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緩和 【パパの元彼女(モトカノ)は偉くなっている?】

 ************[パパの学生時代]


 40代の若さ、女性初の中央連邦の評議会委員。


 《エリカ·モーント》女史が、上級将監の休憩カフェテリアのモニター画面に大映しになっている。


『現代の男性優位社会の女性先駆者』だそうです。


 そんな感じの()じゃなかったのにな。

 ガンガン行くのではなくて、ふわふわっと話をしていた。


 彼女は、ユニでの俺の同級生で、ふたつ年上だった。

 自然体で、気取りがなくて一生懸命学問をしていた。


 二親(ふたおや)が、ユニで教鞭をとっていた、生粋の‘勉学系’お嬢様。

 世間知らずで、その分純粋で、危なっかしくて。


 派手な容姿ではないけれど、涼しげな優しい雰囲気で。

 学内でも隠れたファンが多かった。


 何度かグループ研究が一緒になって、夜中までかかる定点観察をした。

 グループみんなで夜中の食事を作る時には、俺が調理担当の事が多くて彼女はよく手伝ってくれていた。


 みんな勉学ばっかりしていたので、食べものは栄養だけとれれば、味は二の次の奴らばっかり。


 俺は、潜入捜査で便利な‘調理師免許’を持っていたので、うっかり言ってしまったら、いつもご飯係をやらされていた。

 夜中だと、学食もやっていなかったから。


 エリカは、父母とも忙しく働いていたので早くから自分で自分の面倒を見る事に慣れていた。

 調理もそこそこできた。


 俺が、学生らしい学生をしていた時間にエリカと会った。


 てっきり、親の後を追って学者になっていると思っていた。


 口で相手をやっつけてなんぼの‘政治’方面の評議会委員になるとは思わなかった。

 研究のディベートも、相手をとことんやっつけて優位に立とうとはしていなかったから。

 人は、‘変わる’から、何とも言えないけれどさ。


 共同研究の発表が終わって打ち上げをした後に、物凄く真面目な顔で彼女に言われた。


『私とお付き合いしてもらえませんか?』って。


 ちゃかしたら、いけない雰囲気で。

 少し面倒臭いなあと思わないでもなくて。

 まだ、研究仲間がちらほらこっちを見ていたし。


 俺、こういう時はちゃんと誠実に返す方が後をひかないし、

 相手に恥を掻かさないのを知っていたから。


『ごめんね。モーントさん。

 俺、あなたとだいぶ違う産まれ育ちで。

 今は、そっちの‘つけ’を払いながら、自分の今後を開くのに誠一杯で。

 あなたのような人とお付き合いをさせてもらっても、

 相手を傷つける未来しか見えないから。

 また、友達として一緒に研究発表する時は、宜しくね。

 ありがとう。』


 この頃の俺は、学費免除がかかっていたから相当に成績上位で頑張っていた。

 そのせいで学内でちょっと有名人になっていた。


 学内で、嘘もホントもごちゃ混ぜで色々言われる事も増えていた。

 もうやけくそで、素性を必死で隠すこともなくなっていた。


 誰に交際を申し込まれても、これで終わりにできるから彼女もそうだと思っていたんだけれど。


 彼女、研究者体質って言うのか、

 物凄く頑張って何度もちょこちょこと微笑ましいちょっかいと告白を繰り返して来て。


 だんだん、周りの野次馬学生から、俺の方が悪い奴みたいに言われてしまった。

 

 普通だったら、彼女の方がストーカーに認定されるはず。

 なのに、彼女の一生懸命な感じと、どっか危なっかしくて可愛い様子がそういう風には見えないところがあって。


『私を嫌いなら諦める。

 でも、そうでは無いのなら時々話をするだけで構わないから。』


 いつの間にか、彼女の余暇時間の定位置が俺の隣に公認になっていた。


 彼女は、俺を縛ろうとはしなかったし、何も要求をしなかった。


 俺がきかれるのが嫌そうな事を、あえて尋ねようともしてこなかったし。

 頭の良い人だなぁと思っていた。


 2人で決めた訳でもないのに、学内でよく会う場所と時間が固定してきて。


 気がついたら一番長い時間を一緒に過ごす異性の友達になっていた。


 彼女とは、将来の約束なんてできるはずもないし、

 責任を取れなくなるような付き合いはしなかった。


 単位を取りまくった俺が、エリカよりも先にユニの卒業が決まった。


 俺が学内に残れそうに押してくれる‘教授’も出てきていて、

 そろそろ傭兵部隊からも足を洗っても義理は欠かないで済みそうなところまできていたし。


 エリカも大学に残って教鞭を取りたいと言っていたから、このまま時間を一緒に過ごしたら‘エリカの両親’のような“高潔”な人生を2人で歩む未来もあるのかもしれないと、少し夢をみそうになっていた。


