14 本の本領
雪が解け、春がやってきたころ、ニナは熱を出した。
体調は一週間ほど経ってもちっとも下がらず、ニナは日に日に弱っていった。体の節々が痛むようで、まるで僕が前世でかかったインフルエンザのようだった。
それでもご飯食べさせたりやお水を飲ませたりする以外に僕のできることはなく、ガローもこんなことは初めてのようでとても困っていた。
彼女の熱が出てから10日ほど経ったとき、ガローは町に行くことを決めた。町でミラレスから薬を買ってくるのだ。町には医師のような役割のものはおらず、薬屋からその症状に効く薬を買うことがこの世界では一般的らしい。一部に治癒士なる職業があるらしいが、それは高い地位の人たち専属の体調管理をするために食事を考えたり必要であれば薬を出したりする人たちをそう呼ぶそうだ。
ガローは僕にニナの看病を任せて、雨の中、出掛けて行った。
普段とても元気である分、寝込んで苦しそうにしているニナを見るととても心配になる。
ガローが出発した翌日、ニナを看病しているとき、ふと、本に何か手掛かりはないかと思い至った。臓器のことしか書いていないが、もしかしたらその中に今回のニナの症状の手掛かりがあるかもしれない。
そう思ってニナのそばに座り本を見る。
しばらく本を読んでいると、ニナが何やら「うぅ」とうなった。熱で苦しいのか、いやな夢を見ているのか、なんにせよどうにかしてあげたくて彼女の手を握る。
彼女はこわばった顔を少し緩ませたようにみえた。
そんな彼女を見て、彼女が死んでしまうのは絶対に嫌だと思った。僕の初めてできた家族なのだから。
ふと彼女の白い腕を見ると、赤いあざのようなものがあった。なんだろう、腕にこんなあざいつできたのだろうかと、訝しんでいると本が光っていることに気が付いた。
僕は急いで本を開く。
すると目次の上に『診断』という文字が赤く表示されていた。ためらわず、押してみる。
『対象を解析、診断中です。』と表示された。
5秒ほどたった後、診断の文字の下に『発熱』『スピロヘータ感染症』という文字が現れた。
そして目次には『発熱』『スピロヘータ感染症』の項目が増えていた。
わけがわからなかったが、とりあえず手当たり次第にそれらの項目を押して記述を読む。
『スピロヘータ感染症』
どうやら、なにかの感染症についての記述である。僕は目を皿にしてその中に何かニナを救う手掛かりがないかを探した。
しばらくしてそれらしきものを見つけた。
記述の中で光っている部分があったのだ。
どうもライム病という病気についてらしい。今のニナに似た症状が出るものだった。
『「ライム病」
スピロヘータ科ボレリア属の細菌Borrelia burgdorferiなどがマダニ科マダニ属のダニ(本国ではIxodes persulcatusが多い)を媒介して感染することで生じる疾患である。症状はステージⅠ、Ⅱ、Ⅲに分かれている。ステージⅠは感染より3~14日ほどの潜伏期間を経て発症し、倦怠感、頭痛、発熱、そしてマダニ刺咬部を中心とした遊走性紅斑を乗じる。未治療であると数カ月~数年でステージⅡ、Ⅲに移行し、場合によっては死に至る。ステージⅡは……』
どうやら彼女は感染症で熱を出しているのかもしれない。
急いで治療法を探す。
するとちょっと下にその治療法について書いてあった。
『本症は適切な抗菌薬を二週間~四週間、症状に応じて投与することで治療可能である。
薬剤は第一選択としてドキソサイクリンもしくはテトラサイクリンを使用する(小児、妊婦には禁忌)。また第二選択としてアモキシシリンがある。…』
なにやら薬で治すことができるらしいと分かったが、僕はその薬を知らないし、もちろん持ってもいなかった。薬の文字に触れると、その薬の説明や製法が出てきた。
『アモキシシリンはβ-ラクタム系抗生物質で、ペニシリン系抗生物質の一種である。細菌の細胞膜合成を特異的に阻害することで殺菌、静菌作用をもたらす。……』
それを見て僕は肩を落とす。
もしも日本にいたころならまだしも、この世界の今ここでこれらの薬を用意するには絶望的に思えたからだ。
今僕にできることはないのだ。
それでも、このニナをただただ見ているわけにはいかない。
何かにすがる思いで『発熱』の項目を見た。
以降小説上に出てくる疾患、薬剤、治療法は実際とは関係ありません。




