけで何もない。不安に思うのは当然だ。ミハルが何も心配してなさそうなのは以外だった。それだけ信頼されているということだろううか。
マリとマルナさんは、いつもの人力車みたいなものが出てくると思っているのだろう。ふっふっふそれはハズレだ。いい意味でその期待を裏切ってやろうじゃないか。
アイテム袋から一枚のカードを取り出し空に掲げる。
「いでよ、ファンタ1号!」
ズドンと大きな地響きと共に、巨大な鉄の塊が出現した。その外観はSLを彷彿とさせる。ただし、先端はドリルのように鋭く尖っている。車輪はSLとは違い、どの地形にも対応できるようにキャタピラーを採用した。
正式名称は『ファンタジー満載の素材で出来た乗り物第1号』、略して『ファンタ1号』だ。
ちらりと後方をみるとマリやマルナさんも含め、顎が外れんばかりに口を大きく開けている。
その更に後方、門兵たちの様子を伺うと、彼らも驚きのあまり、ファンタ1号を見つめたまま微動だにしない。まるで時間が止まったようだ。
うむ、満足満足。やはり自分の創ったものをみて他人が驚く姿というのはなんとも心地よい。
「さて、乗ってください」
扉を開け、皆に乗り込むように指示を出す。俺の言葉を皮切りに、再起動した子ども達。主に男子諸君のテンションがうなぎ登りだ。
「うわぁぁ、かっけー!!」
「すごい、こんな大きな乗り物始めてみた!!」
「これ、乗ってもいいの!?本当に??」
みんなでわいわい言いながら次々と乗り込んでいく。
「ソウサクくんのやることには慣れたつもりだったけれど、さすがにこれは驚いたわ」
「おにいちゃん、やっぱりすごいねー」
「はは、やはりソウ兄についてきて正解だったかもしれませんね……」
最後にマリたち3人が乗り込んでくる。
ふと、ミハルが足を止め王都を振り返る。
「この国の人たちは大丈夫なのでしょうか」
ポツリとそんなことを呟く。今まで散々酷いことをされてきただろうにそれでも他人を心配することができる、それがミハルという男の本質なのだろう。
「ふふ、ミハルくん、大丈夫よ。ソウサクくんが対策を考えていないはずがないもの」
「ちょっと、マルナさん過度のプレッシャーを与えないで下さいよ」
「でも何か用意はしてあるのでしょう?」
「まあ一応……」
「はは、ソウ兄さんにはかないませんね」
ここまで信頼されると逆に恥ずかしい。話を逸らすべく運転席に座り運転する準備にはいる。
硬直が解けた門兵たちが、武器を構えて次々と押し寄せてきているため速く出発したほうがいいだろう。
「それじゃあ出発しまーす」
ハンドルを握り少しずつ魔力をこめる。するとその魔力に雷袋が反応してエネルギーを生成するという仕組みだ。
キャタピラーがキュルキュルと音を鳴らし前に進み始める。ファンタ1号初走行は上手くいきそうだ。
走り出すと乗っている子ども達がキャッキャとはしゃぎ出す。楽しんでもらえて何よりだ。さあ、目的地まで全速力だ。気合と共にハンドルにこめる魔力の量を一気に増やす。その瞬間、ファンタ1号は体感時速200キロで程度で走り出す。
魔力のこめる量によって速度が変わるようになっているが、調整がなかなか難しい。普通ならばこんなスピードは出ないだろうが、さすがファンタジー。このままのスピードは事故にも繋がるから急いでこめる魔力の量を減らす。警察に見つかったら罰金どころでは済まされないな。
後ろの座席では阿鼻叫喚をあげる子ども達。気のせいかもしれないが、親の敵を見つけたような視線が突き刺さっているようなきがする。
ようやく速度が落ち着いてきた頃、マリから大説教を食らったのは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございます。
仲間が増えるって良いですね‼




