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2 詐欺本詐欺


最初のページには前書きと『ロアンと勇者に捧ぐ。』と書いてあるだけだった。



このページを読むのは二回目だ。


初めて見たのは、突然雪原に放り出される直前のことだった。






その日はいつものように仕事が終わり家に帰ってきたあと、暇つぶしにショッピングサイトで買うでもないものを物色していた。


そしてたまたま見つけた初めて見るサイトで何かないか探していると突然文字化けした商品のポップアップが出てきた。


『あなたへのおすすめ:$‘&@&%&』


画像は本のようだった。

表紙には見たことのない文字。


価格はも文字化けしていてよくわからない。明らかに怪しい。


と思いつつも、どうしても好奇心が勝って、すぐ下の詳細ボタンを押してみる。


『購入ありがとうございました。明日到着予定です。』


僕は頭を抱える。やらかしてしまった。対中二病用ワンクリック詐欺だったようだ。


「まあ個人情報とか入力していないから大丈夫か。」


いままでもワンクリック詐欺は見たことあったし、実際情報を入力しない限りは何も起こらなかった。だからその時もすぐにブラウザバックをして、数分後にはそんなことがあったことさえ忘れてしまっていた。


次の日仕事から帰ると家に綺麗な包みが届いていた。送り主は空欄で、あて先は確かに自分である。

少し戸惑ったものの、しかし開けてしまうのが人の性、と自分の中で言い訳しながら包みを開けると中には1冊の分厚い本が入っていた。表紙は昨日まさに購入してしまったらしい本の表紙と酷似している。


「うわぁ。」


完全にやらかした、昨今のワンクリック詐欺はこんなにも巧妙なのか、なぜ住所が知られたのか。

とにかく自分の危機管理能力のなさを呪った。愚かすぎる自分を呪う。


どうしようか、クーリングオフと言うのはこの場合適用できるのだろうか、と考えを巡らせたものの、いったん思考を止め目の前の本を見た。


ちょっと手元の本には興味がある。


本の表紙は読めない文字で何か書いてあるようだ。しかし、僕の知らない言語だった。しかし、そんなものこの世に山ほどある。


おそるおそる1ページ目を開いてみると前書きのようなものが書いてあった。



『この本には私が知りうる、私たちのすべてをできる限りもれなく記述したつもりである。それは私たちのようなものを救い助けるためだけではなく、どう生きるかをこの本を読むあなたに託すためである。どうか争いのない、私たちやそうでない人たちが幸せに暮らせる世界を作りだす勇者となって欲しい。あなたのできることはあなたしかわからない。―――ロアン』



なんだかよくわからないことが、書いてあった。


文章が日本語で書いてあることに驚きつつも読み進めるとその下に、


『この本をロアンと勇者に捧ぐ。』



と前書きとはうって変わって拙い字でそう書いてあった。


その以降のページは白紙だった。



「詐欺本詐欺か。」



パラパラとめくっていったがどのページも白紙であった。



なんて乱暴な詐欺なんだと思いつつ、最後のページをめくろうとしたときだった。


本が突然まばゆく光りだしたのだ。


驚いて思わず本を落としたが、光は収まらない。あまりのまぶしさで目を開けていられずどうすればわからないままいると徐々に光が収まっていった。数秒くらいだったろうか。




目を開けたとき僕は雪原に立っていた。




あたりは夜であるようで月明りのみが雪原を照らしていた。

凍てつく風が吹きつけた。


「え、寒っ、冷たっ」


何が何だかわからなかった。


とにかくはだしで雪の上に立っていられなかったので羽織っていた上着を脱いで地面に敷いた。寒いより冷たい方が耐えられなかった。


周囲を見渡したけれど、足跡もなく真っ白な雪原が広がるだけであった。


茫然としていたがしばらくして、月明りに慣れてくると、どうやら目の前の雪がこんもりとしており何か埋まっていることに気が付いた。

とにかく手掛かりにならないか、と思い「何か」掘ってみた。


結構な時間をかけて素手で50cmほど掘ったところでそれが石碑だとわかった。



書いてあるものは、おそらく文字なのだろうが、しかし全く読めなかった。つまりは徒労に終わってしまった。



「なんなんだ、どうすりゃいいんだ」



唯一の手掛かりもなくなり、僕は赤らんだ手をどうにか温めようと上着の上に丸まって縮こまった。


「寒い」


はだしで雪の上を歩くことも出来ずに丸まったままいると雪の上に敷いていた上着の下に何かあることに気が付いた。



めくってみてみるとそこに本があった。表紙には相変わらず意味の分からない言葉が並んでいる。



火を起こせれば、この本を燃やして暖を取ることができるかもしれなかった。

しかし、自分に火を起こす技術はなかった。できることといえば本を抱えてまた上着の上に丸まって縮こまることだけだった。



「嫌だ、絶対に死にたくない。」



もうだいぶ体も芯から冷えてきていた。思考も鈍ってきているのが自分でもわかった。



「そうか夢だ」



そう、これは夢なのだ。


そう思ったら気が楽になった。

次第に意識が遠のいていった。




そして次に目覚めたとき、この小屋のようなところにいた。




状況からしてきっとこの本に何かある。

むしろこの本しか残りの手掛かりはないのだ。


僕は本に注意を向ける。



前書きとその下の『ロアンと勇者に捧ぐ』には変化はなさそうである。さらにページをめくってみると何やら目次のようなものがあった。


これは前回見た時はなかった。


これは、と期待して、目次の後のページもめくっていくとやはり白紙のままであった。


「だめかぁ」


目次のページを開きなおし書いてある項目を指で追ってみる。

目次だけ見るにどうやら体の臓器についての本らしい。

肝心の本文はないのだが。



そのとき本のページが淡く光ったような気がした。


不思議に思い光ったページを見てみると、新たな文章があった。


文字は日本語のようで安心する。内容は体の臓器、特に腎臓についてみたいだ。


その後も試行錯誤を続けてわかったが、どうやら目次に触れるとその項目が出てくるらしい。


ほかの項目に触れるとそれは消えてしまう。


どうやら人の体についてのことが書いている解剖書のようだった。


しばらくいくつかの項目を見ていると老人が帰ってきた。老人の持つ棒には真っ白いウサギが括り付けられていて、少女と犬はきゃっきゃと喜んでいた。


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