閑話 【反抗期と言われながら『紺』組のカフェテリアに出入りしてます】
あてつけではない。
『紺』軍服のカフェテリアとかでご飯を食べに来たりしている。
この頃、『灰色』軍服を見ていると食欲がわかない。
うちの部下達、ほとんど真面目に『灰色』軍服を着ないし。
ドゥーダン部隊はもともとは他国。
基地もこちらにはないから普段は目に入らない。
だから、残りの『灰色』と言えばダークグリーンが入ってるやつですね。
宰相閣下の配下を嫌いだなんて、とんでもない。
ただちょっと、中には苦手な人がいるっていうだけで。
俺がこっちにちょくちょく来る事を、誰かに《反抗期》だからほっとけって言われてるらしい。
誰かは、この帝国の一番偉い人です。
アラフォーの反抗期って痛すぎないか?
近くで上級将監の少将かなぁに、緊張している大尉(うーん技術尉官かなぁ)が報告書を渡しに来ていたみたい。
その技術尉官っぽい奴に、俺はえらく見覚えあるんだけど?
「ウソ! ガンちゃん?」
「ターラン総括司令?って あああ」
「俺、わかんない?
花屋やってた ポートの出口近くで。
うちの母親が」
「もしかして、サッチかぁ?
って名前 おめえサブルって言ってなかったか?
花屋の息子だあ? 嘘つけよ!
母親の花屋の手伝いよりも、俺たちのマシンの尻に乗って、サツ相手に企んで遊んでいたくせしてよ。」
「こっちを出た時、親父の名前を捨てて、お袋の方のを名乗る事にしたんだ。
ガンちゃんどうしていきなり号泣よ。
ちょっと俺が何かしたみたいじゃんよ。」
「生きてたんだなあ!
俺たち、あん時になんもしてやれなくって。
ホント悪かったよ。
何が何だかわかんなかったもんな。
今もわかんないがよ。
結局、親父さんは戦死したのか?」
「いつから帰ってた?
何でそんな偉くなってんだ?」
びっくりした。
幼なじみの、近所の悪いお兄ちゃんが、ベテランのミルゼス少将の所属の技術大尉。
軍服を着て働いているなんて、思いもしなかった。
ガンちゃんの家って、車の整備工場やってたし。
確かに技術尉官をやっていても不思議はないか?
この15年、よく遭遇しなかったもんだ。
もっとも最近まで、俺こっちの『紺』軍服組のカフェテリアに出てくる事なんてなかったし。
クロさん以外とは付き合いもないし。
まして『紺』組の整備技術してる場所に、顔出す事なんてなかったし。
とりあえず、座ろうよガンちゃんと言ったところに、また『灰色』軍服さんがストップかけようとタオルを投げて来る!
俺もう言うことを聞いてやんないよ。
これまで、いい子にしていたよね。
そしたら、逆にどんどん首のリードの締め付けが強くなっていないか?
もう、開き直った。
『どうぞ、煮るなり焼くなりお好きにして下さいって。
もう、顔色を伺っいながら息をするのは飽きたよ。』
心の声だけど。
いきなり、若手の尉官、佐官クラスの兄ちゃん達が、
テーブルをダダーって動かして席を真っ二つに分けた。
入り口近くにあった衝立を持ってきて、真ん中に広げて部屋を分けちゃった。
『灰色』様にどうぞこちらにって、衝立の片側に強引に座らせて。
《グレー軍服にダークグリーン》マケル宰相閣下のところから、
俺のところに出向(しゅうこう?)、監視?にきた、秘書官様だけれどさ。
前の奴よりも、愛想笑いをするだけましかもね今度の。
向こうをみたら、席替え断行の兄ちゃん達はクロさんの部下だったみたいで。
ニヤニヤ笑ってるクロさんを発見した。
びっくり。
俺に見方してくれんの?
へえー、もう俺あっちでこっちに出入りする事を、誰に怒られても気にするのやめようかな?
