4 白銀での探検
よくわからない地にきて1年が経つとすっかりこの生活にも慣れてきた。
ここ四季はあり、そしてそれはだいたい日本と同じようなものだった。ただ冬は雪がたくさん積もる。
だが、なんといっても言語の面でかなり成長した。
ニナやガローをつぶさに観察しかなり頑張った。ニナもたくさん話してくれたから練習教材には困らなかった。
今では大体ニナやガローが何を言っているか理解できるし、たどたどしい言葉ながら話せるようになってきた。
冬空のもと手袋をつけていてもかじかむ手で最後の薪を割る。
「ニナ、薪割り、終わった」
「はーい、じゃあ休憩しよう!!」
横でポロと遊んでいたニナがわーいと言って家に帰っていく。
途中で雪に足を取られ、コケる。ポロがニナをくわえて起こす。
はいここまで、テンプレ、テストに出ます。
ニナやガローからはジークと呼ばれている。彼らは外人だからと思って工藤仁という名前を仁・工藤と名乗ってみたら、いつの間にかジークになっていた。
それとガローは名前ではなかったらしい。彼らの言語でガローは日本語で言う「おじいちゃん」あたるらしく、本名は別にあるらしい。けどニナもガローと呼んでいるので僕もガローと呼ぶことにした。
一年で僕もニナも少し大きくなった。
まだ背はニナの方が大きいが、僕はかつて縮む前は身長が大きい方だったから、あと数年もしたら僕の方が大きくなるだろうと思う。
さて、かれこれ一年ここの生活に溶け込んで暮らしている中で、以前の日本での生活を思い出さないでもない。
けど、日本では、恋人も仲のいい友達もいなかったし、両親は物心ついた時にはいなかった。社会人になった後もそれは変わらず仕事と家の往復をするだけの生活だった。
それに比べると、なんだか自分が過ごせなかった家族との生活を今暮らせているようで、幸せだった。今となっては僕をここに連れてきてくれた本に感謝しかない。
ニナの作った、酸っぱい木の実を干したものを食べていると、
「ねぇ、ジーク、ちょっと森の方に行ってみない??」
とニナが悪い顔をしながら提案してきた。
まただ。
ニナは少しガローがいない隙を見ては森に行こうと誘ってくる。
ガロー曰く、森は危険なので、子供だけで近づくなと言われているのだ。
それでもニナは大の冒険好きらしく、隙があれば森に行こうとする。
「ね、いいでしょ。ポロも来るのよ。」
真っ白い犬のポロはくぅーん、と困ったように鳴いてこちらを見る。うんうん、そうだよな、まったく困るよな、このじゃじゃ馬は。
きっと僕を誘わないと僕がガローに言いつけてしまうと思っているから僕を誘っているのだ。
にやにやしながらこっちを見るニナに対して、
「だめ、ガロー、怒る」
僕はそう言って止めようとする。
「大丈夫よ、バレなければいいのよ。どうってことないわ。ガローが帰ってくる前にさっと行ってさっと帰ってくるだけ。ほら、ジークはこれ着て!!」
そう言って僕用の毛皮の上着とかんじきのようなものを僕に渡してくる。
こうなったらもうだめだ。彼女をこの場の誰も止められない。
それに、ほんのちょっとだけ、彼女とポロと行く冒険を僕も気に入ってしまっている。冬は足跡も残るし、今日は晴れているから雪原で迷うことはないだろう。森に入る直前でニナを引き留めれば大丈夫か、と上着を着る。
僕はしぶしぶといった態度を出しながら、内心はワクワクして、ポロとともにニナについていくのであった。
あたりは白銀の雪景色で、青い空とのコントラストが美しい。ゆっくりと雲が流れてゆく。
白い息を吐きながら、二人と一匹は雪原を進んでゆく。あたりはしんとしていて、僕らの息遣いと
ぎゅっぎゅっと雪を踏む音だけが聞こえる。
ふと横のニナを見ると、目が合う。たのしーね、と笑う姿が僕にはとても眩しかった。
結局森にたどり着くには全然時間が足りず、日も落ちかけたころにガローの帰る時間だとニナを脅して、ふくれる彼女引きずって帰ってきた。
ガローが帰ってきたのは僕たちが冒険から帰ってきてからしばらく経った後だった。
彼はいつものように食材をもって来て、すぐに晩御飯を作り始める。するとニナと僕もガローのところに行って料理の手伝いをする。
この家に来てしばらくは状況もわからず、食っちゃ寝生活をしていたが、だんだん慣れてくるとニート生活に耐えられなくなり、ガローにいろんなお手伝いを申し出るようになった。
それを見たニナも何を思ったのかお手伝いをすると言い始め、今では料理をはじめ、家のことを三人で協力してやることにしていた。
ニナが少しむくれながらこっちを見ている。
やっぱり全然バレてないから、ちょっと森の方に行っても大丈夫だったのに、と訴えてくるような顔だ。僕の想像だけど。僕はちょっと困った顔をしてニナを見る。
いえいえ絶対にばれますよお嬢さん。
そんな攻防を繰り広げていると、ガローが僕に話しかけてきた。
「ジーク、今日は薪割りありがとのぅ。ニナは良い子にしていたかい。」
すると横から、
「もちろん!私は家でポロと遊んでいたわ!」
すかさず嘘のアピール。素晴らしい。2点。
ガローは驚いたようにニナを見て、そうか、と微笑みながら頭を撫でた後、僕の耳元で「ジーク、すまないね。」とつぶやいた。
僕はそれにうなずく。ガローは微笑みながら大切そうに僕の頭を撫でた。
いくら見た目は子供でも、撫でられるなんて気恥ずかしい気もした。けれど、ガローに褒めてもらえるのは何だか嬉しくて自然と頬が緩みニマニマしてしまった。
「♪~」
ニナはガローに撫でてもらったからか、さっきの不機嫌とはうって変わって、僕の知らない歌を口ずさんでいた。
魔法の方は残念ながらまだ習得できていない。
ガローが出しているのを真似してみるも火は出なかったのだ。まあ当然だ。
しかし、体が縮んでいるしもしかしたら体が改変されているのかもしれないというわずかな希望で魔法の練習はしていた。
ただ以前ガローの前で手から火を出しているのを真似してみせたらガローに叱られた。その時は何を言っているかわからず、どうしてガローが怒ったのかわからなかったが、それ以降ガローの前で魔法の練習をしている素ぶりは見せないようにした。
言葉がある程度わかるようになってきてからガローにその時のことを尋ねると、曰く
「魔法は使うな」とのことだった。
その時はすこし、残念に思って、僕はちょっとだけむっとしながらどうしてと彼に聞いた。
「ジークは使えん。それに、魔法はダメじゃ」
返ってきたのは、答えにもなってないような返事だった。
納得もいかなかったが、どうせ出ないなら練習してもいいだろう、と反抗心が芽生えて、自分の中で隠れて練習をしている。反抗期万歳。
ニナにそのことを話すと、ニナも小さいころから魔法は練習しないように言われているらしく、「私も使えないって言われたわ」とのことだった。
ガローから隠れてちょっと練習していたときもあったんだけどね、やっぱり使えなかったの、と笑っていた。
魔法を使うという希望はかなり薄いものとなっていたが、そのことはさして僕の中で大きな問題ではなかった。
そんな楽しい平凡な日々は驚くほどするほどすぐに過ぎてゆき、次第に雪が解け、この世界に来て二度目の春がやってきた。




