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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
9月
71/126

4 準備

 次の日のホームルームでは誰がどの競技に出場するのか、その話し合いが行われた。男女それぞれ競技の内容が違うため、分かれてだけど。海さんは女子ではあるものの、昨日言っていたように、男子側に入ることとなった。

 体育委員の浦園くんが話し合いの中心になって、1時間もかからずに僕らは誰がどの競技に入るのかはある程度決まってしまった。

 クラスではすでに体育祭でどんな戦法で戦うかとか、そんな話で盛り上がっている。僕は2人3脚に出場することになったんだけど、ここで問題が起きてしまった。男子にしては平均身長より低い僕と並べる男子がいなかったのだ。

 徹くんが僕の頭に肘を置いてせせら笑うように言った。


「体育祭まで牛乳飲みまくれば?」


「んな無茶な」


 その肘を払いつつ、僕は自分の頭に手を置く。どうしてもっと高くないんだろう。徹くんまでとはいかなくていいから、せめて平均身長くらいは欲しい。150センチ程度なんて、いくら中学3年生の男子でも低すぎるったらない。

 ハァ、とため息をついた。


「雪と身長的にちょうどいいのは遠藤だよな」


 浦園くんはクールな瞳をしながら海さんに視線を送った。そういえば彼女も、2人3脚の補欠としてエントリーすることになっている。


「海さんの身長っていくつ?」


 女子と身長を比べるなんて我ながら情けないけど、この際だから仕方ない。僕は期待を込めて海さんを見た。

 彼女はぼーっと窓の外の景色を眺めていた目をこちらに向けて、「150」と答えた。


 瞬間の僕の言葉は「勝った!」だった。


「テン、5」


「…………」


「ねぇ雪くん、テンいくつ?」


 勘弁してほしいと思いながら、僕は頭を抱えた。


「……まあとりあえず、雪と遠藤さんを組ませるか」


「お、お願いします……」


 ますます惨めな気持ちになっていくけれど、こればかりは仕方ない。明日から牛乳1リットル飲もう。


「すみません」


 そのとき、教室の前ドアから他のクラスの男子が顔を見せた。すぐにドアの近くにいた戸田さんが対応する。しばらくして2人で色々話していたみたいだけど、やがて戸田さんはその男子に背を向けて何故かこっちへ歩き出した。


「体育祭の準備をするのに人手が足りないみたいなの。男子2人くらい来てくれないかって」


「ああ、そういうこと」


 林道くんが僕らを見て、「誰か」と言ったのを徹くんが手で制した。彼は僕とその隣にいる海さんを見る。


「ちょうどいいから2人で行ってきなよ」


「え?」


「は?」


 僕も海さんもきょとんとする。徹くんが後ろにまわって僕らの背中を強く押した。


「2人3脚で一緒に走るんだろ? 息合わせるために常に一緒に行動しとけ」


「わわっ」


 僕と海さんは顔を見合わせあう。


***


 どのクラスも体育祭の準備を始めだして忙しいのか、慌ただしく廊下を行き来しているのが目立った。特に3年生は中学最後の体育祭だ。最高の思い出を作るために、誰もが一生懸命なのだろう。


 案内役の男子生徒を先頭にして、僕、ちょっと後ろに海さんがついていく。男子生徒は何も言わない。後ろの海さんも何も言わない。そうなれば僕も必然的に黙るしかない。3人で騒がしい廊下を静かに歩き続けた。

 体育倉庫は体育館のすぐ脇にあって、そこを通り過ぎると中庭へとつながっている。

 少しだけ開かれた体育倉庫のドアから、僕らの先頭を歩いていた男子生徒が入り、僕と遠藤さんもそれに続いた。中は少しじめじめしていて、土やほこりなどのにおいがひどく、とにかくとても暗い。その闇がどこまでも続いていくように感じられて、僕はひそかに身震いした。

 後ろで海さんがため息をつく音が聞こえた。


「あっれ、おかしいな」


「どうしたんですか?」


 首をかしげる男子生徒に僕は聞いた。


「他のクラスにもちゃんと招集かけておいたんだけど、まだ来てないみたいだ。ちょっと待っててくれ。もう一度呼びに行ってくるから」


「あ、はい」


 男子生徒はくるっと向きを変えて、体育倉庫からでていってしまった。

 あとに残されたのはもちろん、僕と遠藤さんの2人。暗い室内で僕らは静かにしていた。

 何か話すべきだろうか。海さんはさっきから珍しく何も言わないし。さっきから、は何だか変な言い方だな。最近は、かもしれない。

 最近、特に2学期になってから海さんは様子がおかしい。ぼーっとすることが多くなったし、今日の体育祭の話し合いだってあまり真面目に聞いていなかった気がする。授業中も寝ていることが多くて、数学の的場先生に怒られているし。


 ああ、それにしてもただでさえ残暑が厳しいっていうのに、暗くじめじめした倉庫ってじっとしているだけでも暑いな。

 外で待った方がいいのではないだろうか。


「海さ」


 振り返った僕は、驚いてその場に硬直した。


 海さんの頬や首に、たくさんの、尋常ではないほどの汗が流れていたのだ。胸を苦しそうにおさえながら、はぁはぁと息を乱して、顔なんて土気色だ。


「どうしたのさ!」


 暗い体育倉庫で僕の声が反響する。しかし、海さんはそれには答えず僕から目をそらした。


「そ、外に出よう!」


 海さんの手をとる。汗まみれだというのに、その手は異常なほどにひんやりとしていたことに驚きつつ、彼女を引っ張って外に出ようとしたそのとき。


 体育倉庫のドアが突然閉じられ、がちゃんと鍵がかけられる音が響いた。

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