第9話 拠点
さて、どうしよう。といっても、これだけの負傷者を無視して行くこともできない。目立つのは嫌だけれど今更ではあるし、こいつらは国に属していない。そのため面倒事に巻き込まれることもないだろう。
「グレンさんこれを飲んでください、ポーションです」
「うっ、す、すまない」
前線で体を張っていたせいか、一番酷い有様だ。自分で動けないグレンさんの変わりにお手製のポーションを口の中に突っ込む。
「お、おお、体が楽になった。しかし、全身傷だらけに――――って、傷が治っているだと!?」
【名称】
初級ポーション
【クラス】
アイテム
【詳細】
ハート草・ヒール草・ピンク草からエキスを抽出したポーション。
HPが100回復する。100%抽出ボーナス(損傷:微回復)
ふむ、切り傷位なら治るのか。これはすごい。地球でもこれがあればどれだけの人が助かったか……いや、これは考えても仕方のないことだ。
それにしてもあれだな、戦闘中に自分や相手のHPが見えないのは致命的だよな。どれだけのダメージを与えられているのかもわからなければ、戦闘の終わりも見えないだろうし、自分のHPがどれだけ残っているのか分からなければ、回復するタイミングも難しい。HPが減少することによって疲労度は変わるらしいが、それだけで判断するのは困難を極めるだろう。
いや、だがしかし、仮に自分のHPが見えていたとしたら、ギリギリまで大丈夫だろうと調子に乗って命を落としたり、逆にギリギリになったとき、ヤバイと不安を覚えることで体の動きが無意識のうちに阻害され死亡するということが起こるかもしれない。また、何故HPとMP以外の項目が無いのかないのかのも不思議に思っていたが、見えないよりも、見えすぎることであまり良くない結果を引き起こす可能性があるからだろうか?まぁ、もしこの世界を考えた奴がいれば……の話ではあるが。
そうやって色々考えている間も、グレンさんたちの興奮は収まっていなかった。
「傷が治るポーションなんて今まで見たことないぞ? しかも、何時もよりも体がスッキリしたような気がする!」
「あー、最近王都で作られたんですよ。すごいですよね」
「ああ、すごいどころではない。これがあれば命の危険がどれだけ減らせるか」
「とりあえず、他のみんなにも飲ませてあげてください」
「い、いいのか? こんな高級なものに支払う金なんかないぞ?」
「死にそうになっている人たちからお金をとろうなんて考えないですよ。気にせず使ってください」
「……ありがとう、恩に着る」
ふう、なんとか誤魔化せた。初級ポーションだから普通に出回っているかと思ったけどそうじゃなかったのか。気をつけて行動しようと思っているのだがなかなか上手くいかないものだ。
女性陣なんかは、ポーションを飲んだ後に自分の体をみて涙を浮かべて喜んでいる。どうやら昔の傷跡も消えているらしい。色々失敗してしまった感じはするが、この笑顔をみれたからよしとしよう。
「ふふふ、ソウサクくんは女の子には優しいのね。でも、たらしにならないように気をつけないとだめよ?」
ポーションを渡した後、今後どうするか話し合うために人力車に戻ってきたところに声をかけられた。心配しなくてもそんなモテないから大丈夫ですよ……ぐすん。
「今回は本当に助かった。まさかあんな化け物がいるとは思わなかった。あんたあれを倒すなんて強いんだな」
「その、あなたの忠告を無視して悪かったわ」
「状況を分かっていないのは私たちだったようだわ、申し訳ありません」
「いやー、本当に死ぬかと思ったっす。ありがとうっす」
「いえ、気にしないで下さい」
この人たちの言動に素直に感心する。普通自分より遥か下に見える子どもに助けられたとして、自分の非を認めここまで礼を尽くせる人が果たしてどれだけいるのだろうか。
「何かお礼をしたいのだが、俺達に何かできることはないか? あいにく金や食い物は余分にないが、それ以外でなら何でもするぜ?」
「そうですね、少し考えさせてもらってもいいですか?」
断りを入れてからマルナさんとどうするか話し合う。マリは退屈になったのか寝入っている。寝顔もかわいい。
「どうしましょう?」
「うーん、みている限りあの人たちは悪い人じゃなさそうだし、それにねえ」
マルナさんの言わんとしていることは分かる。視線の先にあるのは彼らの装備だ。先ほどの戦いで全身の装備はボロボロで武器も盛大に刃こぼれしていて使い物にならないだろう。こんな場所で武器や装備が破損すれば命の危険が数段に上がる。死なれても目覚めが悪い。
「ふふふ、ソウサクくんのなかでは答えが出たみたいね」
む、すべてを見透かされているようで少し恥ずかしい。赤くなった顔をを隠すように、マルナさんに背を向けグレンさんたちに向き直る。
「とりあえず、あなた達の住処を見せてもらってもいいですか?このような所でどのように生活しているのか興味持ちまして」
「俺達の住処か? 別にいいが、本当に何もないぞ?」
「ええ、それで構いません」
「そうか、なら俺から言うことはない。他のみんなもいいか?」
反対するものは1人もおらず、俺たちはグレン団の面々についていった。少し楽しみである。
「それにしても、あそこから拠点まで離れているのに、よく僕達が来るの分かりましたね」
「ああ、信じられないかもしれないっすけど、俺らの仲間に遠く離れた人を感知できる能力を持っているやつがいるんすよ。半径5キロ県内程度なら入ってきた人間を感知できるらしいっす。あ、そろそろ拠点が見えてくるっすよ」
雑談しながらしばらく歩くと、岩場にたどり着いた。四方を岩に囲まれ、20人ほどの小さな集落があった。
「ここが俺達の本拠地だ」
「あ、リーダーお帰りなさい」
「今回の収穫はどうだった?」
「何かいいのもらえましたか?」
「こらこらお前ら落ち着け、結果として、何も手に入らなかった。寧ろ、逆に命をなくしそうになったくらいだ。しかし、それをこの商人に助けてもらった。商人のソウサクさんだ。こんななりだが、腕は俺よりもいい。見た目に騙されるなよ?」
「へー、こんな子どもが。見た目じゃ絶対分からないですね」
「リーダー達を助けてくれてありがとうございます」
「い、いいえ、気にしないで下さい」
ここまですんなり受け入れられるとは思わなかった。この人たち素直すぎて悪い人に騙されるのではないだろうか?
「こちらは僕の旅の連れのマルナさんとその娘マリです」
「おじちゃんたち、おねえさんたち、よろしくおねがいします」
「マルナです。よろしくおねがいします」
「いやいや、こちらこそよろしくお願いします」
「おじさんだと……ショックだ」
「ぷぷぷ、可愛そうにねー。でも本当のことだからしょうがないんじゃない?お・じ・さ・ん」
「お前らだっておねえさんって歳でも、いや、なんでもないです」
それぞれ自己紹介していく。先ほどまで寝ていたマリも元気よくグレン団の面々と談笑している。どうやら本当に悪い人たちではなさそうだ。
「しかしこれからどうするっすかね。装備も武器もボロボロだし、流石に素手で魔物に挑むわけにも」
「私もローブがボロボロだし愛用の杖も折れちゃったわ……」
「しばらくは今ある武器で凌ぐしかないのではないかしら?」
「ま、命あっただけマシってもんよ。木で槍でも作れば少しは戦えるだろう」
やっぱり、装備で困っているのだよな。ここは一肌脱ぎますか。国が干渉してくる確立も少ないし、色々試してみたいこともある。実験にはうってつけかも知れない。俺は邪な思いの混じった笑顔を浮かべて問いかけた。
「良い装備お譲りしましょうか?」




