13 ニナの誕生日
ミラレスの店に帰ったあと、しばらくして僕たちはガローと向き合って座っていた。
「森の中の家に帰ったら、おぬしたちの剣術の練習を始める。それらはそのための道具だ。
いいか、道具は命じゃ。だから、おぬしらはそれらの道具を責任もって自分で管理すること。いいかの」
僕とニナはやや緊張した面持ちで、はい、と返事した。
どうやらそれで今日の予定していたやることが終わったらしく、まだまだ日も落ちないので、その後は三人と一匹でいろいろ町を見て回った。
看板の文字はどうにも読めなくて、何の店かわからないものもたくさんあったが、露天ではいろんなものが売っていて見るだけでも楽しかった。
途中露店で、ニナが「これジークにピッタリ」と言って変な人形を持ってきた。確かに髪や肌の色が僕に似ているかもしれないがこの人形、多分女の子だぞ。
ニナは「ジークに買ってあげるべきよ!」とガローに言うと、彼は頷いて店主に値段を聞いて、そのまま買っていた。
僕は受け取るとき、微妙な顔をしようとするものの、ものを買ってもらったことがなかったのでどうにも口角が上がってしまった。
ガローがこっちを見ている気がしたので、にやけていることがばれないようにそっぽを向いて、ありがとう、と言った。
ガローは僕の頭に手を乗せて、ニナはふふーん、と誇らしげだった。
人形自体は正直、作りが適当だし、なんだか微妙な出来だったが、確かに僕に似ている気もした。ちょっと愛着が沸いて、大事に鞄にしまっておいた。
その日は一日町を堪能した。
夕食のときにガローが明日、家に帰るために出発することを僕らに伝える。
ニナはぶーぶー文句を垂れていて、いじけてしまったのか、食事が終わると、ポロとともに部屋に帰って寝てしまった。僕はせめてミラにお礼をと思い、皿洗いを手伝った。
おそらく精神年齢的には下であるはずのミラに、「あらなんて良い子なのでしょうね」と褒められて、ちょっと照れ臭かった。
あんな美人に褒められたら、嬉しくないわけがない。
翌朝、ミラに見送られながら僕たちは再び森に向けて出発した。来るときは長く感じた道もなんだか帰り道だと早く感じてしまう。
「また雪が降る前に行きたい!」とニナが言うとガローは微笑んで頷いた。やったーと走り回りながら駆けているのを見ると思わず転ぶなよーと思ってしまう。
「どうだったかね、町は」と聞かれ、僕がとても楽しかった、また行きたいと答えると、ガローはとても満足そうに頷いた。
帰りも行きと同じように三日ほどかかるそうで、今日は森の中の小屋で一泊である。
小屋についてからは、ご飯以外の時間、ニナはずーと買ってもらったものたちをニコニコ眺めていた。
次の日、僕たちはやや緊張気味に森を歩いていた。行きの森の主のことがあったからだ。お姫様だけは特に気にする風でもなくいつも通り僕の前を歩いていた。
そして無事森を抜けて、少し行ったところで野宿をした。
その日の夜も、森からは獣の鳴き声がしたが、ニナは特に気にせずに寝ていた。
また今回の旅が一つ彼女を強くしてしまったのかもしれない。これ以上怖いもの知らずになったらどうしよう。
三日かけて僕らが住む家に帰ってきたときには、何とも言えない安心感があった。これがきっと実家に帰った安心感というやつなのだろう。
町への旅から帰ってきた次の日、ガローは僕ら二人に改めて、剣術の訓練について話した。
「これからは午前の時間を使って剣術の訓練を行おうと思っておる。戦やそうでなくとも獣を狩ったり、自分の身を守ったりするために剣を学ぶことはとても重要じゃ。きっとおぬしらの役に立ってくれると思う。少し厳しいかもしれないが、お互いがお互いを守るために精進するように」
僕らは緊張した面持ちで頷いた。
始まった訓練は、体力的にも精神的にも厳しいものだった。
どうやら身体能力もセンスもニナの方がいいらしく、訓練ではちっとも彼女に勝てなかった。とにかく彼女は良く見えているのだ。
僕は今日の模擬試合を振り返った。
僕とニナは相対して互いに剣を構えていた。彼女が素早く一歩踏み出す。彼女はいつも我慢ができずに先に仕掛けてくる。僕はそれをよけて隙ができた彼女に切り込もうとする。
やった、当たった、と思った矢先彼女は紙一重でそれを避けるのだ。
まるで残像を切ったように錯覚する僕はその隙をつかれて剣を入れられる。腹部に入った剣で僕は倒れこんでしまい、目の前には、ふふーん、としたり顔のニナがいた。
もう一回と僕が言うと、いいけど、負けるだけよ、と煽ってくる。
僕たちは日が暮れるまで互いに打ち込んでいた。
僕は森の主の一件で自分の無力さが悔しく、できる限り一生懸命剣術訓練をした。
はじめはガローの練習だけであったがそのうち朝にランニングと夜に筋力トレーニングを行い、基礎体力を上げられるよう自主練をするようになった。
毎日訓練に終われ、気が付くと、季節は夏、秋と巡り、三度目の冬がやってきた。
どうやらニナは誕生日が冬らしく、13歳になったらしい。この世界では特に誕生日を祝う風習がなかったみたいだが、一応僕は何か渡そうと思って、町でガローが買ってきてくれた糸で作ったミサンガ的な編み物を渡した。
僕から何かもらうのが新鮮なのか、誕生日にプレゼントをもらうのが初めてなのか、わからないが、ニナはぴょんぴょんと喜んでいるようだった。




