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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
11月
100/126

8話 配役3

 そのあとクラスメイトが続々と登校してきて、僕は徹くんに充分からかいの的にされたというわけだ。

 一方で衣装担当の竜ケ崎さんが、「どうしてゆっきーがヒロインじゃないの!?」と何故か須藤さんに詰め寄っていた。竜ケ崎さん、僕は正真正銘の男なんだけど、男が女の服を着るのはだいぶあれじゃないか?



「遠藤さんのほうが騎士役似合いそうだよね」



「篠田まで……」



 まあたしかに僕は海さんに助けられてばかりだし、僕が騎士の役をやるよりは海さんが適任だとは思う。思うけど、僕にだって意地がある。この際、主人公云々で不満を言っている場合ではない。男役ならいいや、男役なら!

 放課後になると、練習が始まった。まず最初に配役の見直し。誰が誰の役とか、そういうのをもう一度おさらいするのだ。まだ自分の役しか目を通していなかったから助かった。



 海さんが「ヒロイン役なら杏子が適任じゃないか」とまだ自分のヒロイン役が受け入れられないのか、最後まで須藤さんに意見をしていた。

 たしかに赤石さんはドラマの出演歴だってある。来年春にはとある有名な映画監督が作った映画でヒロイン役に大抜擢されたとか、そんなことをテレビで見た気がする。

 けど結局、海さんの最後の抵抗は赤石さんの一言でむなしくも崩されることになる。



「事務所のほうからNG来てるの。いくら文化祭とはいえ、目立ったことはしないようにって。キャリアに傷がついちゃうとかで」



「杏子はほんと大変そうね」



 藤堂さんからのねぎらいに「そんなことないよ」と返して、赤石さんは笑っていた。一方で、海さんはめちゃくちゃ落ち込んでいた。けれどどうすることもできない。頑張ろう、海さん。僕もなんだかよくわからないまま、主人公役を演じることになってしまったんだし。そう心の中でなぐさめておく。

 続いて、須藤さんが自ら作り上げてコピーしてきた台本が全員に渡される。一通りの内容が須藤さんの口から説明された。



 主人公の「騎士」は住んでいた国で騎士として生きていた。彼には仲の良い幼馴染であり、その国の「お姫様」と楽しく過ごしていた。ところがある日、国王たちをよく思わない「過激な集団」が国王とお妃を殺害、「騎士」は「お姫様」と共に国を追われることになる。

 初めて生活する外の世界。不安や戸惑い、葛藤を抱えながらも、「騎士」と「お姫様」は旅先で出会ったたくさんの「仲間」を従えて自分たちの国を取り戻すために再び立ち上がるのだった。



「これ、お姫様すっかりお荷物じゃん」



 海さんがムスッとした表情。まだお姫様役に納得がいっていないのかと思ったけど、彼女の性格上。「守られる立場」より「共に戦う立場」のほうが性に合っている気がした。そこに対しての不満だろうか。

 須藤さんが「その通りだ」と言わんばかりにうなずいた。



「うん。だからねさっき、夢くんと一緒に台本を読み合わせて、お姫様にも何か武器を取らせるべきじゃないかって話になったの」



「……遠藤はそういうほうがあってると思って」



 月野くんがボソッとそう言った。



 だから休み時間中、ずっと2人で何やらコソコソ話をしていたのか。幼馴染とはいえ、クラスではあまり見ない光景だったからちょっと驚いたんだけど。



「武器はちょっとまだ何にしようかって悩んでるから、海さんの好きにしていいわ――」



「剣がいい」



 須藤さんがすべて言い終わらないうちに海さんがそう言った。



「剣?」



「騎士役もいるのに剣必要なくない?」



 周囲がざわつく。けれど海さんは頑としてそれを譲らなかった。



「弓とか体術とかより、剣のほうが扱いなれてるから剣がいい」



 剣が扱いなれてるって……。

 どういう環境で育ったんだよ、と思わず突っ込みそうになったけれど、そういえば夏休みに赤石さんのストーカーと撃退したとき、竹刀持っていたような気がするな。

 刀と剣じゃ扱いがだいぶ違うとは思うんだけど、どうなんだろう。



 須藤さんは「わかったわ」とうなずいて、さっそく台本に何やら書き込みをした。



「そしたらまだ書き直さなきゃいけない部分あるだろうから、とりあえず冒頭から『国を逃亡するところ』までをやってみましょうか」

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