第4話 マリ
村を出て3日、ついに石壁で覆われた街が姿を現した。
ここが王都か。村と違って門も石材でちゃんと造られてる。重機などのない世界でここまでの物を建築するのはま、俺の町には敵わな凄いことではないだろうか。まあ、俺の街にはかてないけどね。
入り口は――――あの鎧を来たおっさんのところか。変ないちゃもんをつけられませんように。
「すみません、王都の中に入りたいのですが」
「まずこの水晶に触れろ」
品定めするようにジロジロ見た後、兵士がぶっきらぼうに答えた。もっと愛想よくしてくれてもいいのに。
「こうですか?」
水晶に手をかざすと、水晶が緑色に発光した。
「ふん、よそ者だな。ガキの分際でよく無事にたどり着いたもんだ。高価な武器でも手に入れたか?大方冒険者や奴隷でも使い捨てしてやってきたんだろうが、金持ちは楽でいいな。で、何日滞在するんだ?」
ふむ、この水晶でよそ者かどうかが分かるのか。住民登録でもされているのだろうか?
それにしてもこの兵士、俺のこと完全に馬鹿にしているよな。やっぱり見た目か、子どもの見た目が悪いのか。
「ええと、10日ほど滞在しようと思うのですが」
「10日ってことは金貨15枚だな」
「えっ? 滞在1日金貨1枚と聞いたのですが……」
「あぁ!? 俺が15枚って言ったら15枚なんだよ。計算もまともにできないようなガキが文句言ってんじゃねえよ。嫌ならまんまのとこに帰りな」
「なっ――――」
落ち着け俺。ここで争っても何にも得がない。こいつに腹は立つが、俺が大人になって多少のことに目をつむればいいだけだ。うん、俺は大人、俺は大人。
「はい、金貨15枚です」
「あぁ、確かに。これが滞在許可書だ。10日過ぎるまでに町を出ろよ? そうしないとよそ者でも奴隷にされちまうからな。ま、追加で滞在したければ1日金貨2枚で許可してやるよ」
あれだ、よその国で悪さをしたら、その国の法律で罰せられるのと同じってことだな。それにしても、金貨枚数が更に増えてるじゃん。こいつ本当に腹が――――いや、俺は大人、俺は大人。
金は、ここに来るまでの村で害獣や作物と交換したからまだ十分ある。本当は町でも商売して今後のために稼いでおきたかったが、領主がしゃしゃり出てきて面倒毎に巻き込まれるのを恐れたため、町に寄らずにやってきた。それでも金貨100枚はあるからな、今の俺には多少の出費は問題ない。
「では、もう行ってもいいですか?」
子どもスマイル攻撃、効果は『円滑に物事が進む』だ。
「ちょっとまて、積荷の確認をする」
「あ、はい、どうぞ」
そうだよね、町に変なもの持ち込まれたら困るから、積荷はちゃんと確認しないといけないもんね。うむ、仕事をちゃんとしていて偉いぞ。もちろん笑顔で許可しよう。
「どれどれ、作物と――――ほう、害獣か。特にこのキツネは質がいいじゃないか」
兵士が嫌な笑みを浮かべながら積荷を確認しだした。あの顔見てると殴りたく――――はっ、俺は大人だ。
「もういいでしょうか?」
「あぁ、もういいぞ。それじゃあこのキツネは通行料として徴収するからな」
「はっ?」
「ほら、終わったからさっさと行け、仕事の邪魔だ。ああ、そうそう、町の外側から順番に下級平民・中級平民・上級平民の住居区画になって、町の中央が貴族と王族の住居区画だ。貴族の怒りを買ったら簡単に奴隷落ちか、殺されるから気をつけろよ」
にやにやしながら兵士は答えると、そのままキツネを持って兵舎の中へ入っていった。
子どもの笑顔は兵士に効果がなかった。兵士の理不尽な攻撃、俺は改心の一撃を食らった。
簡潔に王都の第1印象を述べようと思う。
「ざけんな!!」
もう、あの村に帰りたいです。
商人ごっこも飽きたから、そろそろ旅人モードになろう。周りに誰もいないのを確認して全てカードに戻す。そして、次に帽子と鞄を装備したらあら不思議、あっという間に旅人モードに変身だ。
その格好のまま、近場の宿屋を探す。もう疲れた。寝床さえあればどこでもいいや。
「ねーねー、おにいちゃん、ここでなにしてるの?」
ん? どうやら精神的に疲れてしまい、幻聴が聞こえてきたようだ。それにしても、この幻聴、心が洗われるな。
「ねー、ねーってば」
あー、もうこの声を聴いているだけで嫌なことも忘れそうだ。なにか服が引っ張られているような気がするが気のせいだろう。
「むし、しないでよう……」
やばい、これ泣きそうだ。急いで振り向くと、そこには1人の女の子が立っていた。俺はしゃがみ込み、少女に目線を合わせて、必死に笑顔を浮かべた。ここで泣かれると下手すれば通報ものだ。
「こ、こんにちは、俺の名前はソウサク。キミは誰かな?」
「あっ、やっと気がついてくれた。私の名前はマリ、9歳」
