第5話 ファナ、無詠唱魔術について語る
「それにしてもファナ……、お前のその魔術、ちょっと規格外すぎやしないか?」
あれから、ここまで来る道中に何匹かの魔物を倒し。
エリクが剣を鞘に収めながら、私にそんなことを告げてきた。
「え?」
「いや『え?』じゃないだろ。普通、無詠唱魔術であの火力が出るか? 下手すると詠唱魔術よりも威力が出てるんじゃないか?」
と、私に向かってそう突っ込んできたエリクの言う【無詠唱魔術】というのは、今やこの時代では主流となった魔術のことだ。
――それまで魔術というのは通常、呪文を唱えて媒介にしなければ発動できないというのが常識だった。
しかし三百年ほど前、とある大魔法使いが魔石や魔導金属に呪文を彫り込み、それを起動させることで術式を発動することができるという技術を編み出したのだ。
――何を隠そう、これが前世の私の研究テーマで。
実は、私がこの技術を開発したんだけどね! えへん!
――とまあ、自慢もまあまあそこそこに。
この技術を編み出したことで、詠唱にかかる時間が大幅に短縮され、魔術の発動ラグがなくなるという世にも画期的な革命が起こった。
あえて難点をあげるとすれば、詠唱魔術よりも若干威力が落ちることと、材料費がべらぼうにかかることだ。
無詠唱で呪文を発動させるには、魔石や魔導金属に彫り込んだ呪文に触れその溝に自分の魔力を流し込む必要があるため、使いたい魔術を彫り込んだ魔道具を持っていることが必須となる。
大体スタンダードなのは、杖に術式を彫り込むことなのだが――。
「そもそもファナの魔道具、杖でさえないじゃないか。その指にはめた指輪で術を発動させているのか?」
「……そうね。私の場合、これを媒介に魔術を発動させてるわね」
そうなのだ。
前述した通り、普通の魔術師は杖に術式を彫り込んで使うことが多い。
一つの杖に最大4種類ほどの魔術を掘り込んでおいて状況に応じて使い分けるのが主流だ。
4種類が最大数なのは、それ以上無理に彫り込むと発動させる時に発動させたい呪文以外にもうっかり指や手が触れてしまって、うまく術式が発動しないという不具合が起きやすくなってしまうからだ
逆に、二つの術式に触れて二重発動させるということもできるのだが、そんなことができるのは体内に保有する魔力量が多く、かつ魔力の扱いに長けた上級者だけだ。
もちろん私はできるけどね! えへんえへん!
ちなみに私が杖じゃなく指輪にしているのは、単に出し入れしなくていいというのと、指にはめているからうっかり落としたりすることがないからである。
まあ、他にも利点はあるんだけど……。
「魔術の二重発動もできて、その上あの威力を出せるのは宮廷魔術師にもそうはいないぞ? 宮廷魔術師になろうとか思ったことはないのか?」
「あ〜、う〜ん。ソウネ……」
エリクの純粋な疑問に対して、言葉を濁す私。
宮廷魔術師ね……。
興味ないわけでもなかったんだけれども。
「まあ……、親は私が結婚することを望んでるんだろうなって思ってたし、私としても貴族令嬢に生まれてきたからにはそうすべきなんだろうなあって思ってたから……」
そこは一応、親の面子とか思惑を立てて、乗ってやろうとは思っていたのだ。
産み育ててくれた礼として。
私がそう言うと、エリクが「なるほどなあ……」と言いながら納得する様子を見せる。
「ま、結局は婚約者から婚約破棄されて家も追い出されたから、今となってはっって話なんだけど」
「え?」
さらりと放った私の言葉に、エリクがぴくりと反応して見せる。
「……どういうことだ?」
「どういうこともなにもそのままよ。婚約者からは可愛げがないみたいなことを言われて妹に鞍替えされて、お前は邪魔だから出てけって言われた」
「…………それは」
「それで、家から除名されて、宿無し根無し草になったから、とりあえずお金を稼ぐために冒険者コンに参加しようと思ったわけ」
私の言葉に、なぜか暗い表情になったエリクが「……すまん」と言ってこちらに謝ってくる。
「え? 何でエリクが謝るの?」
「……嫌なことを、思い出させてしまったと……」
私の言葉に、深刻な表情で謝ってくるエリクにけろりと返す。
「別に嫌なことでも何でもないし。むしろ余計なしがらみが無くなって、さっぱりと生きていけると思えばラッキーでしょ」
だいたい、今まで結構な額のお金を家に納めていたのが無くなるのだ。
こっちとしては結果オーライである。
そう言って私がけろりと笑うと、エリクもどこか呆れの混じったような表情を浮かべ、
「ファナは……、面白い女だな」
と言ってくすりと笑った。
「うん。よく言われる」
それに対して私が、エリクににやりと笑って返すと、こんどこそエリクが「ぶはっ!」と吹き出して腹を抱えて笑い出した。
私も大概だけど、エリクもなかなかに面白い人だと思う。
一緒にいて居心地いいし、話してて楽しい。
もともとはダンジョン目当てで参加した冒険者コンだったが、これはなかなかに得難い出会いだった。
厄介ごとの後には、ちゃんとそれを埋めるいいこともあるものだなあ――と。
我知らず、口端に弧を描いた、私なのであった。




