第11話 口は災いの元
4人とも白衣を着てはしゃいでいる。白衣を着ると自然にテンションが上がるのは仕方のないことだろう。グレンさんとトリゾウさんに至っては剣で斬り合っている始末だ。
改めて4人をみると、先ほどまで戦闘集団だった者たちが今では理系集団に見える。というか、俺より似合っているような気がする。これが越えられない年齢の差というものだろうか……。
みんなの興奮が一通り落ち着いた後、次は武器を1人ずつ手渡していく。まずはグレンさんだ。
「はい、グレンさんはこれを使ってください」
銀色に輝く一振りの剣を手渡すと、グレンさんの目が見開かれる。
「こ、これはなんて素晴しい剣だ。使用している素材は検討つかないが、鉄よりも硬そうだ。しかも鏡のように磨き上げられた剣身。なにより、この剣から黄色く強いオーラを感じる。ほ、本当にこれをもらってもいいのか!?」
「え、ええ。前の剣よりも優れていることは補償しますよ」
「くー、こんな剣を一度でいいから使ってみたかったんだ。これはなんて言う剣なんだ!?」
「この剣は、今はホーンソードと言います」
「ホーンソードか、悪くない名前だ。早速試し切りしてくるぜ」
待ちきれないのであろう、早足で団員の下へと帰っていった。時折、「鎧が真っ二つだ」、「刃こぼれが全然しないぞ!」など、興奮しているのが手に取るようにわかる会話が繰り広げられている。……ナチュラルに装備を破壊しているが良いのだろうか?
ふと、視線を感じたためそちらに目を向けると、トリゾウさんが物欲しそうな目でこちらを見ていた。チョコさんとミントさんも トリゾウさんほどでないにしろ、期待をこめた目でチラチラとこちらの様子を伺っている。まるで、新しい玩具を欲している子どもみたいだ。チョコさんとミントさんは可愛いからいいが、おっさんのそんな目は見ていても嬉しくはないのでさっさと渡してしまおう。
「トリゾウさんはこの『シザース』をお譲りします」
「これは、武器と言うよりも大きなハサミっすか?」
「ええ、そして、ここをこうしてこうすると、あっという間に双剣に早変わりです」
「おお、これはなかなか面白い武器っすね!」
「ここだけの話、鋭さはグレンさんの剣よりも上ですよ」
「そうなんすか!? それはリーダーには秘密にしといてあげたほうがいいっすね。とりあえず試し斬りしてきてもいいっすか?」
興奮を抑えきれないままトリゾウさんは両手に剣を握り締め、木々のある森の入り口へ向かっていった。しばらくすると木々の斬れる音が鳴り響いており、試し切りしている様子がここからでも想像できる。
「あ、そういえば毒のこと伝え忘れ――」
「ふっひっひっひっひっ、こりゃぁいいっす!」
「…………」
うん、後にしよう。
さーて、最後にチョコさんとミントさんに指輪をわたさないとな!完全にお預けをくらった動物みたいだ。これ以上待たせるのは酷だろう。
「チョコさんとミントさんはこれをどうぞ」
白衣のポケットから指輪を取り出す。まるでプロポーズしているみたいで少し緊張する……なんてね。
「「指輪!?」」
どうしたのだろうか、彼女たちが完全に固まっている。なんだか顔もほんのりピンク色に染まっている気がする。
「わわわたわた」
「ええと、その、あの」
ふむ、口をパクパクさせている。ここまでくると少し面白いな。まるで鯉みたいだ。
「んん、わっわたしたちにプロポーズなんて10年早いわよ坊や」
「そっそうですわね。もう少し大人になってからなら考えてあげてもいいですわ」
「そっそれに、私たちまだお互いのことよく知らないし……」
「まっまあ、お互いのことをもっと知るために、デッデート位ならしてあげてもいいわよ」
あー、しまった、完全に俺のミスだ。なにも考えずに渡したが、本当にプロポーズと勘違いさせてしまうとは思わなかった。まさかこっちの世界でも地球と同じ意味が込められていたとは思っていなかった。そろそろ本気で自分の行動を見直さなければならないかもしれない。というか、子供相手に戸惑いすぎじゃなかろうか。なんだが二人の姿を観ていると罪悪感に苛まれる。いろんな意味で。
「えっとー、その、これはそういう意味ではなく、杖の代わりの指輪型魔力増幅装置でして」
「「……」」
「ぷっ、おっおまえら、ざんね……ぷっ、残念だったな」
「くっ、これは恥かしいっすね。子どもから告白されたと勘違いして、しかもうろたえるとかヤバイっす」
いつの間にか試し切りを終えて戻ってきた2人が、今のやり取りを見て大爆笑している。あ~あ、そっとしてあげた方がいいだろうに。チョコさんとミントさんの顔色を伺うと、肌は桜色から真っ赤なりんごへと変色し、今にも爆発しそうだ。
「……ソウサク君、これは指につけるだけでいいの?」
「……前の杖よりも効果はあるのかしら?」
二人の笑顔が怖い。すごく可憐な笑顔なんだけれども、背筋が凍るような恐怖を覚える。というか、眼が据わっている。男性諸君、君たちのことは3日位忘れないよ。
「ええ、着けるだけで常時発動します。威力は前の杖よりもありますよ。魔法の威力の1.3倍って所ですね。因みに名前は『マナリング』といって、こちらの猫の装飾が施されているのをチョコさん、犬の装飾が施されているのをミントさんが使用してください」
