第6章 そして
あのあと、すぐに退学した。退寮もした。この間、由美さんに顔を合わせることはなかった。
合わせる顔もなかったので、ちょうどよかったのかもしれない。
自分は女子になりたくて女子校に行ったはずなのに、雄として戻ってきた。そんな自分が嫌になった。
あたしが退学した後、「だからトランス女子って」「しょせんは雄なんだ」のような声が保護者で溢れていたと聞いた。自分でいうのもおかしいけど、全くその通りだと思う。
そして、その事実をつきつけるしかない自分が、本当にいや。
由美さん....その後一度も顔を合わせていない。連絡先も変えたらしく、連絡がつかない。
嫌いになったわけではないけど、合わせる顔がない。
悩んだ挙げ句、固く決意した。本気で女子になる!男子を捨てる!
通信制の高校に編入した。トランス女子としてアウティングし、堂々とした。トイレなどの対応は、先生とも徹底的に話し合った。同級生の反応にも耳を傾け、一人一人ときちんと話をした。
学校の勉強と並行して、徹底的に情報を集めた。「オトコの娘」「トランスジェンダー」「ニューハーフ」「性転換済み」について。そして、いろんな人と接触を試みた。未成年で参加できそうな集会には、できるだけ顔を出してみた。夜の商売をしている人たちにも接触を試みた。何人かは話を聞いてくれた。
アルバイトをしながらお金を貯めた。ジェンダークリニックを受診した。ホルモン治療を始めた。下半身は、睾丸だけ除去した。次第に自分の体つきが変わってくるのを意識した。豊胸手術もした。
お姉ちゃんには、洋服や化粧の相談をたくさんした。買い物もしょっちゅうつきあってくれた。
学校にも、状況は都度報告していた。周囲も、あたしが性別移行中と認識していた。みんなが好意的に見てくれてたかは知らない。何人か、親しくしてくれる友達もできたので、安心していた。
制服のない学校ということもあり、自分でいうのもなんだけど、女子の中では平均より少し上のレベルで、おしゃれをしていたと思う。
そして2年生の終わりごろ。高校の、一つ上の先輩、明人さんから、突然告白された。学年を越えて受講できる移動授業でときどき見かける、男子の先輩。あたしの学年の女子の間でも、結構話題になっている、長身の先輩。びっくりした。なぜあたし?あたしでいいの?
明人さんとは、一度デートをすることになった。今後どんな関係に発展するのかわからないけど、とにかく応じてみることにした。なぜかお友達からも応援された。
待ち合わせの日。途中で由美さんに似た人にすれ違ったような気がした。由美さんとのことは、思い出さないようにしていたけど、少しだけ思い出してしまった。
由美さんは、あたしのあこがれだった。あんな女性になりたいな。一挙一動が、あたしの理想だったし、同じ体験ができたらと願っていた。身体を重ねたときでさえ。
あれは、恋愛じゃなかったのかもしれない。今になって、そう思う。
でも改めて思った。由美さんみたいなすてきな女性になりたいと思っていた、当時の思いの方向性は、変わっていない。知らず知らずの間に、雰囲気が由美さんに近づいたかもしれない。あらためて、当時お姉さんとおつきあいさせてもらったことを、心の中で感謝した。
そして、由美さんのことは、頭から追い出した。「あのあとどうされたのかしら?」気にしてないわけじゃないけど、もう考えない。
そんなことを考えていたら、明人さんが来た。
「やっと来た!今日は明人さんに全てを任せるわね!」
ちょっとオーバーに反応してみた。これから彼氏になるかもしれない人に抱きつきながら。
「三日間のダンジョン」にでてくるエピソードの裏設定をベースに、話を膨らませたものです。極力ソフトな表現に押さえたつもりですが、かなり生々しい設定を含みます。公然と語られることも多くない領域になろうかと思いますし、感じ方はいろいろと別れるかと想像しています。率直な感想をいただければありがたいです。終盤「由美を妊娠させた」ことについて、結希がどう思っているのか、どんな行動をしたか?その辺を深め切れなかったのは、ひとえに作者の限界です。




