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【パパはミラ様を惚れ直した?】side ミラージェン

 養父(ちち)が亡くなって、一年が過ぎた。


 養父(ちち)、本来の私の叔父《ソロ·マケル》は、

 全ての資産のほとんどを私に残して逝った。


 幾つかのものを除いて。


 ******


 その例外のひとつは、自分の蔵書。

 壮大な量の本であった。


『三つに分けよ。

 分け方はミラージェンの連れ合いに判断を任せると良い。』


 几帳面な、叔父らしくもない。


 あの方、ターラン司令が、どんなに忙しい身であるかを、

 叔父が分かっていないはずはない。


 蔵書の中には、外に出すことが不可能なものが、

 数多く混じっているのだろう。


 その、『門外不出』の蔵書類を、

 サリュー·ターランもしくはその息子に遺すものとする。


 残りの蔵書のうち半分ほどを、曾孫のフレイアに。


 世間の人間の目に触れても‘良し’と判断を下したものは、

『帝国図書館』へ寄贈をするもよし。


 全ての判断を、サリュー·ターランに一任する。


 これを聞いた、ターラン司令はため息をついていた。


 私も、申し訳なさに“身を縮め”恐縮をするばかり。


 本当に、生前の叔父からは考えられない。


 取り散らかした後始末の残しかたに、首をかしげた。


 今後のターラン司令に、何かの役に立つものが蔵書に含まれているとでもいうのか。


 ターラン司令は、“マケル宰相閣下”とは全く違った為政を歩み始めている。


 帝国の空気が日に日に、軽くなっているように肌で感じられる。


 今さら、マケル宰相時代の‘薫陶(くんとう)’を、

 司令が必要とするとは思えない。


 まるで、叔父は死後に司令の手を煩わせる‘駄々っ子’のようにみえる。


 あるいは、真実、彼《サリュー·ターラン》に、

 叔父は最後に甘えてみせているのかもしれない。


 ******


 もうひとつは、マケル宰相家の本当の《遺産》。


 蔵書どころではない“門外不出”の《負の遺産》。


『人間を作る』技術者と場所を残して叔父は逝った。

 厄介過ぎる相続である。


 もちろん、これは私の“手に負える”遺産ではなく。


 これも、ターラン司令の頭の上にのしかかる‘課題’として、

 叔父は残して逝った。


 ターラン司令は、文字通り両手で頭を抱えて座り込み。

『どうしたらいいんだか。』

 と嘆いた。


 本当に、申し訳ない限り。


 残された遺言状には、


『各人への‘相続’をさせた物品、不動産については、

 その後のあり方を一切問わぬ。相続人の好きにせよ。』


 との一文が明記されてあった。


 ターラン司令には、(すで)にお考えがあったのでしょう。

 私に、こう仰った。


『マケル家のこの《技術の遺産》は、

 本来ならば、ひとつの学問体系として世の中に出すことが、

 人類の発展においては正しいのだと。

 自分の‘科学者’としての目線ではそう確信をしています。』


『でも先に、マケル家の血を継ぐミラージェン氏に、謝っておきます。

 俺は、人類の発展よりも、

[メルキオーア皇帝陛下の名声と、陛下のお子様方の未来]を守りたい。


 このマケル家の《人間作成工場》は、

 歴史上には跡形もなかったように消滅をさせて頂きます。


 亡きソロ·マケル前宰相閣下の第一の悲願は、

 《帝国の三代の安定》と聞き及んでおります。


 俺自身が散々食らいつくした、

 《マケル家人間工場》を潰すという俺の“利己主義”を

 許して頂けるとはおもいませんが。


 ですが、それによって、

 せめてソロ·マケル前宰相閣下の悲願を守る事。


 それに繋がる事と、お目こぼしを頂けはしませんか?』



『それを、なぜ私に仰いますの?』



『あなたが、マケル家の血を継ぐ最後のお一人でいらっしゃいますし。

 この研究の発端を開いたマケル家のご先祖の方は、

 女性研究者だったと。

 生前のマケル宰相閣下から伺っておりました。


 きっと、

 あなたのような“知性にあふれた”女性であったのではないでしょうか。』



