客人
「ひ、酷い目に遭った⋯⋯」
結局後半は、羽を生やして空中散歩に連れまわされる羽目になった。今も世界が回っているような気がする。
「ごめんって~。でも、あの人多分めちゃくちゃ強いから、ああでもしないとすぐに追いつかれていたよ。なんなら、今もどこで見てるのかもね~」
「うえ~⋯⋯。怖いこと言わないでよ」
あんな形相の人が今も私達を追っているのだとしたら、なんて考えただけでも身震いがしてしまう。
「というわけで、そんなこわ~い人に見つからない為にも、早く非難しよう。ほら、入ろう、シャナ」
「う、うん⋯⋯。けど、ここ⋯⋯」
(シュヴィの店じゃん⋯⋯)
***
「シュヴィ、居る?居るでしょ?さっさと出てきてくれる?」
レレルの声が、静かな店内に響き渡る。すると、店の奥から、先日ぶりの店主が顔を現した。
「レレル、お店では静かにしなさいと言わなかったかい?」
「そうだっけ?緊急事態だったからさ、今回限りってことで見逃してよ」
「全くもう。⋯⋯それで?一体何の用事?客人を待たせているんだけど」
「客人?」
私が復唱すると、シュヴィは困ったように眉を顰めた。
「うーん。貴女も来てたんだね」
「え?な、なに?私が居たらなんかまずいの?」
恐る恐るそう聞けば、彼は額に手を当て、深く考え込んでいる様子を見せた。
「まずいと言えばまずいけど、まだ挽回のチャンスはあるって感じかな。どうする?今、貴女が頑張れば、この状況をなんとか出来るかもしれないし、失敗すれば、この世界でもすぐに死んじゃうことになるかもしれない。ハイリスクハイリターンってやつ?」
なんて、可愛らしく首を傾げて笑う。なにが笑いごとだ。
「⋯⋯とにかく、その客人と話せってことでしょ?んで、私がここでその人をどうにか出来たら、今のこの激ヤバ状況をどうにかできるかもって感じ?」
「そうそう。まとめてくれてありがとう。というわけで、まずはその人と話す?その後で、二人の用事を聞くよ。まぁ、この『話し合い』が失敗したら、その用事もなくなっちゃうかもしれないけどね」
「うっわ。辞めてよね。てか、そうならない為にアンタがサポートしてよ。元々はアンタのお客様なんでしょ?そんくらいは──」
「ふふふ。シャナ、禁忌犯したね」
「は?なに、禁忌ってえぇ!?」
突然、全身を焼くような電撃が私の身体を駆け巡っていく。その力はとても強く、経っていられない程だ。私の身体は、すぐに地に伏してしまう。
「なに、これ⋯⋯」
「主人に逆らった、契約に従ってびりびりするやつ。これ、主人に命令した時にも起こるんだよ。説明しなかったっけ?」
「聞いて、ないけど⋯⋯?」
「そうなんだ。まぁ、うち、奴隷販売に関しては大分違法だから見逃してってことで」
シュヴィはそう言って、私の背中に足を置いた。身体が上から押し潰されるような感覚が気持ち悪い。
「ぐっ⋯⋯!」
「本来さ、奴隷ってこういうもんなんだよ。僕が優しいから、貴女はこんなことされていないんだよ。よーく覚えておいてね」
更に力を込めて、シュヴィは私を踏みつけた後、長い足を私の背中から下ろす。その重みが無くなったのを感じた私は、ゆっくりと身体を起こした。
「シャナ!大丈夫!?」
「う、うん。平気⋯⋯」
レレルに支えられながら、なんとか二本の足で立ち上がる。そして、落ちてしまったフードをまた被り直した。
「シュヴィ⋯⋯!」
「レレルの言いたいことは分かるけど、これ以上は聞けないな。言ったでしょう?お客様が待っているって。だから、続きは後でやろう。ほら、行くよ」