何で15年も、灰色のニヤニヤお化けの嫌味をマトモに聞いていたんだろう。
クロさんと、クロさんの若手の幕僚の兄ちゃん達。
ガンちゃんとガンちゃんの遥か上の上官になるんだろうか?
成り行きでミルゼス少将と、テーブルを囲んだ。
久しぶりに、息をしている人間に戻った気がした。
ガンちゃんにとっては、クロさんもミルゼス少将も遥かに上の上官。
ガンちゃんは固くなってしまって口調が、敬語だかタメ口だかわかんなくなっていた。
俺の方を向いて、次第に昔の口調に落ち着い。
周りは黙って見守っていくれて心地良がかった。
ガンちゃんの親父さんは腕のいい整備士だった。
去年、亡くなったんだ。
ガンちゃんは来年早期退職希望を出して、50歳なったら実家の整備工場の後を継ぐんだと。
俺や妹に、よくご飯を食べさせくれたお袋さんは、
今も元気で親父さんが亡くなった後の整備工場を、残った従業員のお尻を叩いて、ガンちゃんが戻って来るまで守ってくれているんだって。
当日のうちは、ガンちゃんの家とは少し離れていて、
家とは別に母親が『お花屋さん』をはじめて、
少しばかりの生活費の足しにしていた。
母が『お花屋さん』を始めたいと言い出した時は、俺つい、
「頭にお花が咲いてるんじゃないのか?
こんなところで花を売って誰が買うのさ?」
でも、親父が店を出す資金はどっからか作って来たみたいで。
母親は修道院で“花を育てる係”だったんだって。
だから?と思ってた。
ところが、これがそこそこ繁盛したんだよね。
客はほとんど基地のポートから出入りする若い軍関係の人間で、
兵士に限らず。
うちの母親は、あまりこの国の言葉が達者ではなかった。
花を渡す時は片言で、普段は無愛想なのに客商売用にニッコリ笑って。
出かける人には、
「お気をつけて」
帰って来た人には
「ご無事でお帰りなさい。」
少しなまって、でもけっこう“美人の花売り”って評判になっていた。
だけど俺、変な法則を見つけたんだよね。
母が、花を渡すときに
「‘道中’お気をつけて」
と渡した人は、必ず帰って来ないんだよ。
なかなか気持ちが 悪い。
俺、気がついた時に、花屋の手伝いをするふりをして徹底的に観察してみた。
その後の統計をそっと目立たないように調べてみたら。
100%の正確さ、花を渡す時に‘道中’がついた連中は帰って来ない。
怖いもの見たさで、母に理由を聞いてみたら。
「お見送りはするもの。」
母親の意味不明な自国語ではない不自由な説明だからよくはわからなかった。
‘お見送り’って何の‘お見送り’?
そういえば、親父様が最後の航海に家を出た朝に。
俺は、例によって朝帰りして親父と顔を会わせないように帰った。
母親に、その時。
「お前は父親の‘お見送り’もしないのか?」
って睨まれた。
と、うちの母の《オカルト花屋さん》は、世間にオカルトを気がつかれることなく、パンや野菜を買う足しにはなっていた。
帰って来る口が無いなら、バレないよね。
『買った花を渡して来た花屋さんに‘道中’と言われたら死にました』って、
お化けしか言えないもん。
“花屋の息子”は早期退職できる“整備工場の息子”が羨ましい。
いいなあ、俺も早期退職したいなあ。
でも、それまで長生きをしていたくもないかも。
ガンちゃんに、こっちの話をしないわけにもいかないか。
「で、どうしてたんだ?」
は、聞かれるよね。
*************[みんなに作って貰ったテーブルスペースでの会話]
俺「とりあえず、食って行くしかないからさ、いくつか傭兵部隊の駐屯地を回ったわけさ。
特に、評判のよろしくない行儀悪いところを中心に。
どうしてって、そういうところなら、全科持ちの1つ2つはある奴ばっかりだから。
16になってるって言い張ったら、年くらい誤魔化せると思ったんだよ。」
ガンちゃん「無理だろ、サッチ童顔だったべよ?」
俺「でもって、ちょっかい出してきた、手配書回ってる奴らを棒切れ一本で。
殺さない程度に?