『ターラン司令閣下、私に異存などあるはずもございません。


 それよりも、叔父があなたに押し付けて逝った仕事に、

 申し訳なく思うばかりでございます。


 どうか、宜しくお願いいたします。』



 ****************


 私が、養父(ちち)から譲り受けた財産は途方もないものである。


 この帝国の全ての貴族が持つ資産を全て合わせたもの、

 それを上回るものではないのだろうか。


 ソロ·マケルは、金銭に綺麗な人間であったのは明白。

 不当に蓄財をしたものではない。


 そうまでして、私腹を肥やしたところで、

 あの世に財産を持って行けるわけでもない。


 帝国と皇帝陛下に尽くして働き、

 自分の蔵書を手に入れる程度にしか浪費もしない人生が、

 残した結果の“財産”であろう。


 私は、この譲り受けた財産を使って、

 人生最大の“野心”と“希望”に、打って出ようと考えている。


 それを叶えようと考えた時に、自分一人では何ひとつ立ち行かない。


 知恵を借りる相手は、

 やはり私の名目上の夫《サリュー·ターラン》よりも相応しい人間は思いつかない。


 彼が、どれだけの責務を背負っているかを分かっているのは、

 私自身であるはず。


 これ以上の、負担を彼に強いて、

 後から自分を責めさいなんでも後悔が追いつかない。


 先に、彼の息子のアロマに、

 私がアロマの父親に相談をしても良いものかの‘相談’を持ち掛けた。




 ******




「凄い!ミラお母様それは、凄すぎる。

 僕、鳥肌が立っちゃったよ。


 パパは、間違いなくお母様の応援団になってくれるよ。

 僕もマコねえも、みんなみんな。


 それって、パパが絶対に絶対に好きなやつだよね。

 僕、全身全霊でそれを保証します。」




「お忙しい司令閣下のお時間を更に頂戴することで、

 ご迷惑をおかけしたり。


 更にそれをご不快に思われる方も、

 いらっしゃるのではないかを、特に案じてもおりますの。」



「あのね、お母様。

 僕、遠回しをやめて話をするとね。


 あの方は、パパがニコニコ喜んでいるお顔が、

 お好きでいらっしゃるのではないかと思うよ。


 うん、何となくだけれど。

 パパが政治の仕事をして膨れっ面をしているより、

 機嫌がよく楽しく忙しいのは、

 (とが)められたりは、なさらないんじゃないかな。」



「まあ、そんな。」



「僕も自分で楽しい仕事に関われる時には、何て言うか?


 《人生の別腹(べつばら)》?。

 かえって、体の奥から力が沸いて元気が出るんだよね。


 パパもきっとそうだと思うよ。


 この頃のパパ、仕事をしながらため息ばっかりついているから、

 “楽しい別腹”の話を、是非してあげて。


 きっとパパ、元気になるからね。」



 ****************


 アロマの言葉に勇気を後押しさせてもらい、

 ターラン司令にご相談をする事に致しました。


「せっかくの帝都に敷地がありますのに、このマケル家は広すぎますので。」



「うん、ミラ様は何かお考えをお持ちになっているんだね?

 俺で、お手伝いができる事とかありそうかな?」



「あの、私。

 身分不相応とお笑いになられるかもしれません。

 たいした、教養も持ちませんので。」



「どうして?

 俺は、あなたが帝国で一番教養のある“貴婦人”だと、

 保証しますけれど?」



「お言葉に力を頂いて、……。

 ああ、何からお伝えしたものかしら?」



「どうぞ、ゆっくりお話下さい。

 今日は、急ぎのは用事は済ましてきましたから。」




 ************




「あの、私。

 この地に、マケル家の敷地と財を使って……」



「はい。」



「女子の“高等教育”を施す場所を作りたいのです。

 この帝国の女性が、自分の力で生きる道を助ける事を学べる場所を。


 通り一辺の教養を授ける女子教育ではなく。

 殿方と同じように、

 生きていく技と力を身につける教育の場所を作りたいんですの。」



「……。うわあ。

 本格的な女子の大学を作るって理解していいのかな。」



「私は、とんでもない夢想の絵空事を申し上げておりますのでしょうか?

