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9 魔獣と魔神


ガローの話はまだ先があった。


曰く、魔獣とは魔法を使うことのできる獣らしい。僕の持っている知識と合わせると、おそらく獣の中で魔臓や魔力菅を持っているもののことを魔獣というのだと思った。確かにガローのほかにも魔臓を持っている人たちはいると思ったが、それが人の形をしているとは限らない。


この森には特に多く魔獣が住んでいるらしく、そのせいで森の中の僕たちの家に踏み込んでくる人はなかなかいないらしい。


今回のルートもガローが事前準備で、獣が出ないような道を選んで、必要なら間引いて僕たちが通れるようにしてくれたと言っていた。それを踏まえると僕らを連れて森を抜けられるガローはとても強いのかもしれない。今日は本当に運が悪かったのだろう。


「そういえば、あの子が言っていたロアンってなに?」ニナが尋ねる。


あの子というのは森の主のことだろう。僕もそれは気になっていた。ただガローがその名を知っているとは思っていなかった。


ロアンという、名は僕も知っている。おそらく僕がこの世界に来るきっかけとなった本の作者である。前書きの最後に、ロアンと日本語で書いてあったからだ。


さらに、前書きの後には『ロアンと勇者に捧ぐ』とも書かれていた。字が違ったのでそれは違う人が後から書き込んだのかもしれない、と僕は考えていた。


しかし、とにかくロアンについて知ることができれば僕に何が起こったか、この本が何なのかがわかるかもしれない。





ガローはしばらく黙っていたが、少し難しい顔をしながら答えた。




「魔神じゃ」




僕は予想もしていなかった答えに驚く。



ガローは続ける。


「魔神とは、すなわち魔法を作った神じゃ。ロアンとは、はるか昔、魔法を作った神の名じゃよ。ロアンがわしら生き物に魔法を授けてくれたと言われている。」


その後ガローはロアンの神話について話してくれた。


神話の中でロアンは魔神の名に恥じぬ強さと、意外にも優しさを持つ神のようだったが最後は仲間を助けるために死んでしまった。


結局ロアンが魔神だとわかったところで、実感はわかず、わからないことだらけであった。


ニアは途中で飽きてしまったのか最後の方は、ふーん、と聞き流していた。



ガローはそれを話したきり、また何か考え込んでしまった。


ニナがずいぶん森の中を歩いたせいで疲れていたようですぐ寝てしまった。その日は心なしかいつもより静かな夜を過ごした。





その夜夢を見た。


どこかで見たような草原の中で、15歳くらいのまだあどけなさが残る、黒く長い髪の女の子が、小さな子熊を抱いている。


「あなた、もふもふで気持ちがいいわね。」


二人は気持ちよさそうに風に吹かれている。


「あのね、今日も、また、友達がいなくなっちゃったわ。」


そういうと女の子は悲しい顔をした。


子熊は女の子の方を見た。


「あなたはいつも私を慰めてくれるのね!」


女の子は子熊をぎゅっと抱きしめる。


「私は泣かないわよ。私は私のできることをやるって決めたもの。頑張らなきゃ!」


女の子は流れかけた涙をぬぐい、立ち上がる。


「そういえばあなたは私を怖がらないわね、どうしてなの?」



子熊からの返答はない。


「あなたはきっと強くて、優しいのね。」


「私、優しいのは大好きよ。私も優しくなれる気がするもの。」


そう言って、子熊をまた抱きしめる。


「私は、強く優しくなりたいの、これまで苦しんできたみんなのために。


だから、あなたを見習って、めげずに、諦めずに頑張らなきゃね。」



それにしても、あなた本当にふわふわね、と彼女は笑う。



なぜかとても温かく懐かしい感じがする夢だった。





夜中、ふと目が覚めた。

何か夢を見ていた気がする。


すると枕元に置いていた、本が淡く光っている気がした。


本を開いてももうすでに光ってはいなくて、暗くて読めなかった。


僕はそのまま再び眠りについた。


次の日、本を見てみても特に変わったことはなかった。



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