閑話 【クロさん一家とうちでお食事会。わーい。】
「大変でしたでしょう?御一人で。」
アロがヨシュカ君に庭を案内して行く背中を見送りながら、
クロさんの奥様のハイシアさんが俺に言う。
うちの庭、そんなに大きくないけれど、気持ちのいい空気が漂ってけっこう気に入ってる。
スールさん、さすがです。
アロもお兄ちゃんぶってヨシュカ君の世話を焼いている姿がかわいい。
後でよしよししてやろうっと。
クロさん奥様。わかるよ!シングルのワンオペの気持ち。
たぶん、御自身が大変な時も越えていらっしゃったんだろうね。
「普段は、夢中で何をやってるのかを考える余裕も無かったですけれど、
自分が体壊した時が、一番煮詰まりそうだったかな。
一家心中までは、考えなかったけれど。笑
結局は、子供たちの能天気さに救われました。
ハイシアさんは、夜勤もある職業ですから、
体がひとつでは、手詰まりになる時もありましたでしょう?」
「一昨年まで、亡くなった主人の母が私の留守にあの子を見ていてくれました。
義母には助けられるばかりで、ろくに孝行もせずに送ってしまいました。」
クロさんが
「こんな時に、仕事絡みも何だけども?」
クロさん夫人、ちょっと眉を寄せてクロさんに
「私もお庭に参りましょうか?」
「いやいやいい! たいした話ではないからさ。
若手の教育部門の奴らに話をしてみてくれと言われて。
俺は嫌だって断ったんだけどもしつこくて。」
「ん?」
「お前さんのところの子供達もだけれど、
この頃お宅の『灰色ブルー』グループの幕僚のまた下に、
けっこうこっちの『紺』軍服からも若いのを引っ張って行っているだろう?」
何だよ、やっぱり仕事の話かよ。
「俺、仕事の頭を据えた後は、
基本そいつらが動き易いように口を出してないから。
あんまりよくは知らない。」
うーん、人事の話? 少しだけたいした話ではないの?
「そっか。いやな、そっちに引っ張られた連中が、
こっちに居る同期の連中と比べて、短期間に格段の腕をつけてるわけよ。
はじめは、こっちにいるのとたいした変わりが無いように見えるんだが。
えらい短期間で、化ける。」
「うちのブラック職場で、こき使われているだけじゃないのか?」
「で、結局こっちの教育機関の連中がよ。
お前さんに、若いのを化けさせる秘伝があんじゃないかって話になったわけよ。
1度若手を鍛えるのに、講師でもやってくれないかって、
俺に口を利いてくれってしつこくてさ。
俺達、そういうのは無しだからって言っても見たんだが。
ただ、実は俺もちょっと興味はある。
頭を使う方でも体を使う方でも、
何でもいいから、1度ちょっと相手してやったら喜ぶから。
忙しいのそりゃ分かってる。ダメか?」
「クロさんてば、『あなたに限って』それを言う?
士官学校を出たエリートさん達に、俺が何を教えるってさ。
嫌われものに、新手の虐めかよ?」
うちの幕僚、全員士官学校を出たのいないよ。
1人いるけど、そいつ一回軍法会議で官位剥奪になってた奴。
「嫌われもの?どこの話だよ?
お前さん、30代以下の若手の‘アイドル’だぜ?」
「はあ?」
******
あれ、部屋にそっとマコが入ってきた。
来れないって言ってたのにな。
奥様に黙礼して静かに座って、
話の邪魔しなくなっただけ少し大人になったかなマコも?
「クロさん、俺さ指導員とか教官とか、壊滅的にダメだから。
トラウマなってるんだってば。
傭兵部隊で教官やらされた時に、
厳罰注意になって監禁処分食らったことあんの。」
「何だよそれ?」
「えっと、『セキュリティ』とかの傍受法、防衛システムをさ、
傭兵所の上側が‘短期間’でものになるように仕上げろって、無茶苦茶を言って。」
あれ、アロマ達も戻ってきたのか。
うちの子はいいけど、
クロさんの坊っちゃんに、こんな話を聞かせていいのかな?
「あなた、私先ほどいただいた美味しいお料理のレシピを教えていただけるそうなので、厨房でお聞きしてきますね。
ヨシュカも一緒にいらっしゃいな?
デザートの味見をさせて下さるって。」
奥様、グッドです。
「短期間で仕上げる方法も無いわけではなくて。
『名探偵よりも大泥棒』を
やってみたんだよ。」
「何かを盗みに入るのが、事前に予告があった時にさあ、
その金庫の前に網を張って待って捕まえる役には、
名探偵よりも大泥棒の方が捕まえるのも上手いのが道理なわけよ。」
「だって、盗もうとする方は、死に物狂いで穴がないかを探して策を練るでしょう?