有無を言わさないといった様子で、シュヴィはさっさと歩き出してしまう。その後ろ姿を見失わないように、私達はシュヴィの背中を追いかけていった。
相変わらず、廊下は薄暗い。
***
「お待たせしました、サーシャ・アルチェフスカ様」
シュヴィは、部屋に入ってすぐに深く頭を下げる。正面に座る少女は、テーブルに足を乗せ、偉そうにふんぞり返っていた。
「おそーい。ボクを待たせるだなんて、よほどいい覚悟が出来ていると見えるにゃ~。なにしようかな~?」
「まぁまぁ、そのお話は、是非ともこの二人にしていただけませんか?どうも、サーシャ様にお話しがあるようでして」
シュヴィに背中を押され、前に立たされる。綺麗な青髪を二つ結びにした少女は、興味が無さそうに私達のことを見つめてきた。後ろに立ち尽くしているメイドの身なりをした人は、なにか行動を起こす気は無さそうだ。
「⋯⋯おい、そっちの女の方。お前、フード外してくれる?顔がよく見えないの」
「え。で、でも⋯⋯」
いきなりの要望に、私はしどろもどろになってしまう。
「お前、ボクの命令が聞けないっていうの?」
「それは⋯⋯」
(どうしよう⋯⋯。このサーシャって人がどういう立場の人かは分からないけど、多分、異世界人を探してそうだよなぁ⋯⋯)
どうしたものかと頭を悩ませていると、レレルが私の肩を軽く叩いてきた。そして、「任せて」と声を出さずに口だけ動かす。
「⋯⋯申し訳ございません、サーシャ様。彼女は現在、顔に大きな傷を負っておりまして。サーシャ様にお見せできるような状態じゃないんです。どうか、許していただけませんか?」
「ダメ。ついさっき、マトローナから連絡があってね。もし、フードを目深に被っている人がいたら、フードの下確認してほしいって言われてんの。かなり激おこな感じだったから、断ったらボクが怒られちゃう。というわけで、この六大魔導士、サーシャ・アルチェフスカ様のありがたーい命令を聞ける機会だと思って、フード下ろしてくれない?」
(マトローナって⋯⋯!アイツ、王宮の奴は嫌いなんじゃなかったの!?なんで同僚に連絡してるわけ!?)
余計に目を見せるわけにはいかず、私はさらにフードを深く被る。
「ふーん?」
彼女のそんなにやけたような声が聞こえたと同時に、部屋中に強い風が吹き荒れた。
「な、なんなの急に!?」
「多分、あの人の魔法⋯⋯って、それよりシャナ、フード!!」
「は?」
レレルに言われて、私は頭を触る。私が撫でたのは、私の毛髪だった。
(さっきので落ちたんだ!クッソ!)
「あはぁ。見つけちゃった、見つけちゃった♪ボクが一番に見つけちゃった〜!どうしようかな~?」
サーシャは、ご機嫌そうに両頬に手を当てている。そんな楽しそうな彼女とは違って、私はどうしたものかと内心震えていた。
「⋯⋯さて、興奮するのはこのくらいにしとこうか。それで?真面目な話、どうする?正直なことを言うと、ボクはお前の処遇については興味がない。でも、お前という存在には興味があるんだ。現在、異世界人はこの世に二人しかいない。そんな稀少な異世界人が目の前に居るんだよ?活用しない手はないでしょ~?だから、ボクの実験体になるなら、助けてあげる。けど、お前がどーしてもボクがやだっていうなら、今すぐ王宮に連れていくしかなくなっちゃ~う。⋯⋯さて、どうする?」
サーシャは、舐め腐ったような瞳で私を見下ろす。
(⋯⋯あぁ、なるほど。頑張ればどうにかなるの意味分かった気がする。確かに、これならどうにか出来るかも)
「さぁ、選べ。異世界人、バンバ・シャナ」
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