【パパの《死に支度⒈》形見の宝石を処分?】 side サリュー パパと陛下…♡♡
マコの住んでいるマンションを訪ねた。
子供達がまだ小さい時、陛下のご勘気も解けず、それに乗じた魔手にわらわらと追いかけられていた頃に、住んでいた場所。
近くまで足を運んで、初めてみた場所と同じで‘懐かしい’でもない自分の感性にちょっと呆れた。
でも、俺が仕事から昼間に帰れた事もなかったから、辺りを見回す余裕もなかったし。
ミラ様が、同じフロアと下の階を買い占めての危険回避を提案して、感心した。
その上、建物一棟全部が俺の名義になっていて何が何だかわからない。
だって、お金払ってないもん俺。
「おかしいなぁ?」
スールさんも、本当に知らなかったそうで。
おまけに、うちに向かって射程しやすい他の建物の部屋は『灰色』の軍服の人の帝国からの借り上げ宿舎ですと。
そこまでして下さらなくても?と、顎が外れそうで、ポカーンとした。
ミラ様が
「あそこは、マコーレットに産まれて来る子供を育てる環境には、あまり適してはおりませんわね。
いずれ、マコには庭のある、落ち着いたところを用意してやりたいものですわ。」
「その後はあの場所を、司令閣下が何かの時にお使いになる、安全と利便を整える事は必須ですわね。」
「あの、よくわからないんだけど?魔法か何かで御用意して下さった?」
「何を呆けた事を仰いますか?
陛下に決まっておりましょう?
領地の1つ2つと比べましたら、このような積み木の家の1つが何程のものでありましょう。」
「ええと、俺はねぇ、ミラ様。」
「また、この件はゆっくりお話いたしましょう。」
はあ、ゆっくりお話して勝てる気がしない。
「私は、司令のお仕事は存じません。
ですが、あそこは何かで司令の部下の方々の避難場所としても、有効な使い方があるのではないかと浅慮してもおりますのよ。」
はああ、成る程です!
《まさかの時の何か》で使いそうな部下の顔、両手で数える程思い当たります。
「俺、それで陛下にどう言ったらいいのかな?」
「何も仰る必要もございませんでしょうけれど。
お気になさるなら
『ご配慮感謝いたします。』と、
一言仰ればよろしい事と存じますわ。」
そうだった。
この人はご苦労はされているけれど、帝国有数の名家のお嬢様だったんだよな。
今更だけど。
色々余計なものは増えたとしても、スールさんとミラ様がいれば。
俺が“死に逃げ”させて貰ったとしても、何とかしてくれるだろうから。
もういいか?
ミラ様に、《子供達にあんまり間違った金銭感覚を持たせたくはない》と議論を吹っ掛けてみるのも、今の俺にはそんな事に使う気力も先の時間もないし。
子供達も、楽な子供時代を送った訳ではないから、そこまでバカには育ってはいないだろうし。
子供のもっと先の未来の事は、俺の手の届く範囲ではないだろうし。
そっと陛下に、お礼を申し上げておこう。
嘘みたいに丸くなってるかも、俺。
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マコが元気そうにしていて安心した。
レヴィ君が、頑張って買ってくれた結婚の指輪だかを嬉しそうに見せてきて、妊娠中は浮腫んで身に付けられないと話す様子を笑って見ていた。
妹アンが『私の姪はどろどろした人生を送らない。』と、信じた訳でもないけれど、そうあって欲しいとは思う。
「なあ、マコ。そういう宝石って貰うと嬉しいわけか?
女の人って?」
「パパ、女の人、女の子は、みんなキラキラしている綺麗なものを見るのは大概好きよ。
男の子が車や飛行機が好きなくらいにはね。」
すっかり忘れていた事を思い出した。
昔、母の腹違いの姉という人に、滅んだ母の母国からの《形見分け》とかの、何かキラキラしたやつをじゃらじゃら受け取った事があったんだ。
『要らない』、と言ったのに。
かつて公国があったという証拠の印を受け取るのも供養だとかで泣かれて。
末席の王女だった母の取り分など、他の姉妹に比べれば形ばかりの寄与だから、気にする程の事もないのだと。
腹違いであっても、母とは仲の良い‘ほうの’付き合い方をしていたそうで。
面倒臭くなってポケットに押し込んだ。
俺って、人生の節目が全部“面倒臭い”かどうかで判断しているのか?