それに対して、一生懸命守ってる‘つもり’の方がかなうわけ無いはずで。」
「優秀なプログラムのエンジニアよりもハッカーの方が、
防衛のシステム作らせたら上手いんだよ。絶対。」
「で、俺やっちゃったわけ。
傭兵所の泥棒くずれの連中に、先に泥棒の仕方を教えて、
後からそれに対する防御方法もちゃんと教えたんだよ。」
「見事に、短期間で《防御に上手い使える連中》が仕上がったんだけど、
そしたら結局後からかなりの数の立派な泥棒がわらわら。
そいつらが捕まった後に、
『傭兵所では兵隊を作るのをやめて、泥棒を作って儲け出したんか?』
あっちこっちに袋叩きよ。
少しの奴はその腕を使って、
足を洗って全うな商売に鞍替えしたのもいて。
そいつらには俺、飯くらいは奢って貰ったけど。
上に怒られたのなんのって。」
「それで、もうお前は頭の方の教官はやるなって
棒切れの振り回し方でも教えてろって。」
「そしたらまた、後からすごいことで怒られる事になって。
何か、俺が関わった連中のその後の《離職率が異常に高い》ってデータ出たって。
言いがかりにしか思えなかったけどさ。」
「『お前以外の奴に教官をさせると、ちゃんと凶悪な顔の奴らを“兵隊の顔”に叩き上げるのを。
お前がやると、凶悪犯が“人間の顔”になっちまって、
どっかの教会のくそ坊主か?てめえは!』
って、1番言われたく無いような言いがかりで、
それから俺には教官役は回って来なくなったのさ。」
「ちょっとなかなか面白くて酒の摘まみにいいけどな。
でも、やっぱりお前ん所子供のできは普通じゃないだろ?
遺伝子って言われたらお手上げだがな。
マコだってアロだって。」
「子供たちの基礎力は、
子供を産んだ母親のキーラのプログラムの恩恵のみだと思うよ。
だけども、クロさん。
このキーラのシステムを、
赤の他人の俺が広げちゃうのだけは抵抗があるんだよ。
いつか、この子達が大人になって母親の遺産として世の中に出すんなら、
それはそれでありだと思うんだ。」
「よく、わかんないな? 何でだ?
本人が死んでいたらしょうがなくないか?」
ちょいと困ったな。でもいい機会かもしれないか。
「それをやっちゃうと、キーラの死んだ旦那と同じ事になるからさ。
人のもの盗まなくても、いつか腰を据えてかかったら、
理科学系での教育システムなら、俺さ、
キーラの上を行くのを作れる気はしているんだけど。」
アロマが珍しく話の腰を折る。
「パパ、結局ママの旦那さんって、
ママの研究を泥棒して生きていられなくなったの?」
「うーん! 微妙?」
「例えば、マコが上等な料理作ろうと、
いい肉を冷蔵庫にストックしていて、料理を作るタイミングを計っていたのに。
誰かがよく考えもしないで、良さそうな肉だからと悪気なく使っちゃったと。
出来上がったのが立派な料理だったら、まだ許せるのに。
何でこんなへなちょこ料理に使うかな?
って事になったら、もうキーラはケチのついた研究を外に発表が出来なくなったわけよ。
それ、キーラが子供の時から温めて来た、人生の集大成みたいなので。
周りはけっこう分かってたけど。
キーラの旦那、バカではないけど、まあ少しどうよ?」
「アハハは、パパってママの旦那さんが嫌いだったんだ?」
「うん、俺男も女も、鈍くて悪気のない頭の悪い奴ら苦手。
速攻そばから逃げる事にしてる。」
「でも、お兄ちゃんのお父さんは、ユニの助教授かなんかでしょ。
バカと違うじゃない。」
マコ、どうしてそっちのパパ寄りの感じですか?
「講師な。臨時の。
だから、別にバカなんて、失礼は言ってないって。」
「キーラの目の前で、溶鉱炉に飛び込んで見せたのはちょっとバカだったわ。」
「中途半端な金持ちのユルい坊っちゃんて、
いい時は紳士でも何かあるとどうもなあ?
いっそ、同じ金持ちでも、代々気合い入ってきたようなところだと、
息子も娘もなまじの庶民じゃかなわないくらいの、
筋金入りに出来上がってるんだけどな。」
「俺、キーラの旦那見て、感心したわ。
死に方ひとつで、
盗まれたキーラの方が悪者みたいにひっくり返して逝ったもんな。
お坊っちゃまの恥知らずな保身、お見事!」
「キーラあいつ、旦那の事をちゃんと責めてもいないんだぜ。
手の届く所においていた私が悪いって?
