第15話 ホラ吹きミゼル
「おいおい、ホラ吹きミゼルの息子が来たぜ」
「まだ王都に住んでたのかよ」
「俺だったら恥ずかしくて外なんか歩けねえよ」
「あんなガキ共のたまり場、とっとと潰しちまえばいいのになあ」
ひどい言われようだ。彼の父親は一体全体何をしたのだろうか。
しかし、親がどうであれ大人たちがこんなに小さい子どもに向かって罵詈雑言を浴びせるのは見ていて気分が悪い。もしかしたら彼自身すごく悪い事をしているのかもしれないが、それは今の段階で判断しようがない。
「…………換金、お願いします」
何かに耐えるように全身の震えを押さえ込み、爪が食い込むほど右拳を握りこみつつも彼はここに来た目的を再度告げる。
今の場面を見る限りでは彼の印象は悪くない。少なくともこの場にいる冒険者よりは仲良くなれそうだ。
彼は左手に持った害獣をお姉さんに手渡した。
「はいはい、今日は子狼と高兎ですね。それでは代金はキリよく大銅貨5枚でいいですね。はい、それでは後ろがつかえますのでもう行ってください」
「ありがとうございます……」
お姉さんの対応が雑というか冷たい。しかも代金も適当につけている感じがする。彼もそのことに気がついているのだろう。だからといって他の商人相手ではもっと安く買い叩かれてしまうのかもしれない。嫌な思いをしながらも、ここに売りにくる彼自身の行動がそれを物語っている。
彼が建物を出て行くと同時に、金貨を1枚取り出しお姉さんに笑顔を向ける。もちろん彼のことを聞くためだ。お姉さんはあきれたような顔をしながらも、しっかり金貨を握り締め丁寧に説明を始めた。
「彼の父ミゼルという元冒険者がいたんだけどね、彼が2年前突然言い出したの。魔除月の効力なくなるから今すぐ対策しないといけないって。馬鹿馬鹿しいでしょ? そんな訳ないのに。今も魔除月の効果範囲に魔物が入ってきたって言う情報が一切ないって言うのにね。もちろん誰も聞かなかったんだけど、あまりにしつこいからそれを証明してみせろって言ったのよ」
「なるほど。それで、そのミゼルさんはその後……」
「彼は証明してみせることもなく亡くなくなったわ。魔物に殺されてね」
あんなに幼くして父親を亡くすなんて……。
「そうなんですか。でもそれだと、あそこまで彼が嫌われている理由が分からないのですが」
「ミゼルが死んだから問題なのよ。彼は元々そこそこ腕のある冒険者でね、冒険者ギルドにとってもお得意様だったのよ。彼が変なことを言い出す前かな?ある土地を貸して欲しいって話があったの。で、その土地を2年契約で貸すことになったんだけども、その際手持ちじゃ足りないからってことで、今後狩ってきた害獣や魔物を2年間本来の買い取り価格の半分で取引するって契約をしたわけ」
「契約してすぐ死んでしまったからギルドは大損をしたと」
くだらない、実にくだらない。
「そう、残念なことに法律的には問題はないからあの土地を2年間は奪い返すことができなかったしね」
「ギルドのことは分かりましたけれども、他の冒険者たちのあの態度は?」
「ああ、それはあれよ。その土地に彼は孤児院を建築したんだけれども、その建築費を他の冒険者たちから借りていたのよ。正式に書面で契約していたわけでもないから取立てもしづらいし、そもそもあの子たちからお金を巻き上げようにも子どもがそんなに稼げるわけないしね。それで彼は、冒険者の間でホラ吹きミゼルって呼ばれるようになったわけ」
内容は良く分かった。この国の人たちはミゼルさんのせいでお金を損してしまったと。だがしかし、彼の子どもたちに何の非があるというのだろう?