親父に礼なんて言いたかないけど、まあ楽勝?」
「奥から、荒事したことなんて無いような細い陰険そうなおっちゃん出てきて。『僕元気だね。うちに来る?』で、
気がついたら若年でも傭兵部隊でちょいちょい荒稼ぎ?」
ガンちゃん「ターラン総括司令が凄い大学出て。博士号バカスカ持ってきて帝国軍に入隊したって聞いたけど。
あれってサッチの事か?」
俺「傭兵所で目端を効かしていたら、情報とってなんぼの紐付きで、SFUって大学に行かせて貰った。」
ガンちゃん「すげなー! サッチ頭良かったもんな。子供ん時からよ。苦労したろう?」
俺「それがさ、全然よ。
つまんない士官下部学校とかよりも、肌に合って。
戸籍もないような奴ばっかりだもん。
俺なんかさ、親の顔を知ってるってだけでお坊っちゃま扱いよ。
出会い頭、一発舐められないように絞めとけば後オッケーだから。
楽だわ馴染むわ、稼げるわ。」
ガンちゃん「なあ、聞いていいか? アンちゃんどうした?」
俺「音楽学校行かせたら、卒業公演を見ていたジジイにちゃっかりついて行って、今は縁が切れてる。」
ガンちゃん「んあ?何で 問題ありの男か?」
俺「妻子持ち。それだけは、止めて貰いたかった事をあえてやってくれるわけさ。」
ガンちゃん「元気でいるんならいいだろうよ。」
俺「風の噂で、2号から1号に繰り上がって、呑気に暮らしているみたい。
会うことはもうないだろうけど。」
「ガンちゃんは、ずっと1人?」
ガンちゃん「まあ、色々な。
時々隣町から遊びに来てたシーナを覚えてっか?
髪赤く染めてた?」
俺「覚えてる!ヘビースモーカーの気っ風のいいお姉ちゃん?」
ガンちゃん「一回一緒になったんだけどよ、産まれた子供が死んだあとギクシャクしてな。
俺が遠征でしばらく帰ってなかったら、いなくなってたわ。」
俺「ああ、それうちの幕僚にも俺のせいでみんなバツつくってるってわめかれているよ。
バツニ、バツサン だらけだもん。
うちの奴ら。」
「でもって、シーナ姉ちゃんとはそれっきりでないんでしょう?
その感じ?」
ガンちゃん「来年、退職したあと、やり直しをしてみっかなんて、話してる。」
「サッチは?どうよ、あっちでいい娘でもつかまえたかい?」
俺「あれ、知らないの? 結構有名になっているって思ってた。」
ガンちゃん「お?」
俺「俺、シングルファーザー 子供2人。」
ガンちゃん「うっそだろ?」
俺「上が娘、下が息子」
ガンちゃん「連れ合いは?別れたんかい?」
俺「ガンちゃん、詰めるねえ?
俺は結婚したことなんてないよ。」
ガンちゃん「???」
俺「ガンちゃん、世の中には色んな女がいんのよ。」
ガンちゃん「子供2人で留守番をしてんのかい?」
俺「上の娘19、今さ医学校でメス振り回して実習生。
下の息子13、俺の13の時よりずっとお利口ちゃん。
ほっといても今は何とかやってる。」
ガンちゃん「子供の母親は?1度は惚れた女だろ?」
俺「まさか?全然さ。
大学の時の先輩。
子供だの男だのより自分の研究第一。
根っからの研究オタク。
男でもそういうのいるっしょ?
女だっているわけよ。」
ガンちゃん「?じゃなんで子供産まれたのよ。」
俺「ガンちゃん、そこは大人の事情でしょうよ。」
ガンちゃん「何かあの可愛かったサッチに、んなこと言われると悲しくなるぜ?
