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第二章 夜襲(5)

 一日目の夜が明け、ヴェルナーたちの泊っていた村に朝日が差し込んできた。どこか遠くで鶏の声がする。それと同時に、通りの軒先に少しずつ人の姿が見え始めた。静かだった村が目覚めようとしている。

 そんな穏やかな朝の宿屋前に、身支度を済ませたヴェルナーたちは集まっていた。が、


「……ヴェルナー、お前大丈夫か?なんかすげぇ顔になってるけど……」


 なんだか異形の化物を見るような目でヴェルナーを見るバズ。それもそのはずで、ヴェルナーの目元には、尋常じゃないほどの隈が出来あがっていた。元来の三白眼と相まって恐ろしい形相になっており、道行く人はヴェルナーの顔を見るなり、小さな悲鳴を上げて逃げるようにして去っていく。

 結局あの後、ついて行くと言って一歩も引かないアイリとの口論は決着がつかず、とうとう明け方まで続いてしまった。途中まで参加していたカテラも、娘の心配より自身の睡魔が打ち勝ってしまったのか、早々に退席し自室に戻ってしまった。結果として、ヴェルナーとアイリの二人だけで、堂々巡りの問答を繰り返すはめになったのだった。


「……うう、眠い……」


 隣でうずくまっているアイリも一睡もしていないはずなので、相当疲弊していた。昨晩あれだけ大口を叩いておいて、同行初日にこれでは面目もあったものではない。が、ヴェルナーも状況としては大差ないので口に出さないことにした。アイリは昨晩着ていた黒いコートとは異なる、白を基調としたジャケットを羽織っている。簡素とはいえ金糸を使用した装飾が施されたそれは、間違いなく近衛師団の制服だった。式典などで着る正装は、もっと派手な装飾が施されているはずだから、これは略式の作業衣だろう。下は細身のキュロットパンツにブーツ。騎兵が乗馬をする時に着用する物だ。やはり彼女は近衛師団の騎兵で間違いない。

 門の前まで行くと、昨日と同じ御者の男がヴェルナーたちを待っていた。しかし、ヴェルナーの尋常じゃない人相と、見なれない女の顔に眉を寄せた。


「すみませんが一人追加でお願いします」

「……ああ、別にかまわんが、しかし……」


 突然増えた乗客に訊きたい事があったようだが、ヴェルナーたちの、なんだかただならぬ雰囲気に、触らぬ神にと思ったか、何も言わず馬車の準備を始めた。


「ああ、そうだった。あの子も一緒に連れて行ってほしいの」


 ふと、アイリは門付近に備え付けてあった馬小屋へと向かった。馬小屋には旅人個人の馬を一時的に泊めておくことが出来る。しばらくすると、真っ白な馬を引きつれたアイリが馬小屋から顔を出した。


「シャロと言うの。この子も一緒に繋いでくれませんか」


 アイリが御者に嘆願すると、御者はその白馬――シャロの背をそっと撫でた。


「こりゃあ、上等な馬だねぇ。毛並みも良いし、馬力もありそうだ。それに大人しい。よし、手綱貸してみな」


 御者はアイリから手綱を受け取ると、自身の馬と同じようにシャロを車に繋いだ。元々二頭で引っ張っていた馬車に新たに白い上等な馬が加わった。


「準備が出来ましたよ。乗ってください」


 声をかけられて、ヴェルナーたちは馬車に乗り込んだ。御者の合図と共に馬が街道を歩きだし、ヴェルナーたちは村を後にした。


       ◆

 一日目に引き続き、穏やかな旅路だった。空は快晴、気候もちょうどよく開けた窓から入り込む風が心地よい。

 だが、一日目とはうってかわって、ヴェルナーの心は全く穏やかではなかった。それもこれも全て向かいに座っている女のせいだ。忌々しげに睨んでいると、目が合った。


「なによ」

「……別に」

「言いたい事があるなら言いなさいよ」

「別に無いって。つーか、いちいち大声出すな。こっちは寝不足で頭痛いんだよ」


 私だって寝不足よ、と口を尖らせて抗議するアイリ。こうしてまた昨晩に引き続き不毛な口喧嘩が始まった。

 それを隣で呆れた顔で見るバズ、我関せずと微笑みを浮かべるカテラ。


「……止めなくていいんですか」

「良いんじゃない?仲良くなったってことで」

「仲良いって言うのか……あれ」


 傍観する二人をよそに、ますます白熱する二人。旅の二日目は随分と騒々しく幕を開けた。

第二章完結。

仲間が一人増えました。

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