第四十四話「諦めない!」
小町のテニスの練習試合日。場所ホームの学校。個人戦でシングルスでの出番。相手は、運悪く3年生だった。試合が始まるや力の差が圧倒的に出た。相手のサーブを一回も取れず、ラリーが続いても的確に逆側のコーナーをついてくる。その顔は、余裕すら感じさせられる。小町のサーブは、簡単に返されリターンエースを決められる。
小町の劣勢のまま試合が進み、2セット取られてしまった。次の1セットを取られたら負けが決まる。次が始まるまでの10分間休憩で水分を補充して呼吸を整える。足は、ガクガク、手が震えている。小町の頭の中で諦める文字が浮かんだ時だった。
「これ音色!!」
校舎の3階にある音楽室から聞こえてきたピアノとヴァイオリンの音色。小町は、その音色を知っている。聴いたことがあるその音色。
「このピアノ音色西沢先輩。それにこのヴァイオリン相川先輩だ!」
耳を澄まして目を瞑り音色に耳を傾ける。よく聴いてみるとピアノとヴァイオリンが合ってない、少しズレていることに気がつく。まるでお互い同士がぶつかり合っているかのようなそんな感じ、ヴァイオリンがピアノを置き去りにしてそれにムキになっている。小町は、そんな二人を頭の中で思い浮かべる。
「面白いなお二人……ここに入山先輩がいたら」
小町が蒼のことを考えたらあの言葉がスッと出てきた。
「失敗するかもしれない無謀かもしれない。でも、挑戦しないと見つからない可能性だってあるよ」
目を開けるとさっきまで足がガクガクし、手が震えていたがそれが止まっていた。
「入山先輩。私諦めません!ここから逆転するのは難しいですけど、可能性は、まだありますよね!」
気合を入れ直した小町は、再びコートに向かっていた。
試合が終了してグラウンド整理をし反省会をした後、今日の部活動は、終わった。疲れ果て帰る小町の視線の先にいたのは、あの二人だった。
「西沢先輩!相川先輩!」
手を振りながら駆け足で二人の元へ。
「おつかれさま」
「頑張ったね」
頭を撫でてくれる望海。
「お二人の演奏のお陰で試合に勝つことが出来ました!」
「見てた見てた。凄かったよね。人が変わったかのようだったよ」
「もっと撫でてあげる~」
「くすぐったいですよぉ。というか、なんでお二人が学校に」
「……なんだかね。来たくなってね。たまたま音楽室が開いててそれでピアノをやろうとした時に相川さんが来たの」
「私も特に理由なくて本当にたまたま。ビックリしたよ、音楽室行ったら西沢さんがいたんだもん」
「なんだったんだろうね」
「ひょっとして蒼君が引き合わしてくれたのかな……」
「……かもね」
「ちょっと、お二人ともそれじゃまるで入山先輩が死んじゃったみたいじゃないですか!」
「あはは。そうだね。さぁ、帰ろうか」
「そうね。カフェ寄ろうかな」
「私もご一緒します!」