大人のどういう事情だよ?」
俺「ガンちゃん、俺来年40。
かわいいは勘弁してよ。
体の相性だけは良かったんだよ。」
「『畜生商売の認知はいらない!養育費なら貰ってやるって』言われていたけど。
不器用であっちこっちにいらない敵を作る女でさ。
死んだあとこっちに子供が回って来たわけさ。」
ガンちゃん「いやいや、子供も大変なこったな?」
クロさん「よく育ってるぞ、2人とも。」
俺「あはは、クロさんの実家には、うちの子供らしょっちゅう出入りさせて貰って、散々お世話になって来たのさ。」
クロさん「なんもだ。
かえってこっちの方が助かってる。
『マコもアロも血の繋がりがないけどうちの孫』親父もお袋も言ってるところだ。」
俺「クローレス中将とは、傭兵部隊の時に仕事が一緒になって。
以来お世話になってんの俺。」
ガンちゃん「なあ、サッチ、俺もし機会が会ったら渡したいもんあったんだよ。」
俺「え?」
ガンちゃん「サッチの家の火事の後、凄い火だったからほとんど何も残って無かったけれど。
お袋さんのかなぁ、ペンダントみたいなの、形が残ったのって拾っといたんだよ。
骨は残ってなくって拾ってやれなくてさ。
土を拾ってとってあるんだけどよ。」
俺「ねえガンちゃん、あの火事の火力だと、近所のボロ屋も延焼して迷惑かけたろうか?」
ガンちゃん「それが不思議でよ。
誰も怪我人も死人もサッチのところ以外出ていないで。
ほんの数日であそこ一帯に誰もいなくなっててさ。
後で俺のダチが、サッチの隣近所だった奴を他の町で見掛けてさ、えらい羽振りよく暮らしてたって話なんだよ。」
俺「へええ。」
ガンちゃん「見た奴らに声かけるか?」
俺「いい。もういいよ。
なんか前世の記憶を聞いてるくらいの気持ちがするよ。
ガンちゃんも、もうそっち関わんない方いいよ。
ろくな事ないからさ。」
「ガンちゃんのところの整備工場って今も場所変わってないんだ?」
ガンちゃん「おおよ。機会があったら顔出してくれたらお袋も喜ぶからよ。」
俺「うん、ありがとう。」
********
衝立の向こうで咳払い。
「秘書官様がお風邪をひかれたみたいだから帰るわ。
ガンちゃん端末持ってる?
連絡先交換しよ?」
いきなり『灰色』秘書官が飛び出して来て、俺の個人用の端末取り上げやがって。
俺、切れた。
「てめえ、いい加減にしろよ。それ俺の個人用のだろうが。」
あんまり、腹たってのそこの椅子蹴り倒してやったら、腰抜かしてんの。
秘書官様。
今まで、どれだけ自分が猫を被っていたかを思い知ったわ。
腰抜かしながらも、俺の端末握って離さないのさ。
諦めて、ガンちゃんに自宅の電話番号と、アロマの端末のアドレスをそこの紙ナプキンに書いて渡した。
クロさんの同情めいたタメ息が聞こえた。
周りはドン引き。
「お騒がせしました。
野良犬は調教小屋に帰りまーす。
ほらよ!リードを付けなくても帰れるけどよ。」
腰が抜けた奴は放っておいて、
クロさんに『すんません』のアイコンタクトをして休息ルームを後にした。
その後、色々楽しく噂話の種になったのは、クロさんの周辺でもガンちゃんの関係が話を広げたのではなくて。
端の方でけっこう見学者がいて、色々話が勝手に膨れあがったそうです。
どうせ、俺が全部悪いんだろうよ。
あーはいはい。
薄笑いのできる今度の秘書官様が言うにはさ、俺は口を開くと’カリスマ性’がことごとく消滅する事を憂慮して下さってんですと。
トラブルシューターに、カリスマ要りませんから!
何か、ズレてないか。
目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?ドキドキ
今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。
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