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第二十一話、ドルフとの会談


 領主軍


 リボルは、フエナ平原にザレクスとベネドが率いる歩兵四百、プロフェン率いる騎馬隊五十を置いて、残りの五百の騎馬隊と四百の歩兵を連れ南西にいる二千のドワーフに向かって出発した。ザレクスには無理に攻めるなと命じた。動きのないドワーフより、動きのあるドワーフを警戒することにしたのだ。

 リボル率いる騎馬隊は途中兵を増やしながら、二千のドワーフの元へ向かった。エルフがドワーフの王に親書を渡すという話があるため、その結果が出るまでは二千のドワーフと戦うわけにはいかず、動きは遅かった。

「使者は何度か送っているはずだが、そもそもなぜエルフなのだ」

「ドワーフの王と知り合いだそうです」

 リボルとレマルクは馬で併走していた。

「あまり期待はできないが、軍を立て直す時間ができたのはありがたい」

「そうですね」

 だが、その分相手にも時間を与えていることになる。

「噴火の話はどうなのだろうな」

「ギリム山ですね。確かな情報ではないですが、それを確かめるためにも、王の知り合いのエルフの使者を送っているのでしょう」

 リボルの耳にも、その話は届いていた。

「イグリット様は他にもいろいろ動いてらっしゃられるようだな」

「援軍の話ですな」

 戦場にいても様々な情報は入ってくる。リボルは、領主であるイグリットにあまり信頼されていないことに薄々気づいていた。

「ああ、国軍や他の領主の手を借りるのは気に入らん」

「ええ、私も好ましいとは思っておりませんが、致し方ないのではないでしょうか」

「まだ負けたわけではない」

 リボルは各地に使者を出し、兵を集めていた。

「しかし、頭数を集めただけでは厳しいかと」

 レマルクは顔をしかめた。兵の数だけならすでに四千を超えている。まともな兵がいるものの、税の代わりに槍を渡された民兵や、年を取った退役軍人もいた。フエナ平原で使用した金属の板を張り付けた大盾を、急遽作らせているが、まだ時間がかかる。その他の武具も十分にそろってはいない。兵糧はまだ余裕があるものの長期化すればどうなるかわからない。

「敵を引きつけてくれるだけでもいい。何かの役には立つだろう」

「だといいですが」

 数は重要だ。人数が多ければ敵はひるむ、取り囲んでしまえば、まず負けない。だが、相手はドワーフだ。人数が多いからとひるむだろうか。囲まれたからと負けを認め武器を捨てるだろうか。そうは思えない。敵の人数が多ければ、たくさん斬り殺そうとする。囲まれたなら斧を振り回して切り抜ける。攻めるときは兜を前にじりじりと進む。足が遅い分、ドワーフには後に逃げるという発想がない。おそらく、そういう連中だ。圧倒的な数の差があれば別だが、中途半端な雑兵が集まれば死者が増えるだけだ。どのような犠牲を払ってでも勝てばいいという戦ではない。領民が減ればそれだけ領地が荒れることになる。ドワーフに勝ったところで得るものは、おそらく少ないだろう。

 だからといって、数を増やす以外に何かいい方法があるのかといわれれば、レマルクは何も思い浮かばなかった。



(兵隊になるとはいったけど)

 元漁師のプレドはリボルの軍に加わっていた。

 こんなにすぐに戦争に連れて行かれるとはプレドは思っていなかった。周りを見渡すと、新兵や老兵が多かった。


 いつものように町の入り口で立っていると、上役に呼ばれ、そのままドワーフと戦う軍に編入された。町の警備とかだったんじゃあ、といってみたが、配置転換だといわれ、家族と話す時間も無いまま、列に加わっている。

「おう、あんちゃん、景気の悪そうな顔してんな。戦争は初めてかい」

「ええ、軍に入ったのもついこないだです」

「そいつはついてないな! だが安心しな、恐いことなんて何もねぇ、十二の頃から戦に出ること、三十数回、わしが、ゴプリ様が戦のやり方ってのを教えてやるぜ」

「いや、べつに」

「いいか、槍ってのは、こうじっくり狙ってだな、軽く押し込む感じでいいんだ。まかり間違っても、突いちゃいけねぇ。体重かけて押すんだ。突くと腰が残っていけねぇ。な、わかるか」

 ゴプリは槍を手によたよたと倒れるような突きを見せた。

「なぁ!」

(漁師やってた方がよかったな)

 プレドは後悔した。




 エルフの使者


「おかしなところで出てくるものだな」

 ドルフはひげをなでた。野営中に領主の使者が来たと報告を受けた。使者の名と種族を聞いて耳を疑った。

「ソロン様とは、まったく、これは予想外ですな」

 そう言いながらムコソルは少し愉快そうな顔をした。

「うむ、世話好きな奴だと思っていたが、まさか、人間の使者になるとは」

「お顔の印象とは違い、お優しい方ですから」

「イグリットめ、おかしな駒をもってきたな」

「どうなさりますか」

「どうしたものか」

「お会いになるのですか」

「古き友が訪ねてきたのだ。草場の腹巻き、会わねばなるまい」

 草場の腹巻き、とは、古い友人が訪ねてきたら、はらわたが飛び出ていても会えにいけという、ドワーフのことわざである。

「あまりしゃべりすぎないようにしてくださいよ」

 ムコソルは釘を刺した。

「わかっておるわ」

「ソロン様は、どちらの味方なのでしょうね」

「会えばわかるだろ」




 ソロンは、広めのテントに案内されていた。簡易なテーブルがあり、折りたたみ式の椅子に、ソロン、ヘセントは座っていた。テーブルの上にはエールと塩見の強いチーズが置かれている。テントの入り口にはドワーフが二名立っており、時々こちらの様子を眺めていた。

