第二十三話、アリゾムの鉱山
領主
「ドルフ王より返書を預かって参りました」
ソロンはバリイ領領主であるイグリットにドルフ王からの返書を手渡した。領主の執務室である。
「ご苦労様です」
イグリットはソロンから返書を受け取り、封を開けその場で見た。
「停戦は無理か」
イグリットは返書を部下に渡した。
「ドルフ王はどのような様子でしたか」
「私は中立な立場なので、彼に聞いた方がよろしいかと」
ソロンはヘセントに目を向けた。
「私ですか。えーと」
ヘセントは、ドルフ王との会談の様子、噴火の話、ドワーフの兵の様子などを述べた。
イグリットはヘセントの報告を黙って聞いた。
イグリットは、ソロンとシャベルトに改めて礼を言い、謝礼金を渡した。ソロンは黙って受け取った。今後ともドワーフとの使者として間に立って欲しいと、ソロンに頼んだ。ソロンは渋々とだが引き受けた。ソロンとヘセントは領主の館の一室にしばらく泊まることになった。
「へセントによると、ドワーフの王は、戦争自体したくなかったそうだ」
イグリットは、重臣数人と、今後の対応を話し合っていた。
「では、誰がやりたがっていたのでしょうか」
「エルフのソロン氏によると、ドワーフの国は四つの部族に分かれているそうで、そのうちのどこかが、戦争をしたがっているそうだ」
「それに引きづられているわけですな」
「内部での権力闘争の結果、戦争へと舵を取らざるを得なかったようだ」
「そのへんは、ドワーフとはいえ人と同じですな」
「こちらの内情も知っているみたいだぞ。人間は、ドワーフを養う余裕はないとな。あと、バリイが困ると、他の領主や国が喜ぶことも理解していた」
「足元を見られていますな。簡単には、和平案に乗ってこなさそうですね」
「そうなる」
「しかし、噴火の件が事実とわかっただけでも、成果があったと言えましょう」
「そうだな、あのエルフ、存外使える。見た目はあれだがな」
かすかな笑い声が起こった。
「さておき、やつらどこに行くつもりなのだ。当然噴火の影響が少ない場所に行くのだろうが」
領主のイグリットが問うた。
「二千のドワーフは南西に行ったあと、西の方角に向かっています」
「西ということはアリゾム山か」
「ええ、そうです」
「山から山へ、移動する気なのか」
イグリットはアリゾム山の情報を思い出そうとしたが、これといって記憶になかった。
「もとは山賊がいた場所ですよ。今は山岳部隊がいるはずです」
「しかし、山なら他にもあるはずだ」
北の方に行けば、バルゴク山脈が広がっている。少し離れているが、東の方にもいくつか山がある。
「なにか理由があるのでしょうか。鉱脈があるとか」
重臣の一人が言った。
「鉱脈か。アリゾム山にそのような話あったか」
「聞いたことはありませんが、ドワーフは山師を放って、鉱山をつねに探しているという話を聞いたことがあります。アリゾム山に鉱脈を見つけていてもおかしくはありません」
「至急アリゾム山について調べてさせろ。それから、アリゾム山の山岳部隊に人をやって警戒させろ。リボルにも情報を伝え、ドワーフを止めるようにいっておけ」
イグリットは指示を出した。
アリゾム山
「おかしな知らせがあった」
アリゾム山山岳部隊隊長のデノタスが言った。アリゾム山の砦の司令室で、主立った者が集まっていた。
「何ですかお頭」
「隊長と呼べ。さっきイグリット様から早馬が来て、ここに、ドワーフの兵二千が向かっている。という書簡を受けとった」
ざわついた。
「ギリム山のドワーフですか」
副隊長のエンペドがいった。
「そうだ。ギリム山のドワーフがここ、アリゾム山に攻めてくるかもしれん」
「まじですか。なんでまたこんなところに」
「ギリム山が噴火するので、ギリム山のドワーフが、移住先に、アリゾム山を選び、こちらに攻めてくるかもしれないと言うことだ」
「しかし、山ならいくらでも、よりによってなんでこっちに」
隊員の一人は嫌そうな顔をしながらいった。
「ここアリゾム山に鉱脈がある可能性があるとか、ギリム山噴火に居場所を失ったドワーフは、鉱脈があるアリゾム山を移住先と考え攻めてくる可能性があるそうだ」
「鉱脈、そんなものがここに、聞いたことがないですね」
隊員たちはお互いの顔を見合わせた。
「俺もないな。鉱物なんて興味を持ったことがないからな。ゴキシンじいさんなら知っているかもしれないな」
「あの、ドワーフのじいさんですか。山菜採りの」
隊員の一人が言った。
「ああ、俺がガキの頃から山にいるからな、あの頃からじいさんだったな。なんかいろいろ詳しいからよ。あのじいさんより、この山に詳しい人間はいないぜ」
「でも、最近見ないですね」
「そういやそうだな。山菜採りでもしてんだろ」
「間者なのでは」
副隊長のエンペドが言った。
「間者、ゴキシンじいさんがか」
「ええ、山菜採りなら、山のあちこちに移動していてもおかしくはないでしょう。しかもドワーフですし」
「おいおい、ドワーフだからと言って、みんな敵とはかぎらんだろう。それにあのじいさん昔からいるぞ。だいたい、この山の何を探ろうって言うんだ」
「鉱脈ですよ」
「ああ」
「ドワーフの寿命はそもそも長いですからね。長い時間をかけて鉱脈のありかを探っていたのかもしれません。もし間者だったら、ゴキシンじいさんより山に詳しい者はいないのでしょうから、アリゾム山のことは、あらかた知られていると言うことになりますね」
「マジか、あっ」
デノタスは眉をひそめた。
「言っちゃいけないような情報をもらしたことがあるなんてことはないでしょうね」
エンペドは横目でデノタスを見た。
「そんなことあるわけないだろ。それは、まぁ、後で調べるとして、ドワーフが来るとして、どうしようか」
「そりゃ、追っ払うしかないでしょう」
「そうだ、そうだ」
と隊員たちは、いった。
「どうやって追い払うんですか。ドワーフは二千人いるんでしょう」
山岳部隊は百五十人程度しかいない。
「山に引き込んで、やれば何とかなるだろう」
デノタスはひげをこすりながら言った。
フエネ平原南
イグリットからの情報を受け、リボルは隊を二つに分けた。西のアリゾム山方面に進むドワーフの兵を遮るような形で三千の兵を布陣した。残りの二千を北に布陣させた。西の兵はリボルが指揮し、北の兵はレマルクが指揮した。西と北でドワーフの兵を挟撃しようとする構えである。
「こちらの意図がばれたのかな」
ドルフはつぶやいた。
「西に布陣していますね。アリゾム山方面ですから、ばれたと考えて差し支えはないのではないですか」
ムコソルは言った。ドルフとムコソルは少し小高い丘の上から人間の兵の動きを見ていた。
「ただ単に進行方向に陣を張っただけかもしれんぞ」
「かもしれませんが、そろそろ、こちらの意図がバレてもおかしくはないでしょう」
「そうだな、まぁ、遅かれ早かればれる話だ」
「そうですね」
「しかし、ずいぶん兵の数が増えたな」
人間の兵を見ながら言った。
「装備がちぐはぐです。傭兵と民兵でしょう。後は新兵と退役軍人をかき集めたというところでしょうか」
「民兵か」
ドルフはいやな顔をした。兵ではなく、徴兵された人間の民なのだ。
「まだ踏ん切りがついていないのですか」
「つかんよ。困ったことにな」
「負けるわけにはいかないんですよ」
「わかっている」
ため息をついた。




