第8話 国境間自警団
「わー、速い速い、凄い凄い」
「こんなに速く走れるなんてソウサクくん凄いわね」
「僕自身こんなに速く走れるとは思いませんでした」
現在、平原を時速80キロ程度で走行している。それにもかかわらず、彼女たちは怖がる様子もない。絶叫系が得意な体質のだろう。ジェットコースター等あったら喜ぶかもな。今はそんなもの作れないが、いつか作れるときがきたら乗せてあげよう。
ふいに後方から「ぐぴぅぅぅ」という音が聞こえてきた。
「もう、マリったら。乗っているだけなのにお腹がすくなんて」
「うー、これはおにいちゃんが悪い」
「えっ俺?」
「だって、毎日おいしいご飯をくれるんだもん。だからお腹の怪物さんも我慢できないよ」
「確かにソウサクくんのご飯はおいしいわね。想像したら私までお腹がすいてきたわ」
「いえいえ、マルナさんの手料理には勝てませんよ。それではそろそろお昼にしましょうか」
「やったー」
「ふふ、今日のご飯は何かしら」
ここまで期待されたら、それに応えないわけにはいかない。ここは片手間に食べれて研究者に人気の、究者シリーズ(今命名)の一つ、中華まんを選択しよう。あんまん、ピザまん、そして色々な魔物の肉を使った肉まんだ。食べやすく且つお腹にどっしり溜まるため、当時もよく食べていたことを思い出す。
「うん、やっぱり美味しいな」
「んー、おししい」
「ん、これなら私でも作れそうね。外側の白いのは小麦かしら。貴族様が食べているという白パンに似ている気がするわ。でも、パンと違ってこれは焼いていないわね。となると――――」
旅に出てから、マルナさんの意外な一面が見えてきた。俺が色々な料理を提供したせいか、料理に対して前以上に意欲が沸いてきたようだ。俺の能力では使う材料に限界があるため、マルナさんが料理にはまるのは願ったり叶ったりだ。
料理を食べ終えると、再び走り出す。そろそろ国境付近だ。この国境を越えると魔除月の効果が失われ、魔物が襲ってくるようになる。とはいっても、こんな場所に来る魔物なんてたかが知れているため今の俺には問題ない。マリとマルナさんを安心させるためにも、わざと魔物と遭遇して倒してしまうのがいいだろう。お、北西方向に魔力の反応3つ発見。その近くに他に魔力反応が十数個あるのが気になるけど……まあ、大丈夫だろう。
「あー前方に魔物の群れがー」
「「グルグルグル」」
「オオカミさん?」
「そ、ソウサクくん、大丈夫なの?」
「ええ、そこら辺の大人よりは強いので大丈夫ですよ。見ていて下さい」
よし、わざと魔物と遭遇したことバレていないな。さすが俺の演技力。さあ、サクッと倒してしまおう。
ん? よくみると真ん中の1体毛並みが――――
「そこの商人、助けてやろうか?」
魔力反応が十数個近づいてきたかと思えば魔物ではなく人間か。あの格好は見るからに盗賊って感じだな。
「あなたたちは?」
「俺たちは国境間自警団『グレン団』、俺はリーダーのグレンだ」
「自警団といっても自称っすけどね」
「こらっ、あんたたち強面が先頭に立つといつもいつも相手が逃げちゃって話もできないでしょ!」
「そうそう、交渉ごとは私達のような可憐な乙女にお任せを」
「可憐な乙女ってお前らいくつだ――ごふっ」
「何か言いった?」
「何か言いまして?」
「いや、なんでもないです」
なにか愉快なコントが眼前で繰り広げられている。
黒髪をオールバックにして、あごひげを生やした彫りの深いダンディな男性グレンさんが、ミルクチョコのような色の髪をツインテールにした小さい唇の可愛い系女子(ついでに胸も可愛い大きさ)と、ミント色のロングヘアーをしたぷっくりとした唇の大人女子(ついでに胸は凶器レベル)の女性に殴られていた。少し長めの金髪を後ろで一つくくりにした、エセ関西風の男性はそれを黙って見守る。余計な口を挟まないのは賢明な判断だろう。
「えと、その自警団の人たちが何の御用でしょうか?」
「簡単な話だ。あの目の前にいる魔物を俺らが蹴散らしてやるから、報酬として嗜好品か何かを譲ってくれという交渉だ」
「あなたは命を落とさずにすむ。考えるまでもなくお得な交渉でしょ?」
うーん、対価を求めるとはいえ襲ってくるのではなく、魔物から助けてくれるって言うのだから悪い人たちではないのだろう。見知らぬ人たちに能力を見せるのも危険だからここは任せてもいいだろう。ただ……。
「やめといたほうがいいですよ?」
「なっ、この場面で普通断る?」
「この子、状況が分かっていないのではないかしら?」
「いや、あの魔物は強そうですし、危険だから相手にするのは止めておいたほうがいいと」
「ほう、俺らがあんな狼ごときに後れを取るとでも?」
「今まで何回も倒してきてるっすからね。3体くらい余裕っすよ」
うっ、事を荒立てることもしたくないしここは一旦任せるか。最悪、死ななければなんとかなるだろうし。
「えー、それではお願いします。報酬は倒せてからってことで」
「そうこなくっちゃ」
「よし、野郎共いくぞ。1匹あたり4人であたれ。お前たちは右を、お前たちは左だ!」
「「おぉ!」」
「トリゾウ、チョコ、ミント、俺たちは真ん中の少しでかい個体をやるぞ」
「「了解!」」
取引が成立するや否や、グレン団の面々はすぐさま駆け出す。統率の取れたいい動きだ。
「すみません、なにか妙なことになってしまいました」