恥ずかしい事に今気がついたよ。
ちょっと遅かったか?
あの人も不幸な死に方をしたと、後になって風の噂で耳にした
あの、じゃらじゃら何処にやったっけ?
確か、帝国に戻る時に、どっかに押し込んで持って来たように思っていたんだけど。
20年、探したこともなかったよ。
あれも、俺がいなくなった後にどっかから出てきて、面倒臭いのも嫌だから。
探して見ようか?
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あった。古ぼけた革の袋に入れたまま。
傭兵所の認証カード、ユニの学生寮部屋のキーカード、古い手帳、と一緒にごちゃごちゃと。
ざらざらと、机に出してみる。
俺がわかるのって、燃料や材料になる金属とかだから。
こういう炭素の結晶体は門外漢だ。
どうしよう、捨てるんなら捨てるで。
とりあえず分かりそうな人に相談してみようか。
「これは、とても良いお品の様にお見受け致しますわ。
磨かれてカットも施されて、原石ではありませんのに。
装飾の土台は無しで石のみですのね。
ご事情のあるものですの?」
ミラ様と、スールさんに見てもらった。
「へえ、これやっぱり本物の宝石なんだ。
あんまり無造作に押し付けられたから。
レプリカかと思ったんだけど。」
「司令閣下、私は以前に仕事の関わりで少しばかり‘石’を学んだ事がございます。
これらの品は、この帝国では産出されておりません。
その為、帝国で手に入れようとすれば、おそらく相当高額になると思われます。」
「本当かなあ?鑑定書があるわけではないし。
全部が偽物かもよ。
もともと、虚飾に満ちてる実のある国のものではないから。
見栄の為の装飾の様な気がするんだけどさ。」
「お品の由来をお聞きしてもよろしいですか?」
「俺の母の生国の、国から母への形見の品だって。」
「お母様から、譲られたお品ですの?」
「まさか、まさか。笑
当時に少しでも金に代えられる物があったら、だいぶ生活が楽だったろうから。
それはないよ。」
「母が死んでから、ここを出た後に。
母の腹違いの姉という人に、渡されて正直困った。
母は、身内にも知らせないで、父についてきて死んだから。
ずっと行方が気になっていたんだと。」
「公国のあった印に血縁だから持って行けって、何だか強引に渡された。
その後、その人も亡くなってるから返す事も出来なくなって。」
「捨てるに捨てられないし。
この間、急に思い出した。
ねえ、これ本物?」
「お預かりしてよろしいですか?
奥様とご相談の上で、外に漏れる口のない所で鑑定をさせていただきます。」
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本物だった。
しかも、母の出身の公国の特産品で。
今は国も鉱山もないから余計に貴重だとかで。
売ったら凄い財産らしいよ。
参ったな。
でも、売らなきゃいいんでしょ。
みんなに、配っちゃおう。
「ミラ様、これどうぞお好きに。
見たところ、嫌な気配は石からしないから。
‘呪いの宝石’とかじゃ無さそうだし。ハハハ
売ったら面倒臭いなら、持っててくれたら助かるんだけど。
ミラ様が、生活に困って売っちゃうなんてあり得ないし。
ちょうどいいや。」
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ミラ様に怒られるかと思ったら、じゃらじゃらを分配してくれて大助かり。
「私にも頂戴できるのでしたら。
司令閣下が1つ私に選んで下さいませ。」
「ええ?何で? ミラ様どれでも、全部でも好きなのをとって下さいって。
俺、この先、ミラ様に捨てられたとしてもさ、奥様を2度と迎える事はないからさ。」
「それでしたら、余計に司令お選び下さい。」
「はああ、俺本当にそういうの苦手…」
あれ、ミラ様から目力強めビーム。分かりました。
「じゃあ、これなんかどうですか?」
実は、の、ミラ様の《魂》色によく似ている、ローズ色よりの赤を選んだ。
ミラ様が嬉しそうににっこり。
良いんですよね?俺ちゃんと出来ましたか?正解出せましたか?
それから、ミラ様がまず妹アンにひときわ大きな石を選んで横に寄せた。
マコーレットと未来のアロマのお嫁さんにだとか。
何だかとても、楽しそうで、何よりです。
孫が女の子だったら、また選ぶんですと。じゃらじゃらから。笑
それから、ポンと俺に1つの大きめの石を渡して。
「これなど、いかがでしょうか?」
「俺?いるわけないじゃない。
一番こういうの面倒臭くて苦手だよ。」
「あなたにではありません。
あなたの大切な方に差し上げたらいかがかと。
小賢しい真似を申し上げて。
失礼でしたらお詫び申し上げます。」
『大切な方に』?
「…………えっと。あの方か。
『滅んだ公国の形見など不吉なものを』
ってご立腹なさって、暖炉にくべられるかも。
手間をお掛けするだけかも?」
「よろしいじゃございませんか。
それならそれも。」
ううん。あの方は面白がって下さるかなぁ?わからない。
とりあえず、ミラ様の差し出してくれた石をポケットに押し込んだ。
最後にふっと残りの石見たら、うんと小粒な濃い黄色の石が1つ。
あれ、これはスールさんの色にそっくり。
思わず手にとって。
「はい、これはスールさんの色。」
スールさん、初めは遠慮していたけれど、受け取って貰えた。
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陛下が石を手の中で弄んで、時々ぽんぽんと弾ませていらっしゃる。
薄い‘マリンブルー’の石。
ミラ様は、陛下に1番大きい石を選んだみたい。
俺が、石の由来を陛下にお話させて頂いた。
陛下は、ただ『ほお』っと仰っていらした。
『お気に召さなかった時にはいかようにでも』とは、申し上げはしなかった。
けれど、そのつもりでお渡しした。
こういう時は、表からの《件上品》ではないのが、本当に楽。
パッとお渡しして。
要らない時は、ポイっとして下さいで。
暫くしてから、陛下が最奥へ引っ込まれる時に、お首をしゃくって俺に来るようにと。
まだ、石は、ぽんぽんしていらっしゃった。
キャッチボールをしている時の、投げる前の手慣らしみたいだね。
と思っていたら。
シュッと本当に投げられた。
寝台の上に。
???
陛下が石をコロコロ俺の体の上に転がしている。
陛下の寝台の上。
陛下、これはまるで医者が行う、エコー検査みたいですけれど。
そんなあっちこっちに、エコー検査はしませんよ。
特に、胸の突起部分を丹念に転がしたり、突っついたり。
陛下、お願いですから石は、変な所に挿入はしないで下さいね。
ドゥーダン提督ではないんですから。
俺、今はそれをされるとフラッシュバックして立ち上がれなくなりそうです。
今は気力で体を奮い立たせているわけで、心が折れたら立って居られる気がしません。
もう少し、もう少しだけ整理をつけて逝きたいと思うのは、贅沢でしょうか?
ドゥーダン提督は、物を使って俺をいたぶるのが好きだった。
特に陛下に見せつける様にして。
俺が、帝国に戻されたばかりの20代の頃。
俺に、嗜虐癖でもあれば耐えられたのかも知れないけれど。
ドゥーダン曰く
『つまらない、普通だな。』
と言わせた自分には、封印したいだけの記憶しかない。
陛下が石を寝台の横付けのテーブルに置いて下さった。
ホッとして小さなため息を漏らしてしまった。
「なんだ、まだ物足りなかったか。ん?」
滅相もございません陛下。
エコー検査ごっこは、もう充分です。
目を開いて陛下を見つめてしまった俺の上に、陛下の唇が落ちて来る。
この頃の陛下は、無茶をしないで下さってはいるけれど。
このまま臨戦突入に成りましたら、2日、3日は起き上がれなくなる自信があります。
いつでも《これが最期》かも?と思うと。
陛下、どうぞお好きに。
「今日はまた、随分と素直だな。」
耳もとの陛下のお声がくすぐったい。
この場所で、明日の朝に目が覚めなかったら‘腹上死’ってやつになるのかな?
傭兵所に居たときならば、武勇伝にでもなりそうだけど。
今ここでは、ちょっと恥ずかし過ぎないか?それって。
ですので陛下、殺さない程度にお願いします。
『享年41才 死因·《腹上死》』ってマケル宰相閣下が絶対に発表できないやつじゃん。
しかも、‘お外’で!笑笑
俺、意識しないでクスクス声を出して笑っちゃってたみたいで。
陛下の不審なものを見られるようなお顔、視線が痛い。
こういう状況で、笑ったりした事って。ないな俺。何十年。




