表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/69

44 道標


その夜、ニナは僕の部屋に帰っては来なかった。夜にゴエさんが自分たちの部屋にニナが泊るそうだと伝えに来てくれた。



僕は一晩中考えたけれど答えは出ない。


人を殺すことがこの世界では必要なことはわかっている。


でもそれが、ガローに誓った『みんなを救う』に反している気がして、どうしても決心できずにいた。



僕は寝不足の目を擦りながら、ゴエさんたちの部屋に向かう。とりあえず、ニナに謝ろう。僕の浅慮ゆえに彼女に心配をかけてしまって招いたケンカだ。


コンコンとドアをノックする。


「ジークです。」


僕がそう言うと部屋から「どうぞ~」というショニーさんの声が返ってくる。


ガチャと扉を開け、中に入ると、そこにはショニーさんが一人でベッドに寝ていた。


「あれ、ショニーさん、ゴエさんは?」



「ゴエとニナちゃんはね、朝から剣術の練習をするって言って出ていっちゃって、私は見捨てられてしまったよ、トホホ」


ショニーさんは少し困った顔で笑う。


「それより、ジーク君、ひどいクマだよ。大丈夫かい。顔も真っ青だ。


……ニナちゃんと、ケンカしたみたいだね。」



そう言って、僕を彼の近くに来るようにと、手招きをする。



「ジーク君はどうしてあの時、ニナちゃんからあの盗賊を助けたのかい?」


彼は僕に向かってそう尋ねた。


僕は慌てて謝る。ショニーさんからしたら自分を殺そうとした相手を僕が救おうとしたのだ。


すると、ショニーさんは首を振って、「違うよ」と言った。


「ごめん言い方が悪かったね。僕はあのことは何にも怒っていないよ。ただ、君が何を考えて、行動し、今何に葛藤しているかを教えてほしいんだ。


もしかしたら、私も力になれるかもしれないからね。」


僕はたどたどしいながらも自分の考えを伝える。


「僕は、育ててもらった人に、誓ったんです。僕がその人に救ってもらったようにみんなを救えるような人になるって。それで、あそこで彼が死ぬのを、許容してしまえば、何か自分の中でその誓いが揺らぐ気がしたんです。」


ショニーさんは、僕の言葉を聞いて、少し考えてから口を開く。


「ジーク君の考えはわかった。とても勇敢でそれでいて困難な信念を持ったものだね。」


ゴエの狂っているってのは言い過ぎだけどね、小声で呟き、僕の方を見る。


「ジーク君、確かに信念ってのは、とても大切なものだ。その人の道筋を決める方位磁石のようなものだからね。


けど、少し商人らしく現金なことを言わせてもらうとね、その信念と言うのは命あってのものだ。自分の命を失うことに比べたら信念を曲げることなんてくそくらえだ、と僕は思っている。そしてジーク君の信念は文字通り命懸けであるという点でとても難しいものに違いない。


ただ、ならばその信念を刷新しなければと、焦ってはいけないよ。それは大切に持っているべきだ。


そういう自分の芯っていうのは、人生の中で沢山の経験をして、色々なものに擦られ削られ、やっとその形が分かってくるものさ。それが例え、始め抱いたものと全く違う形をしていても、それはそれでいいんだ。


しっかりと自分と周りの命を大切に、信念を時には削り、また新たに継ぎ足したりして、焦らず丁寧に形作っていくことを私はおススメするよ」


ちょっと、卑怯でずるいからかっこ悪く見えるけどね、とショニーさんは無邪気に笑う。


僕は何か重くのしかかっていたものが軽くなるような気がした。そのせいだろうか、つい、今まで漏らしたことのなかった辛さが口から衝いて出てきてしまう。


「実は、僕はこの先、その道を進んでいけるか、自信がなかったんです。」


今回のことで僕は信念を貫き通す自信を失いそうになっていた。


すると、ショニーさんは僕を見ていう。それはまるで我が子を窘めるような目だった。


「ジーク君、誤解してはいけないよ。それは命に比べたらだ。けれど、ジーク君のそれは弱音だ。それは本当にいけない。いいかい、よく聞くんだよ。ジーク君はとても優しいからね。」



ショニーさんは「イテテ」、と言ってベッドから上半身を上げる。


「ショニーさん起き上がったら傷が!」僕は心配になってショニーさんに近寄る。


僕の支えを断ると、ショニーさんは僕の両肩に手をのせて、言った。


「ジーク君。


優しいだけじゃだめだ。強くなりなさい。人は歩き方を知れば、どこにだって行ける。」


その言葉の風は僕の心の焔を強く燃え光らせてくれた気がした。


僕は昔から嫌われないように、避けられないように優しくあろうとしてきた。そして、この世界に来ても、それは変わらず、その心が僕の今の意志を支えてくれていることは確かだ。