子供のお菓子じゃあるまいし。
ちゃんと、責めてやったら違う結果もあったような?
後から他人が言うような事じゃないけど。」
「ママ?何で?」マコ
「よくわかんないよ。俺はあいつじゃないからさ。
でも、あいつずっと旦那が若い頃に寄越したアクセサリーを付けていたわ。」
「パパ、それを機会があったら、私がお兄ちゃんに話したらダメ?
お兄ちゃんずっとホントの事を知りたがってる。
お兄ちゃんの親戚にママがお父さんを殺したって吹き込まれて。
私お兄ちゃんと今でも時々文通してるの。」
「はい!それはダメだから。
これは君のお兄ちゃんから見ての他人からの、
あくまでも俺の私見。
真実ではありません。
俺は君のお兄ちゃんの人生に巻き込まれるのはごめんです。」
「パパひどく無い?
子供の時お兄ちゃんとも会ってるでしょうパパ。」
「マコ姉、ぬる!
マコ姉のお兄ちゃん、ホントに知りたがってるなら、
調べて事実だけを並べて、自分の頭で考えたらいいじゃない?」
「悪うございましたね。私の兄はあなたと違って。
でも、アロとも半分は血のつながりあるのよ。お兄ちゃん。」
「そこまでにしとけよ! せっかくクロさん来てくれたのに。
姉弟ケンカして見せてんじゃないよ!まったく。」
*************
タイミングよく、クロさん奥様&息子ちゃんが、メイドさんとお茶お菓子と登場。
またしても、奥様助かります。
お茶を頂きながら、ヨシュカ君のスピーチタイム。
「アロマ君は、士官学校下部への入学は全然考えなかったの?
僕は今のお父さんと、
亡くなった父様に近付けるような立派な人になりたいから、
下部学校に合格出来れば嬉しいんだけど。」
「僕は、
出来れば両親の母校のユニに合格したら行ってみたいと思うんだ。
まだパパみたいにトップで入学して、
学費免除なんて自信は、とってもないけどさ。」
アロマ君、答え良好、正解ですよ。
「アロ、そんなこと気にしてたんだ?
パパ頑張って働いてるからお前の学費くらい出せるぞ。
自分のタイミングで、いつでも行ってきな。」
「アロマ君、士官学校も行くつもりないんだね?
なんだ、先輩にアロマ君がいたら僕、
自慢に出来ると思ったのに。」
「そもそも、うちのパパが嫌がるのさ。
ねえパパ。
パパは僕が軍属になるのも、
マコ姉が軍属の男の人と結婚するのも、
絶対やめてくれって、ずっと言ってるんだよ。」
「どうしてですか?」
そんなつぶらな、おめめ向けられるとなあヨシュカ君。
さて子供向けにどう言おうか?
血族を軍属の中に広げると、とっても嫌なお顔をする怖い人に、
おじさん首輪を握られているからですよ。
そんなことは言えないじゃん?
「ヨシュカ君のお父さんは、
お二人とも部下にも家族にも公平で正しい方達でしょう。
ヨシュカ君の亡くなったお父様も、立派な方だって聞いているし。
(ごめん、うっかり名前も調べていない。)
クローレス中将閣下は、
今ヨシュカ君にお話してる様子も、
部下に対してお話する様子も態度も全然変化のない、
いつも同じクローレスさんなんだよね。」
「でも、おじさんね(俺です)傭兵部隊上がりで荒っぽいところから来てて、
士官学校出の人みたいに上品じゃないからさ。
仕事の時の顔と普段の緩いパパの顔とが違うんだよね。」
「部下に、普段のバカなのがばれちゃったら、
言うことを聞いてもらえなくて困るじゃない?
だから、仕事の時だけ頑張って、
背中に付いてる‘お仕事スイッチ’入れているんだよ。」
「その目の前に、アロマやらマコーレットがうろうろされたら、
おじさん途端に‘お仕事スイッチ’が切れちゃうのさ。
そしたら周りじゅうが迷惑するから、
アロマに視界に入ってもらうと困っちゃうわけよ。」
「お仕事スイッチ?キャッキャ」
ヨシュカ君かわいいね。
「パパのスイッチはスペシャルターボだから、
普通の仕事よりもハイレベルだからね。」
おいおいアロマ君、子供相手に何を張り合ってるの?
