第14話 ファナ、宮廷魔術師に絡まれる
「ほお……。殿下が俺たちを差し置いてまで客人にしたってあの魔術師か。そりゃあ、ぜひとも実力を見せてもらわねえとなあ……」
そう言って一歩進み出てきたのは、黒髪をオールバックにした男。
多分……、20代半ばくらいかな?
腕に自信があるのだろう。
腕試ししたい気配をぷんぷんに出している。
……げぇ。
一応、王子の客人扱いなので、できれば大人しくしてたいんだけどな……。
宮廷魔術師と揉めたとか噂になってもやだし。
――そう思っていたら。
「そんなに気になるんだったら、腕試ししてもらったらどうだ?」
「……殿下!」
突然のエリクの登場に、宮廷魔術師たちがどよりとざわめく。
「なあ? 実態も知らずに文句ばかり言われるのもファナとしては不愉快だろ」
「ええ……?」
……いや、正直、面倒臭いんだけど。
不愉快うんぬん以前に、単純に面倒臭い。
だったら、さっさと部屋に戻って研究の続きをしたいなあ……。
そんなことを思っていたら。
「そうだ。お前、研究資材でピュアゴールド欲しがってたろ。ちょうど良さげなのが手に入ったから、腕試しで勝ったら提供してやるぞ」
「はいはいやる! やりまーす!」
うん!
ピュアゴールド、高い!
ポケットマネーから出す、厳しい!
他人のお金でもらえるなら、勝つ!
よっしゃあ、やるぞー!
エリクの一言で俄然やる気が生まれた。
そう思いながらくるりと振り向き、
「――で誰がやるの? 言っておくけど、私も暇じゃないから相手できるのはせいぜい一人よ」
実際、何人も相手をするのはだるいし。
一人相手にさくっと買って終わらせたい。
そんな正直な気持ちを押し返しながら周囲に向けてきりっと告げると、最初に私に啖呵を切ってきた黒髪オールバックが進み出てきた。
「……俺がやる」
「しゅ、主任……!」
「言っておくが、俺がここのナンバー3だ。女だからって手加減しないからな」
……う〜〜〜ん。
なんだかいかにも、三下っぽいやつが出てきたけど大丈夫かな……?
いやまあ、主任とか呼ばれてたし、自分でも宮廷魔術師のナンバー3とは言ってるけど。
「お前その顔、なんか俺のこと馬鹿にしてるだろ」
「元からこういう顔よ。そっちこそ、女だからとかナンセンスなレッテル貼らないでよね」
目には目を。
歯には歯を。
挑発には挑発を。
どうせ、年下の生意気な小娘だと思われているのだ。
だったらとことんそう思わせておけばいいと開き直る。
「それで? ルールは?」
尋ねる相手はエリク。
ことの発端なのだ。
ルール決めと審判くらいはしろと思いながらじろっと目で訴えると、どうやらもとよりそのつもりだったらしく、したり顔で答えてくる。
「どちらかが『参った』と言うか、気絶するまで」
「オーケー。あなたもそれで問題ない?」
「ああ」
私の確認に、黒髪オールバックも首肯する。
「よし。じゃあいつでもいいわよ」
それが開始の合図だ。
ざり……、と男が足を踏み出すと、こちらに向かって早速魔術を放ってくる。
「火焔!!」
はいはい。小手調べね。
でもまあ威力もスピードも申し分ないし、確かにそれなりの力量の持ち主なのだなと判断する。
宮廷魔術師ナンバー3はあながち誇大評価や自意識過剰でもないみたい。
しかし私は、それを避けることもなく人差し指にはめた指輪型の魔道具に触れて、防御結界で消滅させた。
「な……! 完全無詠唱で……!?」
黒髪オールバックが、私がキィ・スペルなしで防御結界を発動させたことに驚愕の表情を見せる。
この時代、誰かさん(私だけど)が開発した無詠唱魔術が主流ではあるが、それでも発動のキーとなるキィ・スペルなしに発動させる者などほぼ皆無だ。
魔術の発露のための集中がしにくい、発現のタイミングが周囲に分かりにくい、などいろいろと理由はあるが、単純に難しいというのが一番大きな理由だと思う。
以前にも伝えたことがあるように、無詠唱魔術は詠唱魔術よりも威力が弱い。
その理由は様々な過程を簡略化しているから故だと説明したが、キィ・スペルを省略するのもまた然り。
キィ・スペルなしで発動した防御結界が、宮廷魔術師ナンバー3と言われるほどの実力者の術を防げることが彼らにとっては規格外なのだ。
まっ、私にとってはお茶の子さいさいだけどねっ!