 傭兵所から足を洗う最後の出稼ぎのつもりが、そのまま大学には戻れなくなった。


 いきなり居なくなった俺を、エリカは人づてに聞いてひとりで《傭兵部隊》に俺を探しに来たらしい。


 後で、仲間に聞かされて驚いた。


 産まれた時から両親と一緒のユニの中で育ったエリカが、あの荒くれどもの巣くっている‘傭兵所’に、どうやってたどり着いたんだか。


 鬼の住みかか、地獄にでも行って見るほど勇気がいった事だろう。


 でも、きっと“自分とは違う俺”がよくわかって、スッキリしたんじゃないかな。


 頭の回転のいいエリカと話をするのは楽しかったけれど、俺はいつも正体を隠して人間のふりをしている‘鬼’の気分で、少し後ろめたかった。


 どう考えても、産まれも経歴も染みひとつないエリカと俺が並んで歩く未来など、有り得なかったんだろうけれど。


 もし、エリカと一緒に(まっと)うなふりを一生続けたら、

 嘘が嘘ではなくなって、何かに許されるかもしれないと思った。あの頃は。


 もう“前世の記憶”のような気がするけれど。





 ***************[アロマはガレットに騙された!]



「くっそー!ガレットの野郎。

 僕はじゃあ、騙されたってこと?


 なんだよ、帝国中のみんなが知ってたんだ。

 パパのモトカノ話って。


 変だと思ったんだよ。パパの幕僚なんかもう信じられない。」




「アロマぁ、あんたこの頃仕事漬けで、

 色々世間からおいてけぼりになっていたんだわねえ。


 せっかくの‘パパ情報’。

 アロマが一番遅かったのね~。」



 *******



「アロマ君、ホントによく頑張ってくれたねえ。

 大助かりだよ。おじさん達は。


 お礼に、滅多に手に入らない秘蔵の『パパの秘密の映像』を進呈してあげよう。

 感謝感激して見てちょうだいよ。ホレこれ。」



 テレビ放送の録画だった。

 この帝国のではないよね。


 でも、字幕が入っているこの帝国の文字の。

 この時点で気がつくべきだった。僕のバカ。



 パパの幕僚達に《強化訓練》と、みんなに仕事を山積みにされて。

 この1ヶ月ろくに日の光もみていないんだよ僕。



 急に、パパが陛下の襲撃に巻き込まれて怪我、入院。


 その後は辺境地帯のゴミ掃除。


 パパにくっついて行った幕僚のおっちゃんも、

 大忙しなのは分かっているけれど。



 これって、新人に押し付ける仕事?

 パパ知っているのか?


 あんまりひどいから、後からパパが目を通しそうな‘重要書類’に、

 そうっとパパと僕にだけ分かる秘密のサインを入れてやったりして、

 時々憂さ晴らしをしている。



 さすがに、僕の過重労働に申し訳ないと思ったのかな?

 なんて思った、僕のバカ!



 ガレットのおっちゃんが、


『ごほうびだよーん。』と持ってきた映像をちょっとドキドキして見終わった。


 このネタは、マコに恩をきせて売り付けられる!と親切な弟の僕。


 そうしたら、これこっちの帝国でも放送されて大騒ぎだって。


 軍の中ではそのまま放映。


 一般放送用には、だいぶあっちこっち編集されて、

 ほとんど‘パパ’絡みの所は切って(つな)いだみたい。


 切って(つな)いだ後は、偉いおばちゃんの世間話だけに編集されてあったそうです。


 軍の中で、外部の情報を把握するために、

 将監の端末やら食事をする場所には外国の放送がバンバン流されている。


 特に、パパがマケル前宰相閣下の後釜?になってからは。

 外に目を向かせるパパの思惑かなぁ?