あっと!君も子供だったわ。笑
話を変えさせてね。
「マコはハイシアさんと顔見知りだって?」
「実習で行った病院に、はじめましての途端に、
たまたま車の多重事故で人手が足りなくなって、ぐっちゃぐちゃ。
実習生はみんな震え上がっていたけど、
私もわりとお仕事スイッチ入れると動けるみたい。
気がついたら、5時間だった?
看護師長さんのハイシアさんとご挨拶もしないうちに、
阿吽の呼吸?
ハイシアさんごめんなさい。おこがましいですね。」
「とんでもない。
新人さんとは思えない見事な手さばきでしたわ。」
「マコ、お前さ皮膚科とか小児科とかかと思ってた?
外科とか整形外科とかやるわけ?」
「まだ決めてない。全部を回ってからよ。
臨床も気になるんだけれど。
私じっと研究するより、
現場の方が向いてるみたいな気もするし。
考え中。」
「それよりさあ、パパのせいでうんと迷惑しているんだけど?
どうしてくれる?
パパ、うちの帝国の外だけど、
『ミュミュ』って言う名前のおっさん知ってる?ユニ出身の。
銀河系連合赤十字で少し偉いさんの。
はじめは、えらい感じよく接して下さって、
私が『ターラン』って名乗った途端に、パワハラ全開で、
ちょっと笑っちゃうレベルなんだけど?
パパ、向こうで何かやった?」
「ヨシュカ君、マコの愚痴話なんか楽しくないよね。
クロパパとも一緒に、楽しくお話しようか?」
「アロマ君パパ。
僕マコお姉さんのお話もとっても面白いですよ。」
チッ!ダメか!話変えようと思ったのに。
************
ツールさんが部屋に来てくれたので、仕事の連絡でも来たかな?助かりー。
と思ったら、新しい冷たいデザートをメイドさんと持って来てくれたんだった。
「ねーパパ?
パパってば『ミュミュ』を虐めでもしたの?
キーキー異常に絡んで来て、
うっかり殺っちゃいそうなんだけど?
理由を教えてよ。」
「あっちが吹っ掛けて来たから、
ちょっとお返事をしただけ。」
「どういうこと?もう」
「えっと、何が発端だったかな?もう大昔で忘れたよ。
ああ、そうだ!事故だ!」
「ユニの実習で、小さなワープの模擬実習やってた連中が失敗して、
建物をいくつか吹っ飛ばしたんだ。
教官がバリアを外すタイミング間違えたって、
そんなバカな?だろ。」
「幸い死者は出なかったんだけど、
建物の下敷きになった生徒が何人か出て。
その中の1人が片足を挟んで潰しちゃってて、
急いで引っ張り出して動脈血止めないと、
足一本で済む話でなくなるわけで。」
「こういう生臭い話、
食後にデザート食べてる時にに要らなくない?」
「慣れておりますよ。興味深く伺っております。」
ハイシアさん、そうですか。ううう
「おお 面白いぞ。なあ ヨシュカ」
クロさーん?
「だから?パパ。
切って縛るっきゃないでしょうよ?ダメなの?」
「相手が王族だったのよ。
某国の時期国王、皇太子。」
「みんな、嫌なわけよ。
まだ、救護班到着してなくて、辺りは生徒ばっかりで。
医学を履修してるって言っても、みんなヒヨコばっかりだから。
腰抜けちゃってるし。
後から責任をとらされたりしたら、
せっかくユニ来たのに人生を棒に降るじゃん。
王族に訴えられたりしたら怖すぎでしょう?」
「で、そこで『ミュミュ』君よ。
一族であっちこっちで医学系の要職押さえているのが自慢で、
それでも威張らなくて、成績がトップの『僕は僕が大好きです。』
みたいな奴で。
普段は、勝手に自分で医学系の学級委員やってます。
みたいな感じ?
だから、みんな一斉に『ミュミュ』をみるわけさ。
当の本人、筆箱から出したようなメスを握って震えているのさ。
でも、関節ごと切断すののに、小さなメスじゃ無理じゃん。」
「俺、うっかりその皇太子と目があっちゃって。
その皇太子様は、
お客様枠で金で入学してきたんでない、
一般合格の骨がある珍しい王族さんだったのよ。
成績もけっこう良かったんじゃないかな?