えへんえへん!
黒髪オールバックの放つ魔術を防御結界で捌きながら、体内で魔力を練る。
魔術というのは、体内の魔力を術という媒介を使って出力する。
故に、練られずに放たれた魔術よりも、十分に練ってから放つ魔術の方が効果が高い。
『……火焔』
目には目を、歯には歯を――ではないが。
実力差を見せるには、同じ術で返した方がわかりやすい。
「なっ…………」
どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!
先ほど黒髪オールバックが出したものより威力も速さも桁違いの『火焔』が、黒髪(以下略)の横っ面を掠めていく。
「は……? 今のが火焔……?」
「こんなので驚かれても。まだ序の口なんだけど」
………………。
なんだか、私のセリフも悪役じみてきたな……。
そんなことを思いながら様子見をしていると、黒髪(以下略)が「くっ……!」とうめき声を上げながら私に対して並行に駆け出し始める。
そうして男が、走りながら手に握った杖に魔術を流し込み――。
『氷撃!』
空中に生み出した氷柱を、こちらに目掛けて放ってくる。
この程度なら、と私が防御結界で受け流した瞬間。
「……かかったな!」
私が防御結界に意識を向けたのを隙ありと思ったのか、男がにやりと笑う。
『雷霆一閃!!』
――二重詠唱だ。
この男、同時に二つの魔術を編み出し、氷撃を囮に私の死角から雷霆一閃を放ったのだ。
さすが、宮廷魔術師ナンバー3は伊達じゃない、ってとこね。
――しかし。
それが囮なのはこっちだって百も承知だ。
「防御結界が一つだけだって誰が言った?」
氷撃を防いでいる方の手とは反対の手で、雷霆一閃を防ぐ。
「はっ!? 防御結界の二重発動!?」
驚く声を上げる黒髪(以下略)に、決着をつけるためのとどめの一発をお見舞いする。
『氷撃」
中空に、黒髪(以下略)を取り囲むように氷柱を生み出す。
そしてそれが黒髪に向かって集中するように発動させ――。
全ての氷柱が、黒髪の首にさながら襟巻きのような形になって、寸止めの状態でぴたりと止まった。
「気絶をお望みなら、このまま全部一気にぶつけてあげてもいいけど?」
そう言って、肩で息をする黒髪オールバックの前仁王立ちし、ニコリと微笑む。
「……まいった」
「はい。勝負あり」
その一言をきっかけに、黒髪の周囲に巡らせていた『氷撃』を無詠唱の『火焔』で消滅させる。
――別にほんとは『火焔』で消滅させる必要なんてないんだけど。
単なる見た目の派手さを重視した演出である。
「……え? 今の、四重で術を発動させた……?」
「ばっ、違うだろ……! 多分……」
「四重発動なんて、あの伝説の魔術師でもないんだから……!」
周りのギャラリーたちがそう言って突きあっているのを『いや、四重であってるけどね』と心の中で答えてやる。
全くの同時ではないけれど、防御結界ふたつと氷撃と火焔を同時発動させた。
いやあ、流石にねえ。
一昔前の魔術師ならまだしも、鈍りに鈍った現代の魔術師に私が遅れをとるわけないでしょ。
はっはっは!
いやいや、詠唱呪文を使うまでもなかったね。
うんうん。
「さすがだな、ファナ」
「さすがじゃないわよ。面倒ごとに巻き込んで」
背後から、私に向かって称賛の声をかけてくるエリクに、わざとらしくぶーたれてみせる。
「まあいいじゃないか。これでピュアゴールドも手に入るんだし――」
そう言って、私とエリクが一悶着はじめようとしたところだった。
「…………師匠?」
そう言って、私とエリクの会話に、割って入るものが現れたのは。




