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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
5月
12/126

11話 永井コノハ3

「もうすぐ修学旅行だね」


 放課後の掃除の時間中に、篠田がそんなことを言った。

 今日もいつも通りらしい日だった。ああ、昨日は本当に非日常だったのかとか思いながら、僕は黒板の汚れを濡れ布巾で綺麗にしつつ、篠田の言葉に「ああ、そうだね」とぼんやりと返した。


 その直後、僕の手から濡れ布巾が消えてしまった。驚いて消えた方向を見ると、そこには両頬を思い切り膨らませて、腰に両手を添えた篠田が仁王立ちしている。


 何か余計なことをしただろうか。


「な、何?」


「もしかして今の話、聞いてなかった?」


「修学旅行の話、だよね?」


 確認のために聞くと、篠田は「そうだよ」と答えた。


 なんだ、あっているんじゃないか。


 僕は少しホッとする。

 けれど篠田は、それでも膨らませたままの両頬をすぼめることなく、「雪ったら上の空!」と怒鳴った。


「そ、そうかな……」


「そうだよ!」


 僕は両腕を組みながら、う~ん、とうなる。


 たしかに今日はどっちかというと上の空だったかもしれない。というか思えば、正確には昨日の放課後あたりからだと思う。昨夜、どうやって家に帰ったか、そして夕飯を食べたのか、果たしてお風呂に入ったのか。それからちゃんとベッドに入って寝たのかどうか、僕はあんまり記憶になかった。

 考え事をしすぎていたのだと思う。


「ごめん、篠田」


「別に謝る必要ないけどさぁ」


 篠田はもう一度、「修学旅行、楽しみだよね?」と言ってきた。

 僕はうなずく。

 楽しみかどうかって言われたら、それはもちろん楽しみだ。普段仲の良いクラスメイトと一緒になってでかけてお泊りをする。楽しみでないわけがないのだろう、たぶん。


 けど、昨日の今日で色々引っかかることがあるから、修学旅行のことについては、少しばかり後回しになっていた。


 篠田はそれでも僕にいぶかし気な目を向けて来るから、僕は「ほんとだよ、ほんとに楽しみだから!」と必死になる。


 篠田はふぅっと息をついて、気を取り直すように明るい声で「明日から、班決めだよね」と言ってきた。


「そうだね」


 篠田は僕の濡れ雑巾片手に、「楽しみだなぁ」とくるくるその場でまわった。よほど修学旅行に行きたいのだろう。

 篠田は「あ、そうだ」と何か思いついたようにまわるのをやめると、僕のほうを再び向いた。


「私と同じ班になろうよ、雪!」


「いいよ」


 言いつつ僕は、彼女の手から雑巾を奪い返して、掃除の続きを始めた。


「雪ぃ~」


「え、な、何?」


 何故か篠田が恨みがましそうな顔でこちらを見ている。僕はわけがわからずきょとんとするしかない。

 篠田がまた怒鳴る。


「真面目に聞いてよぉっ!」


「えぇっ!?」


 こう見えてちゃんと真面目に聞いていたはずなんだけど……。

 思わず固まってしまう僕に、ケラケラ笑う声が聞こえた。

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