前に、いきなり向こうから俺に声をかけて来たことがあって。
国にどうしても帰らなくてはならなくて、
出席できなかった講義を落としそうで、
ノートを貸してくれって。
死にそうに屈辱で顔を歪めて言うわけよ。
ユニってみんな、ノートだけはあんまり貸さないのさ。
特に成績がいい奴は。
根性が悪いんじゃなくて、データでポンと渡すと、
すぐに学校中全部に5分で拡散するからさ。
だから、それは何となく暗黙のNG?」
「いいよって、データを送信してやったら、
びっくりしたような顔をしてた。」
「暫くしたら、学生寮の俺の部屋に訪ねて来た皇太子様が、
今はこんなものしかない!」
何かキラキラしたもの、俺の勉強机に置いて帰ろうとするから、
「『ちょっと待った!
普通は学生同士のノートの貸し借りは、
お礼は食堂の食券が常識ですよ。』
俺その後、半年くらい皇太子様の食券で飯を食っていた。
そもそも、特待生をとっているから、
食堂もフリーパスなんだけどね。
まあせっかくだからさ。」
「で、目が会っちゃった!その足を挟まっている皇太子様と。
考えてみれば、失うものも何もないわけで俺。
足だの腕だのを切ったことがないわけでもないからさ。
ただ、あんまり目立って良いことはないから、
それだけをちょっとどうするかなあ?って。」
「そばに寄ってみたら、皇太子様が俺に『切ってくれ』って」
「しょうがないから、なるべく外から見えない角度で、
神経を傷つけないようにバッサリ。
道具は俺の持ってたミニサイズの軍刀みたいな奴。
くそ親父の形見。消毒はしたよ。」
「皇太子様は根性が座ってて、
布を口に噛まして麻酔もないのに声も上げなかった。
偉いさんもいろいろだよ。」
「その後ユニの本部事務所で、事情を聞かれた。
皇太子様はまだ、術後で意識がなくって証言できない状態。
腰抜けミュミュが、
俺がミュミュ達医学生徒を押し退けて、
無理やりでしゃばって皇太子の足の切断を行ったって言いやがった。」
「ひどーい。やっぱミュミュはくそやろう!」
「マコさん、ちょっと下品。
後からちゃんと皇太子が証言してくれて、大丈夫になった。
皇太子の国からも感謝状まで来たけどさ。」
「俺が腹がたったのは、
腰抜けミュミュ君が、
たぶんお偉い一族のネットワークで俺の事が耳に入ってたんじゃないか?
『傭兵稼業がご無沙汰すると、
血の臭いが恋しくなって人でも切ってみたくなりますか?』
ってユニの本部事務所で笑いやがったの。」
「こんな奴に腹をたててもしょうがなと思ったけど、
ちょっとだけ憂さ晴らししてやろうと。」
「ミュミュ君、筆記の成績は良かったみたい。
残りのプログラムを全部トップで取ったら一族の誉って、
何だか鼻息荒かったからさ。」
「俺、生理学や生科学系の人体の履修はしてなかったけれど、
入学してすぐに片手間で精神医学の方はとっていたんだよ。
取り放題のおかげ。
その時基礎医学も一緒に履修させられる事になってて。」
「静かに、がり勉をした。
医学系最終プログラムの席次広報が張り出されたら、
ミュミュ君はパパの下の次席でしたー。」
「ミュミュどうした?」
「掲示板の前で子供みたいにワンワン泣き出したのよ。
まさかの斜め上の反応で、びっくりした。
まあ、ちょっとスッキリ?」
「それ眺めていた生徒に混じって見ている中に、あんたらの母ちゃんのキーラがいてさ。
俺にボソッと『芋虫をからかって楽しかった?ばっかじゃないの?』
って言いやがったのさ。
ムカついた。」
「ねーパパ、僕思うんだけど。
いくら腰抜けミュミュ君だって、その反応は異常だよね。
そこを押さえといたら、
何か違うご褒美がどっかから出てくる筈になってたって感じがするよね。
はたいたら埃が出てきそうだね。
ちょっと面白そう?」
やっぱりアロマ君って、パパよりもお利口さんだね。
「パパ、僕やっぱり頑張ってユニ行きたくなってきた!
面白いことがたくさん転がっていそう。
絶対に退屈しないよね。」
「よっしゃ、ミュミュのじじい上手く絞めてやる。待ってろ!」
アロマ君、マコーレットさんあんまりやり過ぎないで下さい。
パパ禿げるよ?
楽しくお話を色々、みんなもたくさん話してくれた。
夕食を一緒に食べてクロさん一家を空港までお見送りした。
もっとゆっくりしていただきたかったけれど、
ハイシアさんのお仕事の都合があるそうでした。
べったり監視が付いていないで、
人と普通に話が出来るって命の洗濯だよね。
どうしてそれだけの事が、こんなに珍しくなっちゃうのかな?




