第3話 王都へ
「う~ん、今日もいい天気だ」
村で生活をはじめてから1ヶ月が経過した。日の出とともに起き、農作業を開始する。畑を耕し、雑草を抜き、水を撒き、作物を収穫する。そして日が暮れると同時に作業を終了し、明日に備えて就寝する。なんて健康的な生活だろうか。ここで過ごしていくうちに農作業が俺の天職なのではないかと思えるようにもなってきた。だけども俺の中の何かが新たな欲求を訴えてきていた。
「そろそろ王都へ向かってみようと思います」
他人が恋しいがために、人を求めてこの村までやってきたが、思いのほか居心地が良かった。もっとここで生活をしていても良かったのだが、生活しているうちに、この世界をもっと知りたいという欲求が生まれたのだ。人と触れ合いたいという欲求が満たされたために、別の欲求を求める余裕が出てきたのだろう。
「そうか。あんまり坊主みたいな子どもには王都はお勧めしないが――――止めても無駄だろうな」
「えぇ、もっとこの国をみてまわりたいと思いまして」
「寂しくなるな……。ところで坊主、その格好のまま行くのか?」
「えぇ、何か問題ありそうですか?」
地球の最先端ファッションに身を包んだのだが、驚くほど変だったのだろうか。
「いや、変って言うか……まぁ似合ってるとはいいがたいけどな」
「な、最高にいけてるじゃないですか!」
「う~む。坊主が後10年くらい成長したら似合うかもな」
俺は改めて自分の着ている服を眺める。
長袖のコート型、脛あたりまである丈、純白の色、そして両手が収まるポケット付き。そう、あの懐かしき白衣だ。自分では似合ってると思うんだけどな……。
「王都にいくのはいいが、金は足りてるのか?」
「えっ、お金ですか?」
「そうだ。よその国から来たやつの場合、うちの国では滞在1日につき1金貨徴収しているぞ?」
なにそれ聞いてない。ていうか、お金が金貨ってまた古典的な……。というか、お金について全然知識ないんだけど、金貨ってことは銀貨や銅貨もあるのかな? というか、そもそもどれくらいの価値なのかも分からないんですけど。
「あー、魔物から逃げてる間にどこかに落としたみたいです。しかも、今まで父が管理していてお金の価値も教えてもらってないのですが、金貨1枚ってどの位の価値なんですか?」
ふふふ、子供の上目使いの前には大人はいちころのはずだ。
「商人の息子がお金の価値を知らないねぇ……」
「うっ……」
上目使い攻撃、相手に0のダメージを与えた。相手からジト目攻撃、100のダメージを食らった。
「はぁ、気にしても仕方ないか。いいか?まず、金はどこの国も共通だ。そして、種類だが、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、王金貨の計7種類ある。それぞれ10枚で次の貨幣と同じ値段になる。銅貨10枚で大銅貨1枚分の価値ってことだ。そして、貨幣の価値だが……そうだな、パン一つが銅貨5枚って感じだな。何か質問はあるか?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
何も聞かないで教えてくれるなんて、やっぱりタークさん優しい。なにか、呆れられてる気はするけど気にしたら負けだ。
「あとは肝心の金をどう用意するかだが……坊主、何か売れそうなものは持っているのか?」
「ええと、食べ物と植物と鉱石と害獣と、あと――――」
「あー、もういい。そうだな、王都に着くまでの間にある村々で、食べ物を売るのが一番安全で目もつけられないだろう。害獣の肉も大丈夫か。他のは絶対に売るなよ。特に、塩と胡椒は駄目だ。あんなに混じりけのない真っ白な塩や胡椒は貴族や王族に目をつけられる。絶対売るなよ?」
「はい……」
なんか俺の信頼度が下がっているような気がするのだが、いや、まぁ理由は分かっているんだけども。というか、塩と胡椒ってそんなに価値のあるものだったのか。みんなが普通に使ったから、そんなに価値があるものとも思わなかった。いや、知っててあえて言わなかったのかもな。アイテム袋で注意されたばっかりだったし。それに、心配してくれているんだよな。本当にありがたい。ここはやはり、サプライズ感のあるお返しをしないといけないな!
タークさんとの話し合いを終えてから、タークさんは別れの挨拶を皆ですると言い出し、みんなを迎えに行った。その間、俺は村の入り口でカモフラージュ用の人力車に害獣や作物を積み込んでいく。
「おう坊主、準備は出来たみたいだな。王都まではまだ距離がある。怪我をしないように気をつけろよ」
タークさんが村人全員を集めてやってきたようだ。それにしても、全員本当に集まるとは思わなかったな。涙が出るじゃんかよ、チクショウ。
「皆さん、今日までお世話になりました。ここでも生活はいい思い出になりました。本当にありがとうございました」
「いいって、気にするな」
「またいつでも戻ってきていいからな」
「というか、その荷車引けるのか?」
「馬があれば良かったんだが、すまんな力になれなくて」
「お前代わりに引いてやれよ」
「ばっか、坊主のほうが力強いんだよ」
「商人には、みえないなぁ」
「しー、本人は商人のつもりなんだから黙っといてやれよ」
みんなが次々に別れの挨拶をかけてくれる。何か別の内容も聞こえたような気がするが、気のせいだ、うん。それよりも、そろそろアレを渡さないとな。
「あ、そうだタークさん、ちょっとこれもってもらっていいですか?」
俺は1枚のカードを取り出してタークさんに手渡した。ふふふ、皆が喜ぶ姿が目に浮かぶぜ。
「なんだこれ? 袋の絵が描いてあるカード?」
タークさんが怪訝そうな顔をしている。まぁ、普通カードなんか渡されても意味が分からないよな。
「それを持ったまま、カードに魔力を通してください。そうすれば、後は使い方が理解できます。それでは皆さん行ってきます!」
「な、おい、坊主っ」
タークさんの慌てた声を無視して、急いで人力車を引いて村を出発する。タークさんが理解した瞬間、間違いなくつき返されただろう。
「――――――――!!」
魔力を通したのだろう。後方からタークさんの驚いた声が聞こえる。サプライズ成功だ。
俺は軽い足取りで、次の村を目指して駆け出した。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら評価やブクマをしてくださるとありがたいです。