 私自身、大学教育を受けてはおりませんし。


 呆れられますか?


 そもそも、女子に特化した教育というのは(いびつ)であるとは、

 司令はお考えにはなられませんか?」



「全然。それ最高だよね。


 男子の多い教育施設に、女子に門を開いてもらっても、

『開いて貰ってる!』から始まってしまうわけでしょう?


 結局、今までと同じようになるよそれだと。


 ヒヨコでも、野菜の苗でも芽が出るまでは、

 ある程度温室で守って育てるのは正しい選択だと思うよ。」



「ご賛同頂けますか?


 ですが、具体的にどのように動くのがよろしいのでしょうか。


 私は、あの世に宝を積もうとはおもいません。

 この私の‘夢想’が叶いますなら、

 人生一度の自分で決めた挑戦に、力を尽くして参りたいと存じますの。

 持てるものは、惜しみなく。」



「ちょっと待った待った。

 ミラ様は、どうしてその挑戦をお考えになったのかな?

 今さらだけれどさ。」



「司令には、呆れられてしまいますわ。」


「?」



「私がこの考えに至りましたのは。

 我欲に他なりませんの。

 原因は、『フレイア』ですわ。」



「フレイアちゃん?」



「フレイアが、大人の女性に成長いたしました暁のこの帝国で。

 女性の人生の選択肢を、大きくしてやりたいと思いましたの。


 社会正義などの大それた思いではありませんの。


 フレイアを、この帝国の大学に縛りたいのではありませんのよ。


 フレイアが成長した世の中で、

 自分で自分を幸せにする事を‘潔し’と思われる人間を、

 もう少し多くしておきたいんですの。」



「凄いなあ。フレイアは幸せだね。

 帝国いちの“おばあちゃん子”だね。」



「まあ。ホホホ。


 フレイアは賢い子供ですわ。

 ものがよく見えて、判断をいたします。


 ですが、今の帝国の“利口”な女性の生き方には、

 フレイアは、この先は当てはまりませんでしょう。


 私は、自分の人生を顧みてこの頃は考えますの。


 帝国の“利口”な女性の有り様は、

 確かに周りの人間に愛され、自身も幸せになりましょう。


 ですが、才能のある女性を“無理やりに”そこへ当てはめる事は、

 本人以外の幸せを選ぶ事になるのではありませんでしょうか?


 このような事を、あなた以外に申しましたら、

 頭のおかしな《親馬鹿ならぬ、婆馬鹿》と思われますわね。


 ですが、私。

 フレイアには、それだけの“才能”の片鱗を見いだしておりますの。」



「う、うん。」



「帝国いちの《婆馬鹿》に、お力を貸しては頂けませんでしょうか?」



「分かった!ミラ様。

 俺は、ミラ様のしてみたいということを応援をする。


 その、根幹の思想は《ミラ様のもの》。

 俺は、知っている事を手段としての協力者にならせてもらうね。」



「ありがとうございます。」



「具体的に、大学の形の構想は出来ているの?」



「いいえ。気持ちばかりが先走りまして。

 お恥ずかしいですわ。」



「ミラ様、俺が思うのは。


 まずは、《人と理念》だと思うよ。


 たとえば、初めは机がなくてワインの木箱を並べてテントでもいいんだよ。

 そこに、学ぶべき人間がいて、それを導く一流の人間が居れば。」



「器ではないと仰るのですわね。

 私、恥ずかしいですわ。」



「違う違う。ミラ様。


 そこから始まって、

 ドーンと爆発的に学舎(まなびや)が発展するのは。

 悲しいけれど、財力さ。


 その財力がないために、

 花が開かないで潰れていった学舎(まなびや)もたくさんあるから。


 俺の母校のユニが、発展したのは、

 ものすごく経済効率を上手く回したのが成功した一因だと思っているし。」



「やはり、私など……」



「いや。あなたならできる!

 あなただからできる!

 俺、あなたに『惚れ直した』!」



 司令は、紙にペンで書き物をされた。



「はい、ミラ様宿題!

