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第34話 ファナ、絶体絶命になる





「撤退……!」

「でもまだ人が残ってる……!」


 混乱が混乱を呼ぶ。

 背後で他の冒険者たちが騒ぐ。


「斥候士、生存者は?」

「17名中、反応が確認できたのは12名です……。残りは、気絶しているか……」


 ――あるいは、既に事切れているか。

 全員を助けてあげたいけど。

 いやっ! 本当はそんなの私のがらでもないんだけど!


「私が時間を稼ぐ。その間に、この部屋から脱出させられるだけ脱出させて」


 倒すことはできなくても、時間稼ぎくらいならできる。

 なるべく多くの人間を逃すために。

 目線を流すと、ふと『この調査が終わったら彼女にプロポーズする』と言っていた魔術師のクルスくんが顔を青ざめさせているのと目があった。


 この子……、ここで死んだらマジであれが死亡フラグになるからなあ……!


「あなた先に14階に戻って転移陣を敷いて」

「でも……!」

「いいから。今はひとりでも多く逃げ延びることが先決よ」


 私がそう言うと、彼が「はい……!」と言いながらくるりと踵を返す。


 というか、私この間も普通に魔王からの攻撃を弾きながらちょいちょい無詠唱でやり返したりしてるんだけど!

 えらすぎじゃない!?

 ていうか魔王あいつ、なんかやたらめったら私ばっかり狙ってきてない!?


「――お前が残るなら、俺も残るよなあ」

「いや! あんたはさっさと行きなさいよ!」


 立場が立場なんだから!

 エリクがそう言って、私が怒鳴りつけるのも構わず撤退方向とは逆の室内に向かって駆け出していく。


 あああああああいつううううう!!

 やめてよお!?

 これで第二王子を死なせたら私の立つ瀬がないじゃないのおおお!?


 とはいえ、エリクもさすがなもので、いい感じに魔王を撹乱かくらんしてくれる。

 エリクを防御結界で守りつつ、彼の攻撃に気を取られたところに攻撃呪文を叩きつけることで、だいぶ魔王の集中をこちらに向けることができた。


 やっぱ、いい腕してんなあ……!


 王子にしておくには勿体無い。

 いや普通に考えると王子が冒険者やるなって話なんだけど。


「エリク!」

「おう!」


 私が声をかけると、皆まで言わずとも察したエリクがばっと横に飛ぶ。

 そうして、すかさずエリクの避けた死角から魔術をぶつける。


 ……ダンジョンが、高位魔族が死んだことで出現するというジエンドの言葉が正しいなら。

 このダンジョンが魔王のダンジョンじゃない、別の魔族のものか。

 もしくはやっぱり魔王が死んでできたダンジョンだけど、目の前のこの男が、魔王の姿をした別のものかのどちらかだ。


 ――でも。


 ふとした時に受ける攻撃が、以前彼と戯れで対戦した時のそれと酷似していて。


 ――あんた、死んだの?

 ――そうじゃなかったらなんでそんなことしてんのよ。


 そんな思いが、ちりちりと私の胸を焦がす。


「ファナさん! 全員撤退完了しました!」

「えっ!? 嘘!?」


 全員!?

 いつのまに!?


 私が振り向くと、斥候士とシリウス、リーゼントがボス部屋の入り口で私たちを待ち受けるようにこちらを見つめていた。


「エリク! 先行って!」


 どう考えても近接戦タイプのエリクを後に残すと撤退しにくくなる。

 しんがりは私が行くのが一番適任だろう。

 その考えがエリクにも伝わったのか、「わかった!」と言いながら一気に魔王から距離を取る。

 

 無詠唱魔術の『岩壁ストーンウォール』を連発して魔王の視界を塞ぎ、そのすきに私も交代しようとした――その時。


「ファナ!」


 入り口の近くで、私を振り返ったエリクが叫ぶ。

 背後から、馬鹿でかいエネルギーの塊が迫ってくるのを感じた。


 ――あ、まずい。


 瞬間――、世界がスローモーションに変わる。

 といっても、魔術とかそういう類のものではない。

 人間、体が咄嗟とっさに危険を感じた時、妙に周囲がゆっくりに見えるアレ。


 防御結界――自分一人分ならギリ間に合う。

 でもエリクも私に近づいてきてる。こっちはどうする?

 入り口にいる斥候士とシリウスとリーゼント。


 リーゼントの防御結界の速度じゃ、間に合わない。


 先に入り口の3人の防御結界を右手で展開する。

 展開しながらそのままエリクの頭を掴んで、頭を下げさせる。

 体を伏せて攻撃を受ける面積を減らして、左手で最小限の防御結界を作れば――。


 最悪私の背中がちょっと焦げるぐらいで済むかも。


 そう思った時だ。


 右の薬指にはめていた【志学】のダンジョンで拾った青い石の指輪が光った。

 

 まばゆく。


 目も開けられないほどに。


 ――そうして、世界が青に溶けた。






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