映画の感動を「ありっがとうごっざいましたぁぁぁ!!」劇場のお兄さんに全部持ってかれた話
三歳の娘が、ある日こう言った。
「アンパンマンの映画見たい!」
ほう。
上映時間は約一時間。三歳の映画デビューにはちょうどいい長さだろう。
よし、では映画館デビューと洒落込みますか。
映画館へ到着。
チケットを買おうとして、いきなり時代の流れを感じた。
えっ、店員さんに注文しないの?
フードはタッチパネル?
十年前には無かったぞ、こんなシステム。
「映画にはポップコーンだよね」
「ポテトがいいー!」
はいはい、ポテトね、了解。
「ガチャガチャするー!」
……何故アンパンマンではなく、スーパーボールなのだ。
「キラキラきれい!」
はいはい、了解。
上映中の暇つぶしもこれで万全である。
そして、いよいよシアターへ。
ポスターを見る限り、今回の主役はレッサーパンダの少年らしい。
まあ、娘が泣かなければそれでいい。
そう思っていた。
上映開始。
ばいきんまんが取り出したのは、赤ちゃんスプレー。
そのスプレーを浴びたレッサーパンダのおじいちゃんは、みるみる少年の姿へと若返っていく。
……待て。
これはもしや。
ショタジジイでは無いのか!!??
私の目が、カッと見開かれた。
そして蘇る記憶。
十数年前。ショタジジイというジャンルに、どっぷり浸かっていた、あの頃の私。
……帰ってきた。
封印したはずの何かが、帰ってきた。
そこから先は、もう主人公しか見えなかった。
パンタン!
良いぞ、パンタン!
可愛いぞ、パンタン!
頑張れ、パンタン!
少年の姿でジジイ口調とか反則だろう!
過去回想のシーン。
感動のシーン。
ここは物語の山場である。
なのに。
娘「ママー!」
周りのちびっ子達「アンパンマンー!」
ざわざわ。
ガヤガヤ。
静かにするんだ!!
娘よ!
全国のちびっ子達よ!
今はパンタンの見せ場なんだ!!
私は今、アンパンマンではなく、ショタジジイを応援しているんだから!!
上映後。
ああ……。
久しぶりに良いものを観た……。
ありがとう、アンパンマン。
ありがとう、制作陣の皆様。
そして、この企画に誰一人「待て」と言わなかった全ての関係者の皆様。
……分かっています。あなた達の中に、同志が居ることを。
「おもしろかったー!」
どうやら娘も大満足だったようだ。
よかった。
この感動を胸に、お家へ帰ろう。
そういえば、フードの回収場所は入口の外だったな。
回収口へ向かう。
「はい!こちらです!」
スタッフのお兄さんが笑顔で受け取る。
そして次の瞬間。
「ありっがとうごっざいましたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
劇場中に響き渡る、裏声の超全力ボイス。
……。
うん。
お兄さんや。
君は、どうしてそんなに元気なんだい?
さっきまでパンタンに心を持っていかれていた私の感動は、その一声で見事に吹き飛んだ。
最後に一番印象へ残ったのは、アンパンマンでもパンタンでもない。
劇場スタッフのお兄さんだった。
……感動の余韻よ、カムバック。
( ゜д゜)ハッ!
ショタジジイが主人公の創作を書こう!
そうしよう!
いえーい!




