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第17話 一方、その頃コーネリアスは






「この……、馬鹿者が……!!」


 バーケンレーグ家の祖父の書斎で、メアリとの婚約を報告した俺に祖父から恫喝どうかつが飛んでくる。


「お前は儂の話の何を聞いていたのだ! 儂は『クレイドル家の長女と結婚しろ』と命じたはずだぞ!?」

「え……、ええ。ですから、クレイドル家の長女と……」

「何が長女だ! お前がめとったのは長女ではなく次女のほうではないか!」

「それは……」


 どこから情報が漏れたのだろう、と内心で毒づいていると「どうせ、どこから情報が漏れたとでも考えているのだろう」とこちらの心を読んだかのように祖父が睨んでくる。


「お前は馬鹿か!? そんなもの調べずともすぐにわかるわ!」


 こっちは、クレイドル家の長女の持つ知識を欲して嫁にと命じたのに……! と祖父が鬼の形相で怒鳴る。


「しかしお祖父様、クレイドル家の情報が欲しいなら何もファナでなくても……」

「お前は! 何度! 儂に同じことを言わせるのだ! 儂が欲しているのは、クレイドル家の情報ではなく、クレイドル家の長女が持つ知識と知能だと!」


 あんな負債だらけのクレイドル家に何の価値がある!

 怒りをたぎらせ告げてくる祖父の言葉に、思わず耳を疑った。


「ふ……、ふさいだらけ?」

「そうだ!」


 ふさい……。

 ああ、夫妻か……!?


「そっちの夫妻じゃない! 借金の負債の方だ!!!!」


 またも祖父が俺の脳内を読んだかのごとく大声で怒鳴ってくる。


「お前が追い出した方の娘は、クレイドル家の負債を入れてもあまりある知識の持ち主であったというに……! 追い出してしまったせいであの家には負債しか残っていないではないか!」

「で……、ですがお祖父様は、私にクレイドル家に婿入りさせることで伯爵位を持たせ、あの家の財政を立て直すことをお望みだったのでは……?」

「お前の能力だけでどうしてあの家の立て直しなどできる? あの娘がいなくなった以上クレイドル家などに用はない。女をたぶらかせることが唯一の取り柄だと思っていたが、それさえもまともに活かせないとは……」


 どうしてもあの家の次女と結婚したいというなら好きにするがいい。

 その代わり、あの家の抱えている負債に関しての援助はしないがな――と。


 後はもう用はないとでも言いたげに、祖父が俺に向かってしっしっと追いやるそぶりを見せる。


 ――まずい。


 こうなった時のお祖父様の冷徹さを幾度も見てきた。

 一度興味を失った相手には声もかけない。

 このままでは、世間はおろか、バーケンレーグ家の中でも所在を失いかねない――。


 そこに至ってようやく焦りを覚えた俺は、祖父に向かって必死に言い募った。


「お……、お祖父様。どうか、挽回のチャンスをいただけないでしょうか」

「挽回だと?」

「はい」


 祖父に見据えられ、唾をごくりと飲み下す。


「先日、冒険者ギルドで開催された企画に、第二王子殿下が加わっていると噂を耳にしました」

「……それがどうした」

「その企画に我々も出資できれば、王室との繋がりを得られるのではと」


 先日、メアリとの話題で出た冒険者コンの話を祖父に切り出す。

 するとどうやら、祖父も冒険者コンについての話は耳に入れていたらしく「ふむ……」と考え込むそぶりを見せた。


「お前にしては悪くない着眼点だが。果たしてお前に王子殿下との接点を作り、企画に加えてもらうことができるか……」

「作って見せます! 実を言いますと、すでに冒険者ギルドに向けて手紙も出しております」


 内密で進めて、うまくいったら祖父に話そうと思ってあたためていた話だったが、こうなっては仕方がない。


 首の皮一枚をつなぐために、なけなしの切り札を切ることにした。


「冒険者コンの出資者となり、必ず第二王子殿下と懇意になってみせます。クレイドル家については、今回のことはなかったことにしてほしいと告げてきます」

「愚かな。そんなことをすれば、我がバーケンレーグ家の評判が落ちるとわからぬのか」


 自分の都合でクレイドル家の長女を家から追いやった後、やっぱり間違いだったから婚約もなかったことにしますと告げては、あまりに自分勝手すぎると世間に悪評が立つだろう――。


 祖父から眉間に皺を寄せられながらそう説明を受け、「クレイドル家のことについては自らで尻拭いをせよ。可能であれば、追い出した娘を見つけ出し再び縁を繋げ」と言われた。


「冒険者コンと第二王子殿下の件については、まずはことを進めてみよ。王子と接点が取ることができたのなら、儂にも報告するがいい」


 その際には、バーケンレーグ家としてお前の努力に力をかさなくもない、と。


 祖父の言葉に、なんとかギリギリのところで踏みとどまれたとほっとする。


「……ご温情、感謝致します」


 そう言って頭を下げ、祖父の元を去る。





「……クソっ!」


 部屋に戻ると、力任せにベッドに置いてあったクッションに怒りをぶつけた。


 クレイドル家が負債だらけだと?

 あの家で価値があったのは、唯一ファナだけだと?


 伯爵位を得られるとよろこんでいたのが、まさか泥舟に乗ってしまっていたのだと知って言いようのない苛立ちが込み上げる。


 ――なんとしても、第二王子との接点を得なければ。


 ここで失敗してしまえば、間違いなく祖父は、ひいてはバーケンレーグ家は、俺のことを切り捨てるだろう。


 そうなってしまえばもう、クレイドル家と一緒に泥舟に沈む未来しかない。


「……くそ……!」

「あの、コーネリアス様、どちらへ?」


 踵を返し、再び玄関から出て行こうとする俺に使用人が訪ねてくる。


「王都へ行く。王都の冒険者ギルドに行って、手紙の返事を聞いてくる」


 そう返事をして、王都ファタルに向けて出発する。

 残された最後の命綱を掴み取るために。







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