表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いを受けた精霊使い、魔法が効かない剛腕少女と旅をしたら世界がバグりはじめた 〜ゼリアス神話〜  作者: 遠崎カヲル
旅のはじまり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/18

非適合

 その日の午後、街は賑わっていた。露天の声が飛び交い、人が行き交う。通りは途切れず流れている。シュレムはその中を、サリエナと並んで歩いていた。

 

 通りの中で、人の流れが一箇所だけ止まっていた。周囲の人間がわずかに距離を取り、そこだけ空間が空いている。

 

「……なんだ?」

 

「……変」

 

 視線の先に、神官服の男が立っていた。商人と話しているが、背筋は伸びたままで、動きに無駄がない。シュレムは目を細めた。

 

「エルヴスだ。こんな所に珍しいな」

 

「……エルヴス。よくわからない」

 

 サリエナが首を傾げる。

 

「神殿の中枢にいる連中だ。接続も管理も、全部あいつらが握ってる」

 

「……ふーん」

 

 突然、エルヴスの男の動きが止まった。男の視線が動き、サリエナに向く。そのままサリエナを見つめ続けた。

 

 ——長い。

 

 次に、シュレムへ視線が移った。わずかに止まり、すぐ外れた。

 

 男の口がわずかに動く。

 

「……不整合だ」

 

 それだけ言うと、二人から視線を外し、そのまま会話に戻った。シュレムは歩みを止めなかった。

 

「……なんだ、あいつ」

 

「……変」

 

 二人はそのまま歩き続けた。

 

 


 旅をしていると金が減る。

 サリエナと旅をしていると、金の減りが余計に速い。食べる量が尋常じゃないからだ。

「抑えてる」とは本人の言葉だが、シュレムから見ると呆れるくらいよく食べる。

 外食の時、基本は割り勘だが、サリエナを気遣って、シュレムはいつも多めに金を出していた。

 

 二人は簡単な仕事を請けることにした。

 

「厳しいわけじゃないが、備えあれば憂いなしだ」

 

 シュレムは言った。

 

「荷物運びと修繕作業で、一日こなせばそれなりになる」

 

 サリエナと一緒の荷物運び。普通の男なら二人がかりの荷物を、サリエナが持ち上げる。

 

 片手で。

 

 シュレムは何も言わなかった。もう慣れていた。

 

 

 修繕作業の最中だった。ガリッという音とともに、サリエナの腕に釘が掠った。浅い傷だったが、血がにじんだ。

 

「……おい」

 

 シュレムは思わず声をかけた。サリエナは血がにじむ腕をちらりと見た。

 

「……別に、なんでもない」

 

 そう言うとすぐに作業にもどった。本当に気にしていない顔だった。

 すると、近くで作業していた男が駆け寄ってきた。

 

「水の精霊魔法が使えますから、すぐ治りますよ」

 

 サリエナの傷を見て、男はそう言った。

 

「俺は癒し系の魔法が使えないから、助かる。頼むよ」

 

 シュレムがそう答えると、男が詠唱を開始した。

 

「我が名はアウグスト。水の属性を持つ建築ギルドの大工。ゼリヴィアよ、我は今そなたの力を必要としている。規定に基づき、接続許可を要請する」

 

 男の精霊感知環シグナルバンドがぼんやりと青く輝く。

 

「よし接続しました。魔法実行命令——血を巡らせ傷を塞げ。対象は目の前の腕」

 

 言いながら、男はサリエナの傷に手をかざす。男の手のひらが淡く輝き、サリエナの傷を照らした。

しかし、何も起きなかった。

 

「……あれ?」

 

 男は首を傾け、もう一度詠唱した。しかし、変化はなく、傷はそのままだった。

 シュレムは自分の手首を確認した。シグナルバンドの表示は二本。シグナルは安定している。古い構文だが、コマンドにも問題はない。

 

「……シグナルは正常だな。コマンドも通ってる」

 

 シュレムは呟いた。システムの問題ではない。ならば原因は……?

 シュレムはサリエナを見た。

 

「……?」

 

 サリエナは何がおかしいのかわかっていない顔をしていた。

 

「す、すみません、調子が悪いのかもしれなくて……」

 

 男は気まずそうにそう言った。

 

「気にしなくていい、助かった」

 

 シュレムはそう答えて、その場を収めた。

 


 

 午後になって、別の作業が入った。建物の屋根を修繕する仕事だった。足場を組む時間を省くために、風の精霊使いが浮遊魔法で人を持ち上げる段取りになっていた。

 

「そっちのお姉ちゃんも頼む」

 

 作業の親方が言った。風の精霊使いが詠唱して、浮遊魔法をサリエナへ向けた。しかし、何も起きなかった。

 

「……おかしいな」

 

 精霊使いが首を傾けた。もう一度詠唱した。さらに、もう一度。やはり何も起きない。サリエナは地面に立ったまま、ほんの少しも浮かばなかった。

 

「姉ちゃん、もしかして重いのか?」

 

 作業員の一人が笑いながら言った。サリエナの表情は動かなかった。しかし、ゆっくりと拳が握りしめられていくのをシュレムは見た。

 

(やばい。あいつ、怒ってないか?)

 

 シュレムは悪い予感がした。

 

 その時だった。サリエナは軽く膝を曲げると、そのまま跳んだ。ドンという音を残して、屋根まで一気に跳び上がって、着地した。

 作業場が静まり返った。

 

「……ここ?」

 

 サリエナが上から聞いた。

 

「……あ、ああ、そこだ」

 

 親方が震える声で答えた。シュレムは何も言わなかった。

 

 

 仕事が終わって宿へと歩きながら、シュレムはサリエナに聞いた。

 

「……お前、回復魔法がかかったことって、あるか?」

 

 サリエナは少し考えた。

 

「……ない、たぶん」

 

「浮遊魔法は?」

 

「……ない」

 

「他の魔法は?」

 

「……ない」

 

 答えはすべて同じだった。シュレムは歩きながら、頭の中を整理した。

 

 火球を素手で払った。拘束魔法が効かなかった。回復魔法が効かなかった。浮遊魔法が効かなかった。シグナルも接続も正常だった。術者の腕にも問題はなかった。

 

 つまり、こいつには——精霊魔法が、通らない。

 

 サリエナの異常が確定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