「そうなのね、分かったわ。ありがとう」
「1.3倍となると高火力の魔法が使えそうですわね。ありがたく頂戴いたしますわ」
使い方と威力さえ分かればもうどうでもいいのだろう。装飾については完全に無視だ。まあ、今は怒りをぶつけることが先決だろうから仕方がないか。
「そもそも誰が好き好んでお前らなんかに告白するか――」
「そうっす、2人とも自分の性格見直したほうが――」
「「ライトニングナム!!」」
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」」
「あら、本当に威力が上がっているわね」
「そうですわね、前とは比べ物にならないですわ」
「おっと、手が滑ってビックファーヤーボールが」
「あら、私も手が滑ってアーストリプルアローが」
「「ひぃぃぃぃ」」
2人とも白衣を着ていて命拾いしたな。2人の白衣はその純白さを失わず、その性能を遺憾なく発揮していた。
だが、想像してみて欲しい、たとえ攻撃が効かないとして、電撃を浴びせられたり、自分の周囲を火の玉や土の矢が通り過ぎていく光景を。口は災いの元っていう言葉の重みを改めて実感した。触らぬ神に祟りなし、彼女たちの気が済むまで好きにやらせてあげよう。死ぬことはないだろうからね。
やることも無くなった為に手持ち無沙汰にしていると、マリとマルナさんがやってきた。
「おにいちゃんお仕事のお話は終わったの?」
なるほど、マリが全然話しかけてこないなと思っていたが仕事だからと遠慮していたのか。なんて良い子なのだろう。おそらくマルナさんが説明してくれたのだろう、本当に頭があがらないな。
「ああ、終わったよ。待たせて悪かったね」
「だいじょうぶ、マリは大人だから気にしないよ!」
無理して背伸びしている姿も可愛い。マルナさんも微笑ましそうにその光景を眺めている。妹って良いものだな……。
「そんな良い子のマリにプレゼントだ」
「ほえ?プレゼント?」
「ほら、猫と犬のぬいぐるみだよ」
「あーネコさんとワンちゃんだ!」
花が咲いたような笑みで2つのぬいぐるみを抱きしめる。可愛い。これは指輪の装飾を考えている時に思いついたのだが、喜んでもらえて良かった。今ならシスコンと言われていた人の気持ちがすごく良く分かる。
「マリ、良かったわね大切にしないとね」
「うん!」
「でもこれ、すごいわね。こんな精巧な置物見たことないわ。貴族でも持っていないかも」
「え、こっちの国にはこういうの無いのですか?」
「ええ、見たことも聞いたこともないわね」
ふむ、いいことを聞いたような気がする。ぬいぐるみなら悪目立ちせずに儲けられるかもしれない。次の国ではぬいぐるみ屋さんもいいかもな。
「いやー、本当にこの指輪すごいね」
「ええ、それにこの装飾も見事で可愛いですわ」
3人で話込んでいると、スッキリした顔の彼女たちがやってきた。男2人の安否は触れないでおこう。
「それでは、そろそろ行きますね。楽しかったですよ」
長居してもあれなので、そろそろお暇することにする。次の町が俺を呼んでいるからな。
「いや、本当に世話になった――なりました。ありがとうございます」
「感謝してもしきれないっす」
「ソウサク君ならいい商人になれるよ、私が保証する」
「ええ、何かありましたらいつでも手を貸しますわ」
「はい、ありがとうございます」
なんだかここまでお礼を言われるとこそばゆい感じがする。
「次会う時は生まれ変わった姿を見せますよ」
「まあ、冒険者でもやっていけると思うっすけどね」
「こんな良い商品扱っているんだから、商人にならないともったいないわよ」
「ソウサク君ならマルナさんの後を継げると思いますわ。マルナさんもこんなにしっかりした息子がいて羨ましい限りですわ」
……衝撃の事実発覚。マルナさんと親子だと思われていたなんて。どおりで子どもがあのような装備を持っていたとしても怪訝に思わないわけだ。大方オーナーをマルナさんだと思っているのだろう。よくよく考えたら、マルナさんが着ている服からして上級市民にみられてもおかしくないしね。いまさら訂正するのも面倒くさいし黙っていよう。
ただ、グレンさんの俺に対する態度が急変しているけど気のせいだろうか?
手を振りながら皆から遠ざかっていく。いつか彼らとまた出会う日が来るのだろうか。もしもその時、彼らが信頼における人と判断できたならば今度は本当の能力を見せてもいいかもしれない。今のままではあの装備もそんなに強くないしね。
道草を食ってしまったため、次の国境へ向かって走り出す。出来るならば、これからも彼らのような良い人とめぐり合えることを祈って。
固有スキル
「Creative card【ver.6】」
能力詳細
【ver.6】
・他人にカードの譲渡可能。
※術者の任意のカードに魔力を通しながら『レジスタ』と詠唱することで、その人専用のカードになる。
※装備やアイテムは術者とその持ち主以外使用することができない。
※アイテムや装備は専用カードになることで、術者以外でも特殊能力の使用が可能になる。
☆一定の条件を満たすことにより、【ver.7】を解放。
お読みいただきありがとうございます。
皆様評価やブクマありがとうございます。感謝感激雨あられでございます(古い)