 次に俺が来るまで、これを読んでおいて。

 あなたなら、読み取れるはず。」



 ターラン司令が紙に書き出したのは、

 たくさんの本の名前と著者名を記述したものでした。


 本屋で手に入らないものは、

 帝国図書館にならあるのではないかと。


 私は、司令の教育者としての優れた資質を、

 改めて垣間見た気持ちが致しました。


 司令は、


『じゃ俺が、ミラ様の女子大の客員教授一号にならせて貰おうっと。

 別に女の子がいっぱいいるからっていう、やましい気持ちではないよ。』


 と、仰って下さいました。


 心強いばかりです。



 私は、まずは《“司令”の宿題》から取り掛かる事にいたしましょう。



 ***************



 《ターラン司令の宿題》の蔵書の数々を、私は夢中でむさぼり読みました。


 ターラン司令の作って下さった本のリストは、見事なものでした。


 読む順番を示して下さった通りに読み進める事で、

 前に読んだ蔵書の知識を足掛かりに、

 次の本の知識が理解できるようして下さっておりました。


 最初の本は、小さな星の少女が、

 国を上げての留学生として大きな国の大学で学び、

 祖国に“女子大学”を作る物語でした。


 《ターラン司令の宿題》の蔵書の数々は、

 全てが創作の物語ではなく、事実を記載した書物でした。


 中には、司令がユニで知り合いであった、

 入学時に、今の私よりも高齢であった同級生の女性の蔵書もございました。


 蔵書は、次第に物語から、

 数字や法律の行間から大学経営を示すものもございました。


 また、学問と学問の繋がりの背景、

 どの分野の学問が何を導くのであるか。


 難しい事柄を柔らかく示していただく配慮であるのか、

 その例題のように、途中に“自伝”を挟まれたり、“人物像の評論”を加えて頂いたり。


 たったひとつの事柄に、人間1人の人生の重さを表す“伝記”もございました。


 ターラン司令は、それらの蔵書名をその場で瞬時に書き連ねて下さって。

 ターラン司令の頭の中には宇宙があるのではないかとさえ思われました。


 居間の私の横で、構って貰いたがる孫達をおざなりにしてまで、

 《ターラン司令の宿題》を読み耽る私に、

 アロマが申しました。



「わああ。お母様いいなあ。

 このやり方、パパが僕に勉強をさせてくれていた時のやり方だよね。


 僕、今思い出してもワクワクするもん。

 しばらく、これをパパにやって貰うのもご無沙汰してた。


 いいなあ、お母様。

 僕も一緒に読ませて頂いていいかな?」



 賢いアロマは、私が何も言わなくても、

 すぐに私の企みと《ターラン司令の宿題》の意図に気がつきました。


 アロマと一緒に‘宿題’を読み進めるうちに、

 アロマの見解や解説を聞くことで、

 私の理解も更に深まって参りました。


 2人で、遅くまで語りあっておりましたら、

 すぐに家族中の知るところとなってしまいました。


 マコーレット、その連れ合いのレヴィオン。


 スール、スールの養子達。


 時に遊びに訪れた、レヴィオンの両親。


 フレイアも、自分なりに読めるものを探して、

 一生懸命仲間入りをしようと試みます。


 蔵書はすぐに足りなくなり、同じものを買い足しました。


 家族皆が《ミラお母様の図書館》と申します。


 私の、大それた‘夢想’を笑う者は誰もおりません。


 皆で本を読み語り合い、理想の女子大学を‘夢想’する時間の何と楽しいことか。


 体であるのか頭であるのか、自分の使った事のない何かが熱をもって立ち上がる不思議な感覚を覚えました。


 そのような幸せな時間と共に、

 《私の女子大学》の輪郭が少しずつ固まって参りました。


 《まずは、教養よりも生きる力を‘手に’》

 今さらながらそのように考えを固めました。


『お母様、女子医学部、お願い絶対。』


『芸術の学部も素敵。』


『女子だからこそ、男子よりも優れた分野は何かしら。

 お裁縫だの、お料理だのはこの際は、省きましょうよ。』



 皆の勝手な言葉が無責任に飛び交うのさえ、

 なんと楽しい時間でありました事か。




 今、私は《ターラン司令の宿題》の提出を、少し楽しみにしておりますの。



目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?ドキドキ

今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。


少しでも気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いいたします。

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