「ううん、私は少し安心したわ。ソウサクくんが強いといっても、やっぱり子どもが狼に立ち向かっていく姿は心配ですもの」
「あの人たち強いのかなー?」
「あれだけの人数がいれば普通の魔狼なら楽勝だよ」
話をしている間にも戦況は変わりつつある。左右ともに前衛2人、後衛2人に別れて上手に連携を取って狼を圧倒している。あれならば、1人の能力は狼に劣っていても容易に倒せるだろう。問題は真ん中だ。ステータスをみる限り左右のグループよりもグレンさんたち4人のほうがHPやMPは高い。みている限り連携も申し分ない。しかし、あの毛色が黄色の狼『雷狼』には勝てないだろう。本来ならば、森深くにいるであろうこいつが、なぜこんな場所に出没しているのだろうか。
【名前】雷狼
【HP】 500/500
【MP】 500/500
【魔法】
ライトニングナム
サンダーボルトマグナム
サンダーテンアロー
【備考】
雷を纏うことで爆発的な素早さと攻撃力を誇り、その身には100を越える人間の血が染み付いている。また、中級魔法以下の攻撃はほぼ無効化される。
【名前】グレン(30歳)
【職業】剣士
【HP】100/100
【MP】120/120
【スキル】
「剣技lv4」
【魔法】
初級魔法
【備考】
片手剣の扱いは一流だがそれ以外の武器の扱いは向いていない
【装備】
武器:アイアンソード
防具:アイアンヘルム、アイアンベスト、アイアンパンツ、レザーシューズ
【名前】トリゾウ(27歳)
【職業】双剣士
【HP】95/95
【MP】100/100
【スキル】
「双剣技lv2」「剣技lv3」
【魔法】
初級魔法
【装備】
武器:アイアンデュアルソード
防具:レザーベスト、レザーライトアーム、レザーレフトアーム、レザーパンツ、レザーシューズ
【備考】
器用貧乏、双剣の扱いだけ人より少し上手い
【名前】チョコ(17歳)
【職業】魔術師
【HP】90/90
【MP】150/150+値(『武器』20)
【スキル】
「魔力操作lv3」「魔威力増大lv2」
【魔法】
初級魔法
中級魔法
・火:ファイヤービックボール
・雷:サンダーボルト
【装備】
武器:ツリーロッド
防具:クロスローブ、レザーシューズ
【備考】
魔法の才能はあるが使いこなせていない
【name】ミント(17歳)
【lv】42
【job】魔術師
【HP】85/85
【MP】180/180+値(『武器』20)
【スキル】
「魔力操作lv3」「魔威力増大lv2」
【魔法】
初級魔法
中級魔法
・風:ウィンドストーム
・土:アーストリプルアロー
【装備】
武器:ツリーロッド
防具:クロスローブ、レザーシューズ
【備考】
魔法の才能はあるが使いこなせていない
「こいつ、いままでのやつより手ごわいぞ」
「くっ、チョコ、ミント一発でかいの頼むっす」
「よし、ミント複合魔法よ」
「了解よ、いきますよチョコ」
「ファイヤービックボール」
「ウィンドストーム」
「トリゾウ、離脱だ」
「了解っす」
おお、魔法の複合とか出来たんだ。しかし、雷狼はさっきから動こうとしない。よほど自信があるのだろう。あのステータスをみた後では、慢心するのも頷ける。奴にとっては人間なんか障害になりえないのだろう。
チョコとミントの複合魔法が直撃したが、ほぼ無傷の雷狼がそこに佇んでいた。ステータスを確認するとHPの減少は僅か10だけだ。次は俺の番だといわんばかりに、全身から放電している。
「な、効いていないだと!?」
「まじっすか」
「あれが効かない相手なんて初めてなんだけど」
「さすがにこれはヤバいかもしれませんわ」
「くそ、もう一度俺とトリゾウで隙を作る。その間に――――」
「あぶない!」
「にげっ」
視界が一瞬黄金に染まり、後から地面を揺さぶるような雷鳴が轟いた。
「マリ、マルナさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、少し驚いたけど大丈夫よ」
「うー、耳がキーンってする」
よかった、特にパニックになることもなく落ち着いている。肝っ玉の強い親子だ。
眼前では、グレン団の団員達が全員攻撃を受け動けないでいる。ステータスを確認すると、死んではいないがHPが残り1ケタの人がちらほらいる。しかも、今まさにサンダーアローでとどめを刺そうとしている雷狼が視界に納まった。これはいよいよ不味くなってきた。奴に気がつかれないうちに一瞬で終わらせなければ。
「『ダークパンサーブーツ』リリース、『デアグニス・グラディウス』リリース」
装着されると同時に足に力を込める。音を置き去りにし一瞬のうちに雷狼に接近し、愛剣で前足を両断する。足がなくなったことでようやく俺の接近に気がつき、口を開け驚愕の表情を浮かべる。そのまま前に倒れこむ奴の口めがけて突き挿す。しばらくの間もがいていたが、肉のこげる匂いが充満する頃には有無を言わぬ屍となった。
張り詰めていた緊張の糸が解け、息を吐き出す。なんとか勝てたが、奴が油断していなかったら苦戦していたかもしれない。もっと楽に戦いたいものだ。
周りを見渡すと、事切れた雷狼の屍、未だに動けずにいるグレン団の団員達、そして、衝撃を受けているであろうマルナさんと、無邪気に「おにいちゃんすごーい」と俺を褒め称えるマリの姿があった。
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