裏門の近くにその孤児院はあった。これは元冒険者のミゼルさんが建てた孤児院であり、後10日程で取り壊される予定らしい。
敷地内には畑があり、子どもたちが野菜を収穫していた。しばらく様子を眺めていると、茶色い短髪のいかにもやんちゃそうな吊り目の少年と目が合った。ちょうどいい、彼に聞いてみよう。
「ちょっといいかな、僕はソウサクっていうんだけどミハル君はいるかな?」
「なんだおまえ、ミハル兄ちゃんになんの用だ!」
いきなり喧嘩腰で対応される。うーん、察するに今までも変なやからが何人も来ていて警戒しているのかもしれないな。よし、溢れんばかりの優しさオーラ全快でいこう。
「ちょっとお仕事を頼みたいだけなんだ。大丈夫、いいお金になるし、危険な目にあわせるつもりもないよ」
「お前みたいな子供が頼む仕事なんてミハル兄ちゃんが受けるわけないだろ!帰れ!」
うんうん、今まできっと沢山の怖い目にあってきたんだろう。こんな反応になるのは仕方ないさ。
「子どもだけどもお金はほら、ちゃんと持っているんだよ。だから安心して。ミハル君と少しだけ話させてもらってもいいかな?」
「うるさい! 金があるからって騙されるもんか。お前みたいな怪しいやつミハル兄ちゃんに会わせるものか!」
ポカポカ
力のこもった拳で殴りかかってくる。いたいいたい。ダメージはないけれどもなんとなく痛いような気はする。でもこの子の心のほうがもっと痛いはずだ。
「ちょっとだけでいいんだ、話をさせてもらえないかな」
ポカポカポカ
「す、少しだけお話聞いてもらってもいいかな?」
ドカドカ
どうしよう、なかなか話が進まない。ここは一度立ち去ったほうが……
バンバンボコボコドカドカ
……立ち去ったほうがいいと思ったけども、さすがに何もしていない相手をここまで殴っているんだから少しお仕置きしてもいいよな?いいよね?
左右とも握りこぶしを作り、彼の頭を挟む。
ゴリゴリゴリ
「少しお話を聞いてもらってもいいかなー?」
「あたたたた、わかった、わかったからちょっとまって!」
「うむ。分かれば宜し――」
「バン、どうしたんですか!?」
騒ぎを聞きつけたのだろう。栗色の少し長めの髪を後ろでくくり、メガネをかけた少年――ミハルが小走りでやってきた。
「げっ、ミハル兄ちゃん」
「……バン、いつも言っているでしょう。どんな人が来てもきちんと対応してくださいって」
「だってこいつが仕事を頼みたいとか怪しいこと言うから……」
「だってじゃありません。それに、あなたから危害を加えたら何をされても言い返すこともできないのですよ」
「うう」
「この子が無礼を働いて申し訳ありませんでした。ほら、バンも頭を下げなさい」
「もうしわけありませんでした」
頭をグーで挟まれたバンを見て、これまでの経緯を察したのだろう。バンを説教し俺に謝罪をさせる。ミハルは10歳だったよな。俺みたいに年齢詐称していて実は20歳ですっていうオチではないよな?
「いえいえ、こちらも急にこんな話をしたのが悪かったですから」
「そう言っていただけると助かります」
「それでは改めまして、私の名前はソウサクと申します。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧にありがとうございます。私はミハルと申します。それで、私に仕事の依頼をしたいとのことでしたが」
「ええ、私はよその国から来たのですが、実は先ほど冒険者ギルドであなた達のことを聞きまして」
「そう、ですか」
「それで、話を聞いた限りミハル君たちにはお金が必要ですよね」
「……っ、はい」
少し酷かもしれないが、この手のタイプには正面からはっきり言ったほうが効果的だろう。
それにしても、この年齢の子どもたちがする会話の内容じゃないような気がする。自分の年齢がいろんな意味で分からなくなりそうだよ。
「それで、あなたが依頼したいお仕事というのは何でしょうか?」
ミハルはこちらの一挙一動を見逃さないように鋭い眼光で観察しながら話を促す。こちらの話が益になるか、害になるか冷静に判断しようとしているのだろう。
だが残念。たぶん君が考えているような仕事内容じゃないんだ。俺がお願いしたいのはすごく簡単なお仕事だ。ミハル君の緊張を解くためにもとびっきりの笑顔を浮かべる。
「ミハル君、いや、ミハル君たちに頼みたいのは、町の案内と――妹のお友達になってくれないかな?」
お読みいただきありがとうございます。
メインヒロインの登場会です(違う)
少しでもGW中の暇つぶしにでもなれば幸いです。