 編集されていない放送は、キーワードの


 《ユニ同級生》《大きな帝国で偉くなってる》で、


 みんな直ぐにピンと来ちゃったらしいよ。


 休憩室の他国ニュースを放送するモニター前で阿鼻叫喚の大騒ぎになってたんだって。


 知らなかったのは、僕ばっかりで。



 マコまで兄さんが持ってきた映像で、

 僕よりも早くからとっくに見ていたんだってさあ。


 悔しいよーもう。


 これって、ただの女性向けのインタビューバラエティー番組だよね。

 ユニに行っている時に、学生食堂で流れていたから僕も見たことある。




 ***************[エリカ·モーント女史]




『あら、独身主義なんかじゃないわよ。』


『インタビューしてくださる前に調べていらっしゃるでしょう?』


『ちゃんと、2回!離婚歴。あるわよ。』


『どうして?もう、若い女の子はしょうがないわね。』


『人は相性。上手く行くのはとっても難しいのよ。


 長く続く関係は、よっぽど相性が良いのか。

 忍耐強いのか、どっちかでしょう?』


『私?』


『ううん、結婚と仕事の両立が難しかったとかではないわね。

 別れた相手もたぶん同じ事を言っているでしょうね。』


『一生一緒に居られるほど、お互い相性も忍耐力もなかっただけよ。


 若い女の子の、未来設計にあまり参考にはならないわね。


 ごめんなさい。


 女性ってひと括りにするのは無理があるわねえ。


 人生ひとそれぞれ。

 男も女も、人それぞれ。


 参考にする他人の人生なんてないのよ。

 だから、答えは自分で探してね。』



『《全ての若い女性に?》に助言。

 まああ、なんて無茶を仰るのよ。

 そんなの無理。


 そうねぇ、仕事をする女性としてではなくて、

 ひとりのおばちゃんの後悔としてのアドバイスなら。』


『あのね、なるべく初恋はこじらせない方が良いわねえ。』


『あら、失礼ねえ。

 私もね、ほんのちょっと前には、‘若い女の子’だったのよ。』



『そうそう。仕事ではね。

 そんな事言われちゃったりもするのよね。


 女傑にも戦士にもなりたくてなってるわけではないのよ。


 世の中には、理屈抜きで女は一段低いものと思っている、

 原始人のおじさん達がまだいるでしょう?


 だから、時々髪の毛振り乱して、声を荒げてしまうけれどね。』



『初恋は実らない?

 それも、人それぞれ。


 答えが無いものに答えを見つけてはダメよ。』


『実らなくても、上手に忘れられたら前に進めたでしょうね。』


『ううん、ふられちゃったのよ。』


『彼ね、私に“さようなら”も言わないで故郷に帰っちゃったの。』


『まさか!彼の不幸を願ってなんかいないわ。


 あんな素敵な人、その後はいなかったもの。

 きっと事情があったんでしょう。』


『思い出を美しく作り直した?

 さあ、どうかしら。


 でもね、彼は本当に頭の抜群に良い、同級生だったのよ。』


『そうそう大学の。ユニのね。


 彼は、一挙一投足に見とれちゃううくらいに綺麗に、

 学問も、物事もおさめる人だったのよ。』


『ううん。違う。私よりも2つ年下だったわ。』


『まさかちゃんと追いかけたわよ。

 彼の、職場‘関係’のところまで。


 でも、故郷がどこかは教えて貰えなかったの。』



『彼の故郷?


 その後彼が、故郷でうーんと偉くなってから、

 私の耳にも届いて来たわね。


 ううん、その後はお付き合いはないわ。


 向こうにも、奥様と子供さんが2人もいらしてね。』



『でも、私ちょっと後悔したの。


 彼の子供さんを産んだのって、私達の大学の先輩だったから。

 彼女も若くして亡くなったけれど。


 彼ね、シングルファーザーでお子さん達を育てたんですって。


 今の奥様は、また別の方ですって』



『私ね、それを聞いてのたうち回っちゃたわ。


 その先輩の彼女で良いんなら、

 私だって良かったんじゃないのって。


 結婚できなくても、彼の子供なら産みたかったもの。』



『あらまあ、ごめんなさいね。

 女戦士の評議会委員を期待していらした?』



『仕事をしている私の‘性別が女性’なだけで。


 私は、どこにでもいる‘女’なのよ。


 他の評議会委員の方も、

 仕事のできる‘性別がたまたま男性’の方ばかりよ。


 他の職業で抜きん出ている女性がいらしたら、

 それはたまたま‘女性’でいらしたのではないかしら?』



『ええそうね。あなたのおっしゃる通りよ。


 どこの世界でも、立場が少数派の時は努力がたくさん必要になるわね。


 ‘普通の女性’がみんな自分の能力を磨いて、

 仕事ができるようになったら素敵ね。』



『あらまあ、ありがとう。


 まだ若いから?今から彼に?ないない、それはないわね。


 立場でも、年齢ではないのよ。


 なくした‘縁は’手遅れになってしまっては、つながらないのよ。』



『縁ではなくて‘恋’って言って欲しいのね?

 そのほうが、視聴者に受けそうね。


 でもね、‘縁’なのよ。そこはね。


 いつかあなたも分かるわよ。』



『彼は、今はとても責任のある立場になっているもの。


 迷惑をかけて、嫌われたら悲しいもの。


 せめて、おっちょこちょいの2つ年上の同級生が、

 一生懸命彼を追いかけていたことを。

 

 彼も覚えていてくれていたら嬉しいけれど。』

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