声をかけると、先ほどまで泣きそうだった顔が一変、太陽のように明るい笑顔になった。そこには、長い赤髪をポニーテールにした、将来アイドルになれるに違いないであろう褐色の良い肌をした女の子が、クリクリとした大きな目でこちらをのぞいていた。ただ、栄養はしっかり取れていないのか、体は細く、また服もボロボロだ。勿体無い。
「それで、マリちゃんは何の用だい?」
「マリちゃん、じゃなくてマリ!」
「わ、わかったわかった。それで、マリ、何の用だい?」
「えっとね、ソウサクおにいちゃんが困ってそうだったから、助けてあげようと思って。もしかして迷子? 一緒におとーさんとおかーさん探してあげるよ!」
「そうか、それはありがとう。でも俺はべつに迷子ってわけじゃないよ。マリのほうこそご両親はどうしたんだい?」
「うっ……」
あ、これ地雷踏んだ。やばい、またマリが泣きそうになっている。
「あー、ごめん、強がり言ってた。実は俺迷子なんだ。よかったら一緒に両親を探してくれないかい?」
「えっ――――あっ、しょ、しょうがないな。マリが一緒にソウサクおにいちゃんのおとーさんとおかーさんを探してあげるよ!」
うん、マリは笑顔のほうが良く似合う。それにしても、この世界に来てから8年強、初めて女性と会話した。というか、マリって俺より一応年上じゃん。でもまあいいか。「おにいちゃん」って響き悪くないしね。それにしてもこの響き、なんだか懐かしいような気がする。
「おにいちゃんがはぐれたら困るだろうから、手をつないでてあげるよ」
「はは、マリありがとう」
「どう? おにいちゃん見つかった?」
「んー、なかなか見つからないな」
「そっかー」
マリの両親を探し始めて(マリは俺の両親を探しているつもり)一時間程が過ぎた。
この下級市民エリアは大抵が奴隷となって働かされているせいか、人通りが殆どない。どうしたものか考えていると、隣から「ぐ~」とかわいいお腹の音が聞こえてきた。
「マリちょっと休憩しようか」
「おにいちゃん、もう疲れたの?しょうがないなー」
マリといっしょに建物の木陰に腰を下ろす。そして、鞄の中を漁るフリをしてカードを食べ物にもどし、鞄から取り出したお皿の上に並べる。
「マリは食べ物の好き嫌いってあるかい?」
「マリは大人だから好き嫌いなんてないよ、えっへん!」
「そうか、それは良かった。それじゃあ、はい、これでも食べよう」
「えっ、くれるの?マリお金持ってないけど……」
「気にしなくてもいいよ、一緒に両親を探してくれてるお礼だから」
「わぁい、おにいちゃんありがとう。でも、これってなに?」
「これは、ハンバーガーと、アンパンっていう食べ物だよ。アンパンはデザートに近いから、先にハンバーガーを食べたらいいよ」
「デザート?」
どうやらこの国には、デザートという概念がないらしい。首をかしげながらも、俺の言うとおりに、先にハンバーガーから食べるようにしたようだ。
「ふわぁぁ、おいしい……おいしい、これ、すごくおいしいよ!」
「それは良かった。焦らずゆっくりお食べ。はい、水もどうぞ」
「ありがとう!」
マリは目を見開きながら興奮した様子で食べていく。喜んでくれて何よりだ。
「ほわぁ~、ふにゅう~」
次にあんぱんに手を伸ばしたマリの口から気の抜けるような声が発せられた。
「甘い、甘いよこれ! こんなに美味しいもの食べたの初めて!」
やっぱり女の子は甘いものに目がないようだ。ものの1分程で平らげてしまった。
「お腹いっぱいだー。こんなにお腹がいっぱいになるまで食べたの久しぶり。おにいちゃんありがとう!」
「喜んでもらえて良かったよ。いつもはそんなにご飯の量少ないのかい?」
「んー、少ないわけじゃないよ。食べてるもの周りのみんなと変わらないし。ただ、お腹いっぱいになることはないかなー」
「ま、マリは育ち盛りだからな。1日3食しっかり食べても、お腹は減るか」
「1日3食? なにいってるの、ご飯は1日1回に決まってるじゃん。変なおにいちゃん」
マリがコロコロと笑いながら衝撃的な発言をしてきた。確かに地球でも、発展途上国のスラムの人々はそんな感じだったが、仮にもここは王都の中だ。しかも、タークさんたちは1日3食だったからな。まさかあの村よりも、こちらの方が生活水準が低いとは誰が考えられるだろうか。
「よし、お腹も膨れたし、おにいちゃんのおとーさん、おかーさん探し再開だね」
「あっ、ああ、そうだな」
とにかく、マリの両親を探さないとな。後々のことを考えるのはそれからだ。
俺たちは再び手をつなぎ、人気のないこの町中に足を踏み出した。
本日は次の話で投稿を一旦終了させていただこうと思います。
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