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~ベルローズ編①~





「わたくし、『悪役令嬢』になりたいですわっ!!!」




幼い頃、わたくしが顔を輝かせてそう言うと、お母様は何故か微妙な表情で遠くを見つめていた。きっと、愛娘の高すぎる理想に母として心配になったのだろう。



わたくしのお母様は特別な人間だった。この世界とは違う世界で生まれて死んだ記憶があるのだ。わたくしだけにお母様はその『特別な物語』を聞かせてくれた。


その世界では、『ヒロイン』と呼ばれる女主人公が、様々な試練を乗り越えて幸せになる物語がいくつもあり、様々な困難を乗り越え『ヒーロー』または『攻略対象』と呼ばれる殿方と結ばれるのが王道らしい。


その物語の中で最も惹きつけられたのは、『ヒロイン』が幸せになる影で大活躍する『悪役令嬢』の存在だ。


『悪役令嬢』は、高貴な身分の令嬢で、だいたいは『ヒロイン』が好意を寄せる殿方の婚約者である。道ならぬ恋の道を行く『ヒロイン』と『ヒーロー』の壁となり立ちはだかるのが『悪役令嬢』なのだ。


『悪役令嬢』は物語の最後には『破滅』してしまうことが鉄板なのだけれども、気高く、最期まで自分の信念を曲げない姿に心打たれた。『ヒロイン』を虐めるにも手を抜かず、婚約者に婚約破棄されようが、破滅の道を辿ろうが、華々しく散る。素晴らしすぎませんこと!?



わたくしの中で、情熱の火が灯るのを感じた。



「ベ、ベルローズ……?あなた、『悪役令嬢』は破滅してしまうのよ?考え直したら……」


「わたくし、美しく、華々しく、堂々と散りますわっ!!!お母様!!!もう決めましたの!!!」



こうして、わたくしの華々しい人生の一歩が始まったのであった。




◆◆◆



『悪役令嬢』は王族の婚約者にならなければいけませんわね!!そして、婚約破棄されるのですわ!!!


幸運なことに、わたくしの家は公爵家であり、王族の婚約者候補に挙がっていた。


わたくしは憧れの、完璧で非の打ち所のない『悪役令嬢』になるために必死に淑女教育を受け、日々勉学に励み教養を十分に身につけた。社交にも精を出し、人脈作りも順調だった。


なんせ、『悪役令嬢』には『取り巻き』も必要ですから!!


努力の甲斐があって、わたくしはオーディン第二王子殿下の婚約者に選ばれた。まあ、当然ですわねっ!!!



「ほーほほほほほほほ!!!!順調ですわぁ!!!」


「ベルローズ、あなた、その高笑いはおやめなさい!そのドリルみたいな縦ロールと厚化粧もっ!!ああ、元は可愛らしいのに……」



お母様に止められようが、もうわたくしの『悪役令嬢』への道は順調に開かれていた。



婚約者になったオーディン殿下は、流されやすい性格だけれども、『ヒーロー』としてはまあまあな美男子だった。色々な女性に声をかけては、愛を振りまいている。その調子で『ヒロイン』を見つけ出すのよ!!と、心から応援していましたの。



「愚弟がすまないね、君という婚約者が居るのに……」


「いいえ!レオンハルト殿下。すべて順調ですわ!!」


「……そう」



オーディン殿下の兄君、王太子であるレオンハルト殿下はわたくしを気にかけてくれる。

幼い頃は、オーディン殿下と、レオンハルト殿下と年が近いこともあり交流があった。


『わたくし、『悪役令嬢』になりたいんですの!!』


と宣言したわたくしを、レオンハルト殿下だけは笑わなかった。


『『悪役令嬢』について、詳しく教えてくれる?』


なんて、興味津々にお聞きになって、応援してくださった。オーディン殿下との婚約が決まった時にも、祝福してくれた優しいレオンハルト殿下の為にも、わたくしは立派な『悪役令嬢』にならなければ!!



闘志を燃やしていると、オーディン殿下が男爵令嬢と親密な仲になっていると『取り巻き』のご令嬢たちから報告が入る。


きましたわっ!!!!


『ヒロイン』の登場ですわねっ!!!!



待ちに待った『ヒロイン』の登場に心が踊った。お母様の『物語』どおり、ピンクブロンドの可愛らしい『ヒロイン』にわたくしは狂喜乱舞だった。


それからは、気高く、持てる力を使い、『ヒロイン』を虐め抜きましたのよ!!!



マナーが悪いと、大勢の前で指摘した上に、わたくしの淑女らしさを見せつけ、男爵家へマナーの教師を派遣したりと屈辱を味合わせてさしあげましたわ。



ダンスが下手だと罵倒し、みすぼらしいドレスを嘲笑いましたの。財力を見せつけるために公爵家御用達の服飾店のドレスを送りつけたりしましたわ!!



階段からも、勿論突き落としましたの。まあ、三段くらいしかなく、水で濡れて滑り易そうな階段でしたが、あの娘の恐怖に引き攣った顔と言ったら……!!



他にも色々と意地悪をしましたわ。その結果、わたくしは『悪役令嬢』として名を馳せ、オーディン殿下から「君は何がしたいんだ!?」と、お叱りも受けました。これぞ、『愛しいヒロイン』を庇う『ヒーロー』の行動そのもの。



お二人は順調に愛を深め──



わたくしは運命の『断罪』の日を迎えましたの──。



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