だけど、優しくあるだけでは、何事も解決しなかった。今回の件はもちろん、ガローのこともそうだ。


強くなること、それは僕がなれるともなろうとも思ったことがないものだった。


「……はい。」


僕はその言葉を噛みしめる。強く優しく、そうありたいと思った。


ショニーさんは優しく微笑むと、僕に言う。


「ニナちゃんたちはきっと町の高台にいるよ。あそこはゴエのお気に入りだ。君の心はもう決まっただろう。」


僕は頷く。


ショニーさんにお礼を言って、僕は宿からその高台にに向かって走った。


町の高台にはニナとゴエさんが剣の練習をしていた。ゴエさんが僕に気が付いたのか、ニナに何か話すと、こちらに歩いてくる。


僕とすれ違いざまにウインクをする。


そのまま、ゴエさんは宿の方に戻って行ってしまった。


僕は勇気を出して、沈黙を破る。


「ねえ、ニナ。」


ニナは、剣を手に持ったまま、こちらを見る。


「僕は、みんなが戦わず、笑って過ごせる世界を作りたいんだ。だけど、そのための犠牲もなるべく生みたくない。敵も味方も含めて。」


ニナは黙ってそれを聞いていたが、瞬間地面を蹴って僕に剣を振る。


僕は丸腰で、咄嗟に魔法を使おうと思ったが、ニナに怪我を負わせてしまったらと考えていたら反応が遅れてしまう。


そしてあろうことか、避けようとしてバランスを崩し尻餅をついてしまう。


ニナの剣が僕の頭上からブンと音を立てて振られた。


しかし、次目を開けた時、僕は剣に貫かれることはなかった。切っ先は目の前で止まっていた。


「甘いわ。甘すぎるわ。今のままじゃ絶対無理。」


そう言って、ニナは剣を鞘に納める。


そして、僕に背を向けて、その先の、高台の中で、町が一望できる崖の方に歩いていく。


僕は情けなくも、それでも立ち上がり、ニナを追いかけていく。


ふと、ニナが立ち止まり、振り返った。



「けど、信じてあげる。」彼女は僕を見てそう言った。


そう言ったあと、前を向き朝日が照らす町を眺める。


彼女は風でなびく、髪を手で押さえる。彼女は神々しく昇りゆく太陽に照らされていた。


「きっと、ジークならできるよ。」


そう言って太陽よりもずっと眩しく笑った。


新たな一日を告げる朝日が強く僕らを照らしていた。





それから二週間ほど、ショニーさんが回復するのを待つために僕たちは町に滞在した。その間、ゴエさんに旅をするうえで知っておくべきことを教わったり、ショニーさんがいかに商人に向いていないかを延々と愚痴られたりして充実した日々を送っていた。


二週間後、ショニーさんの出発しましょうの号令で僕たちはその街を旅立った。



御者はゴエさんがやってくれるそうで、ショニーさんは僕らと荷台に乗っていた。


「ショニーさん、傷はどうですか。」


「幾分かよくなりましたよ。ジーク君のおかげですね。」


僕は首を振り「そもそもは僕たちのせいなんです。本当にごめんなさい。」そう謝ると、彼は僕の頭を撫でる。


「いつか、この借りは返してくださいね。私は商人ですから、これは先行投資です。」


そう微笑みながら言う。


心地よい草原の風が僕の頬を撫でた。



三日ほど馬車を進めると、あっという間にマコマイの港町についた。


そこは今まで見た町とは違って、海を中心に発展しているようで、港にはたくさんの船が停まっていた。


「す、すご~い!」ニナが目をキラキラさせながら僕たちが乗る船を見る。

その船は、前世で見たような海賊船のような木製の船で、僕沈まないか不安だった。


「ここまで送っていただいた上に、船の手続きまでしていただき、本当にありがとうございます。」


僕がショニーさんとゴエさんに頭を下げる。


そうして彼らに別れを告げて、僕とニナとポロは船に乗り込んだ。


船は僕らが乗り込んですぐに出港した。それは本当に呆気ないものでとても寂しい気持ちになる。


「ありがとう~、また会いましょう~!」ニナがショニーさんたちに手を振る。彼らも僕らが見えなくなるまで手を振っていた。


なんだか最後の方はショニーさんの声はガラガラで、顔は良く見えなかったけれど、いつものショニーさんの泣き顔が思い浮かんで、少し笑ってしまった。


彼らが見えなくなると、ニナはすとんと僕の隣に座る。


「いい人たちだったね。」


僕は頷く。本当にかけがえのない出会いだった。


「また会えるよね」僕は、力強く頷いた。


僕はショニーさんに大きな借りを返さなければならない。


そうよね、とニナは言って、頬を緩める。


そして、とても素敵な出会いだったわ、そう呟いた。


海風が潮の香りを運んでくる。

僕にはそれが興奮と不安の入り混じった冒険の香りのような気がして、身震いをした。





「行っちまったなあ」


私が久々に感じる寂しさを噛みしめていると、


「うぅ、大丈夫だよ、あの子たちなら」とショニーが泣きながら言う。


「そうだな、あいつらがでっかくなって返ってくる前に、私らもあいつらに自慢できるような商会を作って、驚かせてやろうぜ!」


そう私が言うと、ショニーはきょとんとした顔で私を見る。


そして「ぼ、僕はそこそこでいいかな~」などとほざくので、頭をぽかっと殴る。


いでっ、と情けない声を出して、横の商人もどきはうずくまる。


私たちはその日、彼らが旅立っていった水平線をいつまでも見つめていた。


よろしければブックマーク・評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