「生きた心地がしませんね」

 ヘセントはいった。

「戦争中だからな、皆殺気立っている」

 ソロンは答えた。

「本当に、友達なんですよね。ドワーフの王と」

「そうだ。向こうが忘れていなければな」

「何年ぶりにお会いになるのですか」

 ヘセントがいった。

「三十年か四十年か、そんなものかな」

「そうですか」

 友人にしては、ずいぶん長くあっていないような気がするが、人の尺度とエルフの尺度では違うのかもしれない。ヘセントはそう思った。


「おう、待たせたな」

 ドルフとムコソルがテントの中に入ってきた。ドルフはミスリルの鎖帷子に身を包み、赤いマントを羽織っている。ムコソルはゆったりとしたローブを着ていた。

 ソロンとヘセントは立ち上がり、挨拶と簡単な自己紹介をした。

「座ってくれ、わしはドワーフの王ドルフ、この男は、ムコソル、わしの側近だ」

「おひさしぶりです、ソロン様」

「ああ、ひさしぶりだなムコソル」

「さて、見ての通り、ちと立て込んでおるのだが、今日はどうしたんだ」

「まずは頼まれごとから済ませよう。領主から親書を預かってきた」

 ソロンは親書を渡した。

 ドルフは親書を開け、じっくりと目を通し、ムコソルに渡した。

「返事は後で書こう」

「それで、噴火なのか」

 ソロンは問うた。

「そうだ。噴火だ」

 ドルフは目を背け答えた。

「やはりそうか」

「ああ、そういうことだ。悪かったな、せっかく忠告してくれていたのに、忘れていたわけではないが、いろいろあってな」

 ぎこちなく笑った。

「おかげで面倒なことに巻き込まれた」

「それはわしの所為ではないぞ。なんでおまえさんが領主の使者になっておるのだ」

「たいした話ではない。この者が訪ねてきてな、あとは成り行きだな」

 ソロンはおよそのいきさつを話した。

「なるほど、見事に巻き込まれたな」

 ドルフは愉快そうに笑った。ともに旅をしていたときも、そういうことがあったことを思い出していた。

「だからまぁ、私は別に領主の側に立っているというわけでもないのだよ」

「そいつはいい話だ」

「で、どうする気だ」

「続けるよ」

「和平交渉に応じる気は無いのか」

「考えておくよ」

 親書をちらりと見た。

「どこまでやる気なんだ」

「どこまでと言われてもな、ほどよいところで、かな」

 ドルフは言葉を選びながら慎重に答えた。

「ほどよいところとは、どういうことなのですか」

 ヘセントがむっとした顔で言った。

「ほどよいというと、ほどよいだ。どこでやめるかは、わしが決める」

「戦争なんですよ。そんないい加減なことを言わないでください」

「小僧、戦いをどこでやめるかなど言えるわけがないだろう。言った時点で不利になるだろうが」

 少々あきれた顔をした。

「そもそも、戦う必要性がどこにあるというのです。災害なのです。助けを求めればいいではないですか」

「人間にそんな余裕があると思うか。去年の冬には何人も飢え死にを出しておるではないか。ギリム山が噴火すれば、各地に被害が出る。気候の変動もでる。二万の大食らいのドワーフを養える余裕はあるまい」

「バリイ領だけでは難しいかもしれませんが、国に頼ればいいではないですか。他の領主もいます」

「国が金を出したがると思うか。領主の権力が強いこの国では、領主の弱体化は必ずしも国にとって不利益ではない。他の領主も似たようなものだ。領地内で起こった問題は基本領地内で解決する習わしだ。わしらの所為で、バリイ領が疲弊すれば、それだけ己の領地を増やす機会が増えると、他の領主は考える。バリイ領の経営が立ちゆかなくなれば、国や他の領主が踏み込んできて、領地をむしり取ることになる」

「確かに困難な道だと思います。ですが、戦争となれば、人もドワーフも共に死に、領地も荒れます。そうなれば将来的に両方困ることになるのではないでしょうか。この国がだめなら、最悪、他の国に移住するという方法もあります。人とドワーフ、共に生きる道を話し合うべきなのではないでしょうか」

「無理だ」

「なぜですか。あなたが決断すればいいだけのことでしょう」

「ドワーフの王にそれだけの力はないのだよ」

 ソロンが言った。

「言いにくいことをいってくれるわ」

 ドルフは顔をしかめた。

「ギリム山のドワーフは四つの部族で構成されている。四つの部族はそれぞれ緩やかな塊で存在しており、はっきりと自分がどの部族に属しているのか答えられない者も多い。だが部族長達はそれぞれしっかりとした血縁意識を持っている。ドルフはギリムドムの部族長を兼任しているから、残り三つの部族長の調整役が王の役割だ。三つの部族のうちどれかが、あるいはすべてが、話し合いではなく、人間を攻めると言えば、それを止めることは難しい」

「けっ、人の家をのぞき見しやがって、いやな野郎だな」

「では、あなたはこの戦争に反対なのですね」

「そうともいえん」

「どういうことです」

「こうやって参加してるんだから反対とはいえんだろ。やりたくはないが、やらなくてはいけないからやるんだよ」

「なんとかできないのでしょうか」

「できん。何ともならんから戦争になっとる」

「説得を」

「王が説得できなかったから、戦争になっているんだろう。ドルフには力がないんだ」

 ソロンは言った。

「言いにくいことをいいやがる」

 ドルフは舌打ちした。


 それから一時間ほど話をしたが平行線に終わった。



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