閑話 【旧友の独り言と軍服解説の話】
ラウンジの入り口から、居心地が悪そうに覗いているのは、旧友のサリュー·ターラン総括司令。
俺アクル·クローレスは濃紺の軍服に身を包む総称『紺』。
帝国から中将の位を賜っている。
奴はグレーにマリンブルーの差し色が入った軍服、通称グレー組の『ブルー』。
その彼に初めて会ったのは20年以上前。
あいつは若干17歳の特殊傭兵部隊のリーダー格で、正規軍が持て余した案件を法外な報酬で請け負いにやって来たうちのひとりだった。
このラウンジへの立ち入りは、最低でも准将の将監位以上を帝国から授かったものだけ。
上を目指す若い奴らにとってここは憧れの空間、ある意味わかりやすい到達地点を表す場所だ。
先ほどから入り口で、もぞもぞしている我が友は、皇帝陛下を除いて実質の帝国軍No.3に登りつめた高位にある。
はず?本人の自覚の欠如が甚だしい。
皇帝陛下の直属の彼は、滅多にこちらに顔を出す事はない。
普段彼は激務の合間に、夜中に研究室の白衣を羽織り目深にキャップをかぶって、下士官専用のコンビニエンスストアに自分で食事調達に出没するのを、皆気がついて笑いを噛み殺している。
本人だけは気がついていないらしい。
日頃彼が、将監1人あたりの何十倍もの仕事をこなして、この帝国を数世紀も進歩させた科学技術の発展をもたらした事は、帝国軍に席を置くものには周知の事実だ。
実力の伴わない過去の異物の軍閥貴族のゴミどもにさえ、今となっては『傭兵上がり』の高級将監と異論を唱えさせる余地もない。
軍服を緩めた彼は、初めて出会った若年傭兵の頃から、あきれる程変わることがない。
不思議な程若く見える容姿とともに、軍服を脱いで今風の若者のファストファッションにでも身を包めば、とても二児の父親には見えないだろう。
若気の至りでうっかり父親になったのを差し引いたとしてもだ。
派手ではないが整った黒に近い茶色の頭髪と同じ色の気の強そうな切れ長の眼差しの彼を、皇帝陛下の愛人として成り上がった等と言う奴らは、大概がおのれの能力の無さを省みずに嫉妬と羨望をこじらせた寝言。聞き苦しいばかりだ。
そんな可愛いタマではないのは、かれこれの長い付き合いで充分に知っている。
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我が帝国軍着用の軍服は、ほとんどが自分と同じ濃紺の色合いで、階級ごとに少しずつデザインに変化がある。
士官学校の卒業生、及び叩き上げも全てこの色合いの軍服『紺』に身を包んでいる。
対して彼の場合、軍服のカラーは、皇帝陛下のお召しになっているグレーを基調として、彼及び彼の直属は陛下に許されたマリンブルーの差し色のラインがどこかに入る。
襟、袖口、身ごろ見返し等。
グレーの軍服トップは、陛下の前時代の父皇帝時代からの帝国の重鎮、マケル宰相とその配下。
彼らはダークグリーンの差し色が軍服の何処かに入っているが、その違いは良くは分からん。
グレー組の特に宰相閣下の周辺は表に情報が出てくる事がなく、多分に謎に満ちている。
次に続くのが、陛下の盟友ドゥーダン提督と配下のグレーにワインレッドの差し色。
そして、彼サリュー·ターランのグレーにマリンブルーの差し色。
ただし、サリュー·ターランの配下の部下達が真面目に軍服を着ているのは見たことがない。
テクニカル技術開発職のものが多いせいか、ずるずる白衣を纏い、たまの式典でしょうがない時だけ慌てて軍服を引っ張り出している様子が見え隠れしている。
ターラン司令直属の幕僚は皆曲者揃いで聞こえている。
どこかが人間としては、ぶっ壊れているような奴らばかりだ。
しかし、仕事は一騎当千。
壊れた天才集団と呼ばれて、こちらの『紺』軍服組からは、化け物扱いの視線を送られている。
彼らの高い階級は、一人一人がこちらの佐官に相当することと、その采配の自由な裁量を羨み妬まれていたのは、最初のうちだけだった。
いったいどこで、人材を調達しているものかターラン司令に尋ねたことがある。
「俺、裏道のゴミ箱とかで怪我してる妖怪とかに会うの多くてさ、拾っちゃうの上手いんだよ。」
何人かこっちの『紺』組から変わり者を引っ張っても行ったようだが、変わり者が使えない変わり者だったときは、バッサリの切りっぷりを偶然そこに居合わせたこともある。
普段こうして、話をしているとうっかりするが、こいつ自身も若い時にすでに、悪魔の周辺のような二つ名をぶら下げて戦場を駆け回っていたのだから。
妖怪の部下集団を束ねるなど、むしろ良識ある優秀な高級士官を幕僚に据えるより、馴染むのかもしれないが。
ダークグリーン ソロ·マケル宰相配下は諜報活動、皇帝陛下の周辺、皇太后様のお側近くにも侍っているのを垣間見る事もあるが、詳しい事はこちら側『紺』には聞こえてくることはない。
ワインレッドの差し色グレー軍服を纏うドゥーダン提督は、前皇帝から皇帝陛下が帝位を奪取した協力者であり、立役者。
現皇帝の時代を力で後押しした陛下の盟友ドゥーダン提督は、先の皇帝陛下の時代は臣下というよりは、小さな隣国の盟友という立ち位置であったものが臣従をとって今の形におさまった。
独自で、帝国軍に匹敵する軍隊をこのワインレッドの『レッド』で構成しており、何やら、ボタンひとつかけ違えたなら、きな臭い。
このグレーに差し色を入れた軍服の集団が、陛下のお側近くで勤める集団である。
グレー組の採用条件は、ほとんど表に出てはおらず、仕事内容もこちら側からは伺い知れない。
また部下や部隊の編成のあり方も、それぞれが独自の裁量に任されており、それもまた謎を深める要因でもある。
こちら『紺』組は、上へ行くほどスッキリ、分かりやすい。
軍略を巡らす頭と力。
能力の成果に地位と裁量の権限がついてくる。
陛下のお側近くでのマケル宰相は、陛下のご意志に絶対服従も陛下の時代を前皇帝から奪還した影の実力者として、政治のあれこれと諜報を一手に握っているものと推察されている。
サリュー·ターラン 彼はこの前時代の皇帝から現陛下への内乱の時代を知らない世代である。
実際、内乱というよりは3日クーデターの様にあっという間に皇帝の帝位の移行が行われ、国や民が大きく損なわれる事もなく時代が動いた。
彼の職域を本人が言うには
「トラブルシューターの便利屋。
傭兵所から戦闘機1台分払って買ってやったんだから、その分働けってさ!」
「その上、よく働いたらごほうびに、好きなおもちゃも作っていいって。」
サリュー·ターランは傭兵所で、頭の回転に舌を巻かれて、情報取りを兼ねてこの銀河で唯一無二の最高峰学府で知識を納めた能力。
彼の設計による数々の成果が、我々何十万の命を守って来たことは末端で働くものほどその恩恵を噛み締めている。
それらを
《サリューのおもちゃ》と陛下がおっしゃると言う。
彼は、仕事の話を世間話と間違えるはずもないが、ごくたまに酒席をともにすると、ワイン数本空けたあたりから少々口が緩く愚痴も出る。
それを楽しませてもらうのも、信頼のあかしと光栄に思うところではあるが。
「お久しぶりです。ご無沙汰してます。クロさん。」
やっと、席まで案内されて来たか。
目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?ドキドキ
今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。
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