【うちのパパは皇帝陛下の愛人?】 side マコーレット
滅多に私にダメと言わないパパに、思いきってした進路の相談。
はじめてバッサリNGが出されてしまって、驚愕したのは15歳の誕生日のすぐ後の事。
ちゃんと説明したつもり。
なぜ『生命科学者』になるために進学したいかを。
私は、あの日ママが目の前で肉片になって弾き飛んだのを目の当たりにしてから、前に進めないでいる。
ママにとって私は自慢の娘ではなかったけれど、私にとってのママは強くて揺らがない絶対者だった。
ママの研究施設が建設された大学は、小さな惑星のそのまた小さな衛星を丸ごと大学関係の研究施設と家族の居住区に割り振ってある場所だった。
ママはそこで筆頭の研究者の1人だった。
研究がたて込んで忙しい時は、ママは何日も居住区の方に足を向ける事はなかった。
それでも、家族居住区のバックアップは完璧で、私もお兄ちゃんも児童教育の施設と生活空間の衣食住に過不足はなく守られて過ごしていた。
特にママがそばにいなくても、むしろママよりもプロのナーサリーにしっかりと、注意を払ってもらって、いつも安定した心で兄妹寄り添って過ごしていた。
あの日、私は何かママに許可をもらう用事でもあったような気がするのだけど、その後の衝撃でよく覚えていない。
居住区から少し離れた研究所へは、ピストン輸送のエアバスで私1人でも迷わず向かえるからって。
喘息の持病のあるお兄ちゃんが少し元気がなかったこともあって、もう8歳のつもりの私は1人でママの研究室に向かったのだと思う。
大学施設は監視カメラがいたるところに整備されていたし。
地上での生活よりも《悪い人》に子供が用心しなくてはならないような事件は、まず起こりにくい。
だから私は、何も心配する事はなくママの研究室に向かったのだと思う。
今となっては何だか色々記憶も曖昧になってしまったのだけれど。
きっとあの日もママは、やってきた私に眉を潜めたのではないかな?
ママは、私達に手をあげたりする事はなかった。
抱き締めてもくれないけれど。
私はいつもママの眉間の皺と機嫌にびくびくしていたような気がする。
そのママが、緊急時に1つしかない目の前のポットに、研究者としての未来と価値のある自分を乗せるのではなく、能力も知能も天才とは程遠い私を押し込んだ。
その事に、私はずっと罪悪感と理解できない気持ちが拭えないでいるんだと思う。
ママの私への母性が皆無だったとは思わないけれど、さっきまで目の前に絶対的な強い命として存在していたママが跡形もなく消えてしまったことを、どうしたら理解できるんだろう。
あの力強い命は何処へ行ってしまったんだろう?
命ってなんだろう?
そんな思いが引っ掛かって、ずっと答えが見つからないでいる。
ママの命はどこに行ったんだろう。
これに自分なりに落としどころを見つければ、前に進むのが楽になるはず。
ほんの10分前まで、ママの目に宿っていた強い意思はどこに行ったんだろう。
前に進む?って言っても私には少しご飯が美味しくなるとか、笑いのツボも低くなるとかって、そんな気がする程度の。
生きる為の壮大な話ではないけれど。
うーん この感じが私のプレゼンの弱さでパパに届かないのかなあ?
居住区にいたお兄ちゃんの建物は、連鎖崩壊をしたけれど救助が間に合って、軽い怪我の手当てを受けられたそう。
その後、亡くなったお兄ちゃんのお父さんの親族に引き取られたって。
後でパパから聞いてほっとしたのは何年かたってからで。
その間の何年かは、頭がいつも薄ぼんやりしてしまっていたから。
聞いていても頭に入って来なかったのかもな知れないね。
私が生き残った事が奇跡のようなものなのだから、あのママの命の代わりの私を大事に思って、とりあえず生きてみる!で今はいいのかな?
ママの命があっさり消えてしまったことの恐怖を、何かの神様やら思想でパズルのピースを埋める方が楽だったはず。
でも、私がそうはしなかったのは、たぶんパパの筋金入りの神様嫌いが影響しているのかもしれない。親って凄い影響力だわ。
パパのお母さん、おばあちゃんは還俗した修道女って前に聞いたことがあるんだけれど。
酔っ払ったパパが言ってた。
「崩れ巫女と時代遅れの剣豪なりそこないの共依存」
おじいちゃんとおばあちゃんの悪口。
何だか難しくってよくわからないけれど。
「おじいちゃんとおばあちゃんって、ちょっとロマンチックだね?」
と私が言ったら、パパが遠い目をしたので、たぶん私は明後日の方の事を言っちゃったのね。
しょうがないじゃない!私だもの
私の進路問題は
『しょうがないマコの能力のつたなさ』
にパパが能力不足のジャッジを下してのNGかと思ったのだけれど、そこは違ったみたい。
パパが言うには
「今の時代に生命科学に足を突っ込むと、必ず人間をやめたくなるような生き物と関わらなければならない事に巻きまれる。」
「それくらいなら、何もしないで菓子食って家でのんべんだらり暮らしくれる方がまだこっちは心配ないから。」
いやいや、それはダメでしょう?
何のことかよくわからないからアロに聞いたら
「クローンとかあ、キメラとかあ、遺伝子バリバリ操作して神様なっちゃうおかしい奴とかあ?」
もっと何言ってるのかわからないし。
でも ダメって言わないパパがダメって言うんだから、きっととってもダメなんだろうって言うことで、私のなかでの折衷案。
「じゃあ医学を学んで見よう!人間の体。それも人間科学だよね 人の役にたちそうだし?」
聞いてたパパもアロもひっくり返って笑って
「医学校って作文だけで入れないんだよ。マコ姉知ってる?」
「アロに高等数学教えたついでにマコにもと思ったとき、熊さんまで書いて教えようとしてたのに、お前ギブしてたの忘れた?」
小学校入る前に高等数学理解するあなたの息子が異常なんですよパパ!
私は世間並みにはそれほど酷いレベルでもないはずなんですけどね。
「アロ、マコに勉強を教えてあげたら。
そうしたらパパご褒美考えちゃおっかなあ?」
「本当にパパ? じゃちょっと僕頑張ろっかなあ?」
嫌だよ、アロマまた私が何を解らないのかがわからないって言うんでしょう。
だいたい頑張るの私じゃないの?
いい加減にしてよ!
もうみんなで私のこと何だと思ってるのよ!
ということで、必死の受験勉強が始まった訳で。
パパが影でアロに
「やるだけやったら絶対諦めるって。マコが入れる医学校どこにあるよ。
この銀河系の外ですかね?」
クスクス笑いながら言ってたの聞いてたからね!
結果 16才6ヶ月飛び級で合格の医学校は補欠繰り上がり合格。
多めに入学金かかってパパには申し訳なかったけれど、アロとパパで合否賭けてたの知ってるんだから。ふーんだ!
でもびっくりした。入試でヤマって当たる事あるのね。
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