第13話・HERO ③
「バベルの壁にヒビが入って、 " 外の空気 " が入ってきてるだとぅ?」
バベル99階層。
そこにいた男は、報告にそう問い返した。
「はい!!原因は不明ですが、32階層の壁にヒビが入り、 " 外の空気 " が入ってきたことで、呼吸困難者や、意識不明者などの被害が急増しています!!直ちに修理をお願いします!!」
報告者は、そう返した。
" 外の空気 " は、第三次世界大戦の後からは時間経過とともに汚染が進んでおり、人間が吸うと意識が朦朧とし始め、多量を吸うと死に至るものにまでに悪化していた。
「まいったな…。こんなめんどくさいことに今は時間をかけてられんが…。まあこれに対応せんと、批判を浴びてしまうからなぁ。」
男はは、事態の深刻さに大袈裟にため息をつきながらも、指示を出しはじめた。
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〈事態を沈静化させろ。〉
命令を受けたリーメイたち、32階層駐留の『軍隊』は現場に急行したが、 " 外の空気 " を前に、必死に中にいた人の保護を始めた。
不幸中の幸いというべきか、 " 外の空気 " は32階層の南西部の、バベルの壁に接したとあるドーム内に広がっており、バベル内にはそれ以上広がってはなかった。
息を切らしてドームの中から出てくる人たち。
その大半は、リーメイよりもさらに小さい、幼稚園児くらいの年齢のこどもばかりであった。
疑問を覚えながらも、リーメイたちは保護にあたる。
「おにいさんたち、まだわたしのいもうとがあのなかのへやのひとつにいる!!!たすけてください!!おねがいします!!!」
事態発生から20分。
あらかた保護が完了したと思っていた頃、『軍隊』のもとに1人の少女がやってきて、そう懇願した。
リーメイが少女に話を詳しく聞くと、
どうやらかなり奥まったところにその部屋はあり、まだ " 外の空気 " は多分達してはいないけど、それも時間の問題であるらしい
ということであった。
「どうして一緒に逃げてこなかったの?」
そうリーメイが聞くと、
「いもうとはぜんそくではしれなくて…
わたしがいもうとに、たすけをつれてくるってやくそくしたの。おにいさん、おねがい!!
いもうとをたすけてあげて!!」
そう少女は涙ながらに語った。
どうやら喫緊の問題である。
すぐにリーメイは行動を始める。
「おいっ!!ちょっと待て!!まさかお前はあの中に入るつもりかっ!?そんなん死にに行くようなもんだぞ!!」
少女に聞こえないようではあったが、ベルダンディが鋭く低い声でリーメイを問い詰める。
「今ならまだ助けられるかもしれないだろ。
…何よりも俺は、ヒーローだからな。」
「お、おい!!リーメイ!!待てって!!一個分しかこのバベルになかったが…。万が一助けられなかった場合のことを考えて、お前だけでも助かるようにこれを持ってけ!」
走りかけていたリーメイは、ベルダンディの叫び声にはたりと足をとめ、一瞬ベルダンディの目を見たあと、差し出された酸素吸入器を受け取る。
入ってすぐ、リーメイは手でハンカチで口元を覆う。
もし " 外の空気 " とかち合った時にこれで何とかなるとは思ってはいないが、一応念のためである。
幸いにも、 " 外の空気 " はうっすらと白みがかっているので、把握はしやすい。
教えられた通りに進む。
(…しかしここはどういう施設なんだ?やたらこどもが多かったように見えたが…)
心の中でそう呟く。
10分後、その部屋に辿り着く。
ドアはテープか何かで固定されていた。
どうやら中にいる妹が何とかこの時間につけたらしい。
ドアを蹴破ってリーメイは中に入る。
目の前には、先ほど助けを求めた少女と全く同じ顔の少女がいた。
「双子か…。」
リーメイは入って早々、そう呑気に呟く。
「あ、あなたはもしかして、わたしをたすけにきてくれたんですか!?うぅっ…、ほんとうにあびがどう!!」
少女が泣きながら言葉を発する。
姉を信じていなかった訳ではないが、1人でこの地獄にいたのは、相当な苦痛だったに違いない。
「僕がきたからもう大丈夫。さあ、背中に捕まって!」
リーメイはそう言うと、少女に肩を差し出した。
少女は肩に乗りながら不安そうに尋ねる。
「 そとのくうきがはいってきてから、じかんすごくたってるし、ここはいちばんおくのへやだけどだいじょうぶなの?」
その質問に、やはりリーメイはこう答える。
「大丈夫さ。なんて言ったって、俺はヒーローだからな。ヒーローは皆を救う正義の味方さ。」
そう言って少女にニッコリと笑った。
次回、「HERO」編